第21話 真面目な教え子

 幸の学習能力は、見ていて気持ちの良いものがあった。

 それは、やはり環境の変化によるものが大きいとラジワットも感じていた。

 そして、剣術の方は、流石に上達という訳には行かないものの、非力でなければ、案外筋は良いのでは、とも感じていた。 

 そして、ラジワットは幸と共に行動するようになって以降、やはり彼女にはある才能がある、と感じていた。

 ラジワットも、それをそろそろ証明してみたい、という考えが願望化し始めていたのである。

 それでも、毎日本当に真面目に木剣を振るう幸の手は、少女のものとは思えないほどにマメがつぶれて醜くなっていた。

 剣術の道は、一日にして成らず。

 ラジワットは、幸に剣術の他、体術も平行して教えるほうにすることで、手の負担を減らそうと考えた。

 それでも、真面目なこの教え子は、一切手を抜かず頑張るものだから、ラジワットは本日、トレーニングを休みにする、と言い出した。

 言葉も覚えたのだから、少し村を散策してくるといい、と言うと店で何か食べてきなさいとお小遣いを渡した。

 幸は最初断ったが、村の経済を回すのに、無一文で散策しては村人に申し訳ないだろ、とのことから、幸はそれをありがたく頂戴した。


 とは言ったものの、幸にとって買い物以外で村を散策する事は一度もなく、実は途方に暮れていたのである。


 これまでは、まるで保護者のようにラジワットがいつも一緒にいてくれたのに、急に突き放されたようで、少し寂しさすら感じていた。


「私はラジワットさんと一緒がいいのにな」


 それでも、雪のシーズンも終盤を迎えつつあるランカース村の情景は、日常に明け暮れていた幸に、改めてこの世界の美しさを知らしめるのである。


 冬の空に、白い息を吐きながら、幸は背伸びをした。

 懸念していたダイエットは、かなり効果を発揮し、心なしか痩せたというより、筋肉も少し付いてきて、背も伸びた気がした。

 流石にそれほど急速に背は伸びないか、と幸は思っていたが、実はこのとき、背も筋肉も本当に伸びていたのだ。

 生活環境が格段に向上したことと、元々成長期でもある14歳の少女は、春の新芽のように、今を盛りと伸びつつあったのである。


「こんにちは、あなた、ラジワット様の所の子よね」


 幸は、突然話しかけられてとっても驚いた。

 彼女の耳には、それが一瞬日本語のように聞こえたが、それは幸の語学力が上がったことで、自然と耳に入った時点で違和感が無くなるレベルに達していたのである。


 振り返ると、金髪が美しい、幸と年齢の近い少女が立っていた。

 幸は、恐る恐るその少女に話しかけてみた。


「はい、、、そうです、ラジワットさんと一緒の者です」


「わあ!、やぱり!、ねえ、あなたもハイヤー家の縁者様なの?、村の若い子達の間で、話題なのよ」


 拙い言語能力でも、案外通じるものだと幸は思った。

 それでも、この世界に来てから、初めて同姓の、それも年齢の近い少女と会話が出来た事は、幸にとって新鮮な事である。

 なぜなら、東京にいた頃も、基本的に親友の倫子以外とは、あまりい積極的に交友してこなかった幸にとって、この金髪の少女はいかにもハードルの高いオーラを放っていたからだ。

 それでも、幸はこの少女が使った丁寧語、、、「ラジワット様」という言葉、そして「ハイヤー家の縁者様」という部分に、なにか強い違和感を感じていた。


 幸は、その金髪の少女に、村の学校へ行かないかと誘われた。

 そこには、自分と同じくらいの女子生徒も沢山いるから、と。


 幸は、少しおかしな事になったと思った。

 少し村を散策する程度のつもりだったが、まさか同い年くらいの少女から声をかけられるとは思ってもみなかった。


 学校へゆく道中、金髪の少女は自己紹介を始めた。

 彼女の名前はアシェーラ・ヨウヒム、やはり14歳で、自分と同い年である。

 幸は東洋人で背も小さかったから、アシェーラは年下だと思っていたらしい。

 幸も簡単に自己紹介をする、、、するのだが、どこまで話していいものか解らず、とりあえず自分の名前と年齢だけは答えた。


「ミユキ・タチバナ、、、変わった名前ね、、ミユキって、どんな意味なの?」


「ええ、幸福を意味する「しあわせ」という意味よ」


「まあ、素敵ね、それじゃああなたはフェアリータね!」


 え?、、、フェアリータ?、、なんでそうなるのだろうと、幸は思った、ミユキじゃダメなのかと。

 第一、何だろうフェアリータって、とんでもなくゴージャスな名前、、、正直、ちょっと恥ずかしい、、、。


 フェアリータ、確かにここの言語で「幸せ」=「フェアリ」で、合ってはいるのだが、、、


「ミユキでいいよ、フェアリータは、、、私にはもったいないもの」


「そんなことない、あなたにぴったりだわ!ラジワット様のお連れの方なら、まだ控え目なくらいだもの」


 まただ、ラジワットに「様」を付けている。

 やはり、幸が考えていた通り、ラジワットは高貴な生まれの貴族なんだろうか。


「ねえ、あなたはラジワット様とは、どのようなご関係なのかしら?」


 、、、、やはり来たか、と幸は思った。 

 むしろ、幸本人が一番知りたい、私はラジワットの、、、なんなのさ!、と。

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