第11話 ミユキ!、しっかりしろ
ホワイトアウト
幸も、聞いた事はあったが、まさかこれほどまでとは思わなかった。
東京生まれの東京育ち、はっきり言って雪は珍しく、稀に都内に雪が降れば、子供心に嬉しかった。
それでも、ほとんど積もる事のない都内では、必死に雪を集めて雪ダルマを作ろうとみんな試みるが、結局「泥だるま」のような真っ黒な団子が出来て終わる、と言うのが都会っ子の思い出である。
それが、どうしたことだろう、ここでは真っ白い雪ダルマなんて、きっと作り放題、、、、いや、パウダースノー過ぎて、玉にならないかもしれない。
もう方向も何も解らず、これは遭難するのでは?と思えた。
「ラジワットさん、これって、大丈夫なんですか?」
「さすがに、これは厳しいが、もはや進むしかない、この先に小さいが村がある、そこまでは頑張ってくれ!」
ああ、やはり私は、ラジワットの申し出を安請け合いしすぎたのでは、と後悔し始めていた。
しかし、今の練馬に、自分の帰る場所なんてない。
アパートには、片腕を切断されたチンピラの死体が放置、父親は借金で逃走中。
どう考えても、警察が非常線を張って、私を探している、それは間違いない。
再び、ラジワットとあの、幸福な食卓を囲んで、美味しい物を食べたい、幸にとって、今はそれだけが希望であった。
ホワイトアウトが、更にひどくなって行く。
幸には、既にラジワットに付いて行くだけの体力が残っていない、1m進むのに何分もかかっているように感じる。
遠くから、幸を呼ぶラジワットの声が聞こえる、吹雪の音と、ラジワットの声が混ざって、もはや、自分の足が何処にあるかが解らないほどの吹雪に晒され、ここで自分は死ぬのかと思った。
「ミユキ!、しっかりしろ、意識を保て!、死ぬぞ!」
ああ、こんな風景、前にドラマとかで見た事、あるなー、と、ぼんやり思った。
それでも、この逃避行で、ラジワットと出会えたことは、私にとって幸運な事だったと、少しの間でも、幸福な時間をくれたラジワットには、感謝しかない、、、こんな自分を、こんなに大切にしてくれた人。
、、、いや、ダメだ、ラジワットの息子さんの肩を叩くまで、自分は死ねない。
そう思った時、吹雪の音がリアルに耳に入って来た。
幸は、意識を失いかけていた。
「ミユキ、大丈夫か?、ミユキ?」
使命感だけが幸の意識を維持させていたが、いつの間にか、意識が遠のいてしまった。
そして、夢を見た。
未だ見ぬ、ラジワットの息子、きっとかわいいんだろうな
ラジワットと談笑する息子さん
それを遠くから見つめる自分、でも、なんだか、少し切ない。
なぜなら、今ラジワットの「娘枠」を独占しているのは、自分だと錯覚していたのだから。
そんな幸の前に、本物の息子が現れて、、、、なんだろう、この気持ちは。
幸は、その複雑な感情を処理することが出来なくて、とても胸が苦しい事に気付いた。
これは、一体なんだろう、私は何処か悪いのか?、変な病気にでもかかってしまったのか?
それは長い夢であった。
「ミユキ、ミユキ!、良かった、気が付いたか?、解るか、ラジワットだ」
ラジワットさん?、、、あれ?、私、今まで貴方の息子さんと、、、、あれ?
夢を見ていた?
え?、っで、ここは何処?、どうして私、、、、裸?!
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