第17話
『闇に眠りし魔獣の魂よ、我が呼びかけに応じ、その姿を
ソフィアが魔核に手を向け、呪文を唱える。すると、魔核を中心に魔法陣が展開される。
『
ソフィアが魔法名を叫ぶと、魔核に光の粒子が集まり次第に魔獣のシルエットを形作っていく。光が終息するとウサギのような容姿の、額から一本の角を生やしたザコウスラビットがその姿を現した。
「凄い……」
「キレイ……」
召喚魔法を初めて見た生徒たちから、感嘆の声が上がる。それもそのはずで召喚魔法が使える闇属性持ちの魔法使いは、この国に数人しか存在しない。おそらく召喚魔法を初めて見る生徒たちがほとんどであろう。
「あれが召喚魔法……魔獣を召喚するなんて、僕にできるのか?」
アルベルトも闇の属性持ちであるが、自分が召喚魔法を行使する姿を想像することができなかった。
「アルもドラゴンとか召喚できるようになるんだよね?」
「ベア、さすがにそれは無理じゃないのかな? まずは魔核を入手するためにドラゴンを討伐しないとダメだし」
召喚魔法は魔核がなければ召喚できない。アルベルトはドラゴンなどとても倒せるとは思えなかった。
「あたしがドラゴン倒して魔核をアルにあげれば解決じゃない?」
「いや、さすがのベアでもドラゴンは……いや、そうでもないのかな?」
ベアトリクスならいつか本当に、倒してしまいそうな気がしたアルベルトであった。
「召喚魔法とは魔核を触媒に魔獣の魂を呼び出し、生前の姿を再現させる魔法です」
召喚されたザコウスラビットは、ぴょぴょこと教室を跳ね回っているが、生徒を攻撃するようなそぶりは見せていない。
「この魔獣には人間を攻撃しないように、魂に命令を書き込んでいますので安心してください。ザコウスラビット、戻ってこい」
ソフィアが命令すると、ザコウスラビットは教壇の机の上にピョンと飛び乗った。
女子からは、『かわいい~』などという台詞も聞こえてくるが、ザコウスラビットでも角で攻撃されればケガをするような魔獣である。
「先ほど魔獣は討伐しても数が減らないとヘンリーくんが言っていましたが、その理由がこの召喚魔法の仕組みで説明できます」
いよいよ授業の本題である魔獣の正体が聞けると、生徒たちは固唾をのんでソフィアを見守っている。
「召喚魔法は魂を強制的に、”魂の回廊”から魔核に呼び戻し、一時的に復活させているのです」
――なるほど……召喚魔法とはそういった仕組みだったのか。それと魔獣が減らない理由の関係……そうか!
「では、アルベルトくんここまでの話から魔獣が減らない理由を説明できますか?」
今回は直接アルベルトをソフィアが指名してきた。アルベルトが闇の属性持ちで召喚魔法の適性があるからであろう。
「魔獣は死んでも魂が存在している限り、時間が経つと自然に復活するからです」
アルベルトは迷いなくソフィアの質問に答えた。
「なぜ、そう思いましたか?」
ソフィアが更に回答を求める。
「はい、ソフィア先生が”強制的に魂を魔核に呼び戻し”と仰っていました。ということは本来は”自然に”と考えられるからです」
「アルベルトくん、正解です。魔獣は死亡と復活のサイクルから成り立っています。魔獣が復活する直前に魔核は光の粒子となって消えてしまいます。そして、どこか別の場所で同じ個体として魔核と共に身体を再構築して蘇ります。これが魔獣が減らない理由です」
衝撃的な理由を聞かされた生徒たちは、その事実に黙り込み、教室は静まり返っている。
「……ソフィア先生、質問よろしいでしょうか?」
そんな中、おずおずと手を挙げたのはアリアであった。
「はい、アリアさん何でしょうか?」
「魔獣を倒しても復活してしまうのなら、そもそも討伐しなければ、よいのでないでしょうか?」
「
――つまり、この世界では人類と魔獣の、いたちごっこを強制させられてるというわけか……やはり、この世界はなにか意図的にデザインされているように感じるな。
このような考えを持っているのは恐らく、転生者であるアルベルトだけであろう。
「先生、質問よろしいですか?」
「アルベルトくん、どうぞ」
「その召喚された魔獣はどのくらい生きているんですか?」
「召喚魔法で使った魔力が尽きれば、身体を維持することができず、魔核だけを残して魂は召喚元の”魂の回廊”に戻ります。このザコウスラビットなら一日くらいは召喚したままにできます。強力な魔獣は数分から数十分しか実体化できないでしょう」
「はい、ソフィア先生!」
クレナが勢いよく手を挙げた。
「ちなみにソフィア先生はドラゴンとか召喚できるんですか?」
先ほどアルベルトとベアトリクスがドラゴンの話をしていたが、最強格の魔獣を召喚できればかなりの戦力になるのではないだろうか、そうアルベルトがそう考えていたタイミングでクレナがソフィアに質問を投げかけた。
「召喚にはその魔獣に応じた魔力が必要です。強力な魔獣であればあるほど召喚に必要な魔力が多くなります。私はドラゴンほどの魔獣は魔力量が足りずに召喚できませんでした」
――その言い方だと、ソフィア先生はドラゴンの召喚を試みたことあるんだろうな……いや、勇者召喚もあるのかもしれないな。
アルベルトの想像通り、国にとって重要な勇者召喚は、ソフィアが召喚魔法を会得したタイミングで、行われたが残寝ながら失敗に終わっている。
「つまり、魔力量が足りていて、魔核さえあれば何でも召喚できるということですか?」
クレナが質問を続ける。
「恐らく可能かと思います」
「それが人間でも?」
「私は人間の魂に干渉することはできません。勇者を召喚した英雄ができたと文献に残っています。そもそも、人間には魔核がありません。だから、英雄が行った勇者召喚と、私が行使できる魔獣召喚は別物だと考えられます」
――このシステムはこの世界の神とか、そういった超常的な存在が意図的に作り上げたんだろうな……意図的な何かを感じる。
アルベルトはソフィアの講義から、一つの結論に至った。
「それではアルベルトくん、ここまでの内容を簡単にまとめてください」
やはり、ソフィアは同じ闇属性のアルベルトに向けて、この講義を行っているようだ。
「はい、要約すると……死んだ魔獣の魂は”魂の回廊”という場所に留まっていて、時間が経過すれば、自然に復活する。そして召喚魔法は”魂の回廊”から魂を強制的に呼び出し、一時的に生前の姿で顕現させることができる」
ソフィアの分かりやすい講義内容と、実践で見てくれた魔獣召喚でアルベルトは大体のことは理解できたようである。
「アルベルトくんは、大体理解できているようですね。この講義の後は、休憩時間を挟んで一年生全員で各属性毎に魔法の実践の講義がありますので。各自、どの属性の講義か確認を忘れないようにしてください」
持っていない魔法属性は使えないので、魔法の実践授業は各属性毎に行われる。効率を考えて魔法の実践授業は一年生全員で行うことになっていた。
「アルベルトくんは私と一対一での授業となります」
この学園に闇属性を持つ者はアルベルトとソフィアしかいないので、必然的にマンツーマンの授業となる。
「アル、ついに召喚魔法を教えてもらえるんだね。そのまま勇者まで召喚しちゃいなよ」
「クレナ、簡単に言ってくれるけど、ソフィア先生でもできないんだよ。初めての僕にできるわけないじゃないか」
「そこは気合と根性で」
ベアトリクスみたいなことを言い出すクレナ。
「クレナだって気合と根性で神器を扱えたら苦労しないでしょ?」
「まあ、そうだよね。とりあえず、さっきのウサギみたいなのを召喚士してペットにしようよ」
「魔獣をペットにするなんて考えるのクレナくらいだぞ」
「いや、なんか可愛かったから。ペットにできたらなぁって」
相変わらず本気なのか冗談なのか分からないクレナであった。
「それでは、この講義はここまでにします。休憩後は各自演習場に集まるように」
ソフィアが講義の終了を告げた。
いよいよ、アルベルトにとって初の召喚魔法の実践授業が始まる。
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