第6話人の上に立つ資格
僕がKさんと一緒に仕事をやり始めて、その言動を目の当たりにする度、いつも凄いと思う事があります。
それは、Kさんの人に対する接し方です。
人というのはどうしても、自分より身分の高い人間を目の前にすると、言いたい事をしっかりと話す事が出来なかったりします。
それがたとえ不条理な事であっても、上の者には意見出来ず、泣く泣く言うことを聞いてしまう
逆に、自分より下の人間に対しては、ついつい横柄な態度で接してしまう。
……そんな人間が多数を占める中、Kさんは『弱きを助け強きを挫く』間違った事を違うと言える数少ない人間のひとりでした。
♢♢♢
「あぁ~あ~~!
とうとう中に入って来ちまったよ……」
新車センターの工場の天井を見上げ、Kさんは「仕方がねぇな」といった顔で呟きます。
その視線の先にいるのは、数日前から工場の外の軒先に“巣”を作り始めた鳩の姿でした。
工場の外で飛び回ったり歩き回ったりしているうちは、まだ構わないのですが、工場の中に入って来て、鳩が天井の下を右へ左へと飛び回っていては、その下の僕達は落ち着いて仕事に専念出来ません。
「ほらっ、出口はあっちだ!さっさと出ていけ!」
工場の梁に停まっている鳩に向かって、Kさんは右手でシッシッと追っ払う仕草をしますが、鳩は首を小さく傾げるだけで、当然その意味は全く通じていません。
「首傾げてんじゃねえっ!わかってんのか!」
たぶん、解って無いと思います。
鳩に向かって感情的になって怒っているKさんの姿に笑いながら、僕が言った
「放っておけば、そのうち出て行くんじゃないんですか♪」
という一言で、とりあえずは鳩を無視して仕事は再開されたのですが……
「出て行きませんね……鳩……」
あれから一時間程が経ちましたが、あちこちに梁のあるこの工場の中が気に入ってしまったのか、鳩はまったく出て行きそうな気配を見せません。
「やっぱり、追い出さね~とダメだな!」
僕とKさんは新車の架装を一時中断。
鳩の追い出し作戦の始まりです!
使用するのは、作業用の軍手を手首のゴムの部分からクルッと丸めて作ったテニスボール大の“玉”。
これを二十個程、せっせと作り出し、まるで運動会の玉入れのごとく梁に停まっている鳩に向かって二人で次々と投げつけるのです。
「そっちに行ったぞ!そっち!」
「ああ~惜しいっ!」
工場の中を飛び交う軍手の玉。
玉。
玉。
それを器用に交わしながら、右へ左へと逃げ回る鳩。
「なかなか当たらねぇもんだな……」
そう呟きながら、ポンポンと玉を投げつけるKさん。
(こんな事やっていて、果たして良いのだろうか……?)
ふと冷静に、僕がそんな事を考え始めたその時でした。
「何をやっているのかね、君達は?」
突然Kさんの後ろから聞こえて来たその声の主の姿を見て、僕はあんぐりと口を開け、固まってしまいました。
その人の姿を目にするのは、殆ど年に一度か二度位のものです。
四月始めの全社員が一同に集う年度始めの事計会議。
あるいは、全組合員によって行う労組大会での、来賓の挨拶。
(ヤベ………社長が来てるよ……)
たまたま、こっちの店舗に用事があって来たのだと思いますが、よりによって、こんな時に出くわすとは……
軍手の飛び交うこの新車センターの様子を目の当たりにして、一体社長はどのように感じたのでしょうか?
ただならぬ雰囲気が辺りを支配する中、Kさんの手がぴたりと止まりました。
背後に立つ社長の存在に気付き、幾つもの軍手の玉を抱えたまま、後ろを振り向くKさん。
そして、言ったのです。
「何って、鳩を追っ払ってるんだけど?」
社長を相手に、全く臆する事なく平然と言い放つその態度に、僕の目は点になりました。
(それだけ……?)
社長にしたって、こんな返答は予想外だったに違いありません。
社長の少し困惑した表情を見ればそれは判ります。
きっと、大慌てして謝罪する僕達に説教のひとつでもしてやろうと思っていたのでしょうから。
「仕事はどうしたのかね?仕事は!」
当然、そうなるでしょう。
このままで終わる訳がありませんから……
このまま引っ込んでしまっては、社長の威厳は丸つぶれです。
「鳩なんてどうだって良いだろう!仕事をやりたまえ!仕事を!」
社長はKさんに向かって、そう怒鳴りつけました。
しかし、相手はKさんです。
それぐらいで引き下がる訳がありません。
「いや、これだって仕事だから!」
軍手の玉を両手いっぱいに抱えたまま、Kさんは堂々たる態度でそう言い放ったのです。
「何!」
「鳩には嘴(くちばし)だってあるし、爪だってある!大事な新車に傷でも付けられたら、たまらね~からなっ!」
「うぬっ……」
意外と説得力のあるKさんの理屈に、思わずたじろいでしまう社長。
「だいたい、鳩が飛び回ってる下で仕事なんかしててみろ!そのうち………………………」
そこまで言いかけたKさんは、次の言葉を飲み込んでしまいました。
なぜなら……
Kさんがこれから言おうとしていた事……
それは、今まさに現実の出来事として起こってしまったからです。
ポタ……
(あ………)
鳩が梁から梁へと飛び移った瞬間、尻尾の方から落下させた小さな白い塊。
それが、こともあろうに
綺麗にセットされた社長のロマンスグレイの髪の上に、見事に漂着したのでした。
「………………」
「やっぱりフン落としやがった!……車の上じゃなくて良かったよ……」
ちっとも良くないですよ、Kさん。
むしろ、状況は最悪じゃないですか!
「災難だったね~アンタ、これで頭拭きなよ!」
そう言って、本当に気の毒そうな表情でKさんは社長に拭く物を差し出すのですが……
それ、いつもトラックの荷台を拭くのに使ってる“雑巾”ですよね!
「いや……ハンカチがあるからいい……」
憮然とした顔で、Kさんの差し出した“雑巾”を断り、スーツのポケットから出した自前のハンカチで頭を拭く社長。
(うわ~~っ!こりゃあ、完全に怒ってるよ……社長……)
『嵐の前の静けさ』とは、こんな時の事を差すのかもしれません。
なんとも……なんとも居心地の悪い、重苦しい空気が僕達の周りを取り囲んでいました。
もしかしたら、この新車センターは来月位には無くなってしまうのではないかと、僕は本気で思った程でした。
会社で一番偉い社長が、下請けの委託業者であるKさんに楯突かれ、おまけに鳩には頭の上にフンを落とされ、汚い雑巾を差し出されたのですから
社長の怒りが頂点に達していたであろう事は、容易に想像がつきます。
ところが……
事態は思わぬ方向へと展開したのです!
♢♢♢
「君達、何をしている!早くあの鳩を追っ払わんかっ!」
そう言って、Kさんが抱えていた軍手の玉を掴んで、鳩へと投げつける社長。
社長の怒りは、Kさんや僕では無く、すっかり鳩の方に向いていたのでした。
「それっ!」
「どっち行った!」
「そっち、そっち!」
再び工場内を飛び交う、玉。
玉。
玉。
いったい、どんな会社だよ……
「いやあ~♪おかげで、無事鳩を追い出す事が出来ました♪」
満面の笑みで社長に対し、御礼を申し上げるKさんと僕。
社長はと言えば、我に返り、相当に恥ずかしかったのでしょう。
こちらとは目を合わせずに背中を向け、隅の洗車ホースの水で汚れた自分のハンカチをごしごしと洗っていました。
やがて社長が帰り、僕達は仕事を再開したのですが
その時、Kさんが思い出したように僕の方を向き、尋ねるのです。
「なぁ、ところであの人いったい誰だったんだ?」
「え・・・・・・?」
その時の僕の顔は、きっと“鳩が豆鉄砲を食らったような顔”をしていたに違いありません。
♢♢♢
ある日の昼休みの事でした。
Kさんと僕は、新車完成置き場のスペースに陣取り、たわいない会話をしていたのです。
話題は、Kさんち犬の“ノミ取り”のやり方。
「こうやって、ウチにあるドラム缶に水を張ってな……」
「それで?」
「犬を入れて、肩まで浸からせる訳よ!」
「すると、どうなるんですか?」
「暫くするとな、窒息したノミが水面にプカプカって浮いてくるんだぜ♪」
まるで風呂にでも浸かっているような、Kさんの犬の姿を想像すると、おかしくて仕方ありません。
「へぇ~!頭いいですね、Kさん!……でも、頭の方に付いてるノミはどうするんです?」
「もちろん、取るさ!」
「どうやって?」
「最後に、頭ごと押さえつけて沈める!」
「ひでぇ~!」
それじゃあ、犬の方が窒息しちゃいますよ……
犬を飼ってらっしゃる皆さんは、マネをしないように。
そんな話で、二人して盛り上がっていると、ふと、少し離れた洗車場のほうに視線を移したKさんが呟いたのです。
「あれ、店長の車じゃね~のか?」
「本当だ……」
洗車場に店長の車……
その光景は、僕達にとって非常に珍しい光景だったのです。
この頃、店舗には“洗車機”という物が設置されていなくて、洗車は全て人の手による手洗いでした。
面倒臭い事が嫌いな店長が、自ら車を洗車している所など、はっきり言って見た事が無かったのです。
その為、本来パールホワイトである店長の車は、埃にまみれほとんど灰色に近い色をしていました。
その店長の車が洗車場に停めてある事に、僕達は妙な違和感を覚え、二人してその方向を見つめていたのです。
「店長、あれ洗うつもりなのか?……こりゃ、明日は雨が降るな♪」
めったに見る事の無い光景に、そんな皮肉を口にしてKさんは笑っていました。
しかし次の瞬間、僕達はそんな自分達の予想が間違いであった事を知るのです。
「Kさん、あれ店長じゃ無いですよ……」
埃を被ったあの車自体は間違いなく店長の車だったのですが、その車にホースで水をかけ、洗車を始めようとしていた人間は店長では無かったのです。
「誰だあれ?」
「確か、今年入った新入社員じゃなかったかな?」
これがどういう事なのか、Kさんにも僕にも容易に想像がつくというものです。
「ふざけた野郎だな!」
「職権乱用も甚だしいですね!」
その新入社員の様子を、不機嫌そうな顔つきで眺めていたKさんは、やがて立ち上がるとその現場へ向かって歩いていったのです。
言うまでもなく、あの車は店長の私有物であり、新入社員だからと言って、彼が店長の車を洗車しなければならない理由なんて、これっぽっちもありません。
今であれば、りっぱなパワハラ案件。
そういった筋の通らない事が、Kさんはとても嫌いでした。
僕は、もしやKさんが店長の所へと怒鳴り込みに行くのではないかと、心配になって後をついて行ったのです。
もし、Kさんが店長の所へと怒鳴り込みに行ったとしら、面倒な事になります。
何しろ、店長は店舗で一番偉い人間であり、揉め事で変なしこりでも残せば、報復に今後の仕事で嫌がらせを受ける可能性だってあるのですから。
「Kさん……もしかして、店長の所に行くんですか?」
僕が心配そうな顔で尋ねると、Kさんはそっけなく答えたのです。
「いや、洗車するの手伝ってやろうと思ってな……」
その言葉を聞いて、僕はホッと胸を撫でおろしました。
どうやら、僕の考え過ぎだったようです。
(いくら何でも、そこまでやらないよな……)
ところが、そんな僕の考えは甘かったようでした。
Kさんがその後とった行動は、僕の想像を遥かに超えたものだったのです!
Kさんは、車を洗おうとしていた新入社員に近付き、こう尋ねました。
「それ、店長に洗えって言われたのか?」
「そうなんですよ……」
不満そうに、口を尖らせて答える新入社員。
勿論、不満に違いありません。しかし、店長相手に「嫌だ」とも言えず、不本意ながらも洗車を始めようとしていたところでした。
「どれ、ホース貸せ!
俺が洗ってやる!」
「えっ?」
突然やって来て、ホースを貸せと言うKさんを、新入社員は驚いた表情で見つめていました。
そもそも、その新入社員はKさんの事をほとんど知らなかったに違いありません。
そのKさんが、自分の代わりに車を洗ってくれると言うのですから、驚くのも無理はないでしょう。
「いや……いいですよ、悪いですから」
当然、新入社員の彼は、遠慮がちにKさんの申し出を断ったのですが、Kさんは「いいから、いいから」と、その新入社員の持っていたホースを取り上げてしまったのでした。
(洗車手伝うってより、コレじゃKさんが洗ってるって方が正しいよな……)
ホースは一本しか無かったので、僕と新入社員は、一通り洗車が終わってからの拭き取りの手伝いでもしようと、タオルを持って車の傍らに立ってKさんが洗車している様子を見ていたのでした。
そして、ある事に気付いたのです。
(Kさん、さっきからずっと……右側半分しか洗ってないんだけど……)
その前にも書きましたが、店長の車はかなり長い間洗った事がなくて、パールホワイトの車が灰色に見える程に汚れていたのです。
「よし♪出来た~♪」
「え?……出来たって……」
Kさんは、右側半分だけ綺麗になった店長の車を満足そうに眺めると、水道の蛇口を締め、さっさとホースを片付け始めたのです。
「Kさん!まだ半分しか洗って無いじゃないですかっ!」
ところが、Kさんは
「半分綺麗になれば上等♪右から見れば、洗ったように見えるだろ?」
「・・・・・・・・・」
しかも、Kさんのこのイタズラは、それだけでは終わらなかったのです。
今度は左側の汚れた方の車体に、Kさんは、ボンネットからドアからバンパーに至るまで、そこいら中に指でイタズラ書きを始めたのでした。
『現状渡し百円!』
『すぐに乗れます!』
『バカ店長号』
(勿論、指でなぞっただけなので、水で洗えばすぐ落ちるのですが……)
そして、Kさんは新入社員に向かって言いました。
「店長に何か言われたら、『これはKさんがやった』って言うんだぞ!」
いや……そんな事言わなくても、こんな事するの、Kさんしかいませんから……
これではいっそのこと、洗わない方がよっぽどマシというものです。
“半分だけ綺麗”なんてみっともない車で、店長が家に帰れる筈がありません。
『その車に乗って帰りたければ、残りの半分は自分で洗え!』
Kさんのこの仕打ちには、きっとそんな店長に対するメッセージが込められているのではないかと、僕には思えました。
♢♢♢
その日の、午後三時頃だったと思います……
「Kさんっ!!
アンタ、俺の車になんて事してくれたんだっ!!」
案の定、店長が新車センターまで怒鳴り込みに来たのです。
しかし、この事はKさんも予想していたのでしょう。店長の剣幕にも、さほど臆する素振りも見せずに、落ち着いた様子で対応していました。
「なんだよ。洗ってやったのに……まぁ、半分だけだけどな♪」
「あれが洗ったって言えるかっ!イタズラ描きまでしやがって!」
「そりゃあ~テメエの車が汚ぇからだろ!
あんなの、水で洗えば落ちるよ!」
「クソッ!ふざけた事を……そもそも、アンタになんか洗車を頼んだ覚えは無いぞ!」
「そういや、そうだな!」
そう呟いた瞬間、Kさんの表情が変わりました……
「店長……アンタは新入社員に自分の車洗わせるのかよ?」
「うぅ……」
痛い所を指摘された店長は、瞬間、言葉を詰まらせました。
「まぁ、それは……そんなに大した事じゃ無いだろう」
罪の意識など、これっぽっちも持たない店長の態度に、今度はKさんが声を荒げたのです。
「バカヤロウ!!
社員はアンタの召使いじゃねぇんだ!
アンタみたいなのがいるから、若い奴らがやる気を無くしちまうんだよっ!」
このKさんの言葉に、店長は一言も返す事が出来ませんでした。
至極当然の事なのですが、この事を店長に面と向かって言う人間は、今までいなかったのでしょう。
店長は、少し反省した様子で俯き、そのまま僕達に背中を向けて何も言わずに自分の店舗の方へと帰ってしまいました。
すぐそばで、そんなやり取りを傍観していた僕は、何だか気分がスッとしました。
きっと店長も、もう二度と新入社員に自分の車を洗わせるような真似はしないでしょう。
この事はこれで全てが終わったのだと、僕は思っていました……
♢♢♢
新車センターのその日の仕事が終了し、定時を迎えた時でした……
僕は、Kさんに一言挨拶をしてから帰ろうと、Kさんを探したのですが、駐車場にKさんの車はあるものの、Kさんの姿が見えません。
何だか僕は少し気になって、敷地内をあちこちと探して回ったのです。
(いったい、どこ行っちゃったんだろうな……Kさん……)
そして、敷地の中を数分程歩き回った僕は、思わぬ所でKさんの姿を目にしてしまったのです。
「…あっ……………」
夕陽が沈み始めた、隣の店舗の社員駐車場。
その隅の方でKさんは
水の入ったバケツを手に持ち、昼間イタズラ描きをして放置しておいたあの店長の車を、せっせと洗っていました。
たったひとりで……
「Kさん!」
僕が叫んで駆け寄ると、Kさんは笑顔で軽く手を挙げて答えました。
「おぅ~♪」
「何やってんですか!こんな所で!」
何故Kさんがこんな事をしているのか、僕は訳が分からず、思わず大声を上げてしまいました。
「いや、鍵が掛かってるもんでよ、洗車場まで運べなくてよ……」
「そうじゃ無くて、なんでKさんが洗ってるんですか!」
すると、僕の質問にKさんは穏やかな笑顔でこう答えたのです。
「もう、この話は『カタ』がついたからな……
店長の車がコレじゃあ、さすがに可哀想だろ♪」
その言葉を聞いた時……僕は、あぁ、Kさんはこういう人だったんだよな……と、何故だか自然に納得してしまったのです。
相手が誰であろうとも、間違っている事は間違っているとはっきり言う。
しかし、相手が反省したのであれば、今度は自分がした無礼に対するけじめをしっかりつける。
Kさんは、そういう人でした。
店長の車を洗うこの行為は、Kさんの店長に対する最大限の敬意であり、自分なりの“けじめ”であったのです。
「ひとこと言ってくれれば、手伝ったのに……」
「ハハ♪それじゃ、店長と一緒になっちまうだろ♪」
「全然違いますよ!嫌々やるのと進んでやるのは!」
「そうか、でももう終わるからよ♪」
少しむくれる僕を宥めるように、Kさんは優しく微笑んでいました。
すると、そこへ僕達二人の姿を見つけたのか、店長がやって来ました。
すっかりキレイになっている自分の車を見て、店長はKさんに頭を下げたのです。
「Kさん、ありがとう!俺も今回の事は反省したよ!……いや、実はこの後本社で会議があって、今から車洗おうと思ってたところなんだ……」
「へえ!今から会議かい?……店長も大変だな♪……じゃあ、俺達はコーヒーでも飲んでから帰るとするか~♪」
Kさんがポケットから小銭入れを出すと、店長がそれを制するように、五百円玉を僕達に渡しました。
「おっと、コーヒー位は奢らせてくれよ♪
洗車代だ♪」
僕は、ニッコリ笑ってその五百円を受け取ると、三人分の缶コーヒーを買いに自販機へと走りました。
♢♢♢
「店長、いただきま~す♪」
昼間のわだかまりは消え、沈みゆく夕陽をバックに、缶コーヒーを飲む三人。
いつか、Kさんが僕に教えてくれた事があります。
「喧嘩っていうのはな、自分が勝っても、相手には逃げ道を用意してやるもんだ!徹底的にやるのは、喧嘩じゃなくて“いじめ”って言うんだ!」
今回の場合、逃げ道というのは、店長の面目であったのだと思います。
Kさんが店長の車を最後まで洗う事で、店長の面目は立ったのではないでしょうか。
「じゃあ俺、そろそろ会議に出掛けないと!」
店長は、時計を見ながらそう言うと、車に乗り込み窓を開けて僕達に挨拶を交わしました。
「それじゃ、行ってきます!」
「行ってらっしゃ~い♪」
走り出す車に向かって手を振る、Kさんと僕。
しかし……その時、僕は見てしまったのです。
颯爽と走り去る店長の車のリアバンパーに、たった1カ所だけ洗い残しがあったのを……
『バカ店長』
「あっ!洗い忘れた♪」
絶対、わざとです……
Kさんとは、そういう人なのですから……
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます