第13話
「アル、モテモテだったね。さすがボクが見込んだだけのことはあるね」
「クレナ、気楽に言ってくれるなぁ。神託で授かった”運命の人”なんて重大過ぎて僕には荷が重いよ」
「でも、アルの誕生を神託で授かった聖女の言葉だから、信憑性は高いと思うよ。それこそ人生を左右する出来事かも……」
「ええ……」
自分がこの学園で何をすべきなのか、それすらも定まっていないにもかかわらず、人生を左右しかねない出来事が確定しているかもしれない、そう考えるとアルベルトは頭を抱えたくなった。
『運命に
アルベルトは転生前に暗闇の中で聞こえた言葉を思い出す。
――あれはもしかすると……神からの啓示……だったのか?
”運命”という言葉に”抗う”、アルベルトの人生はこれから、運命に抗うことを示唆している。
それは苦難の道であることは想像に
「アル、大丈夫。アンタはあたしが守ってあげるから」
「ベア……」
「そうそう、アルにはボクも付いてるし、クアドラプルが二人いれば無敵じゃない?」
クレナが言うように、クアドラプルが二人いれば戦力的には頼もしい限りだ。しかし、武力で解決出来ることであれば、の話だが。
「ああ、その時は頼むよ。といっても僕も学園で鍛えて二人を守れるように頑張るよ」
女子二人におんぶ抱っこでは、さすがのアルベルトも恰好がつかないと思っている。
「うん、男の子はそうでなくちゃね」
”二人を守る”というアルベルトの言葉に、クレアは嬉しそうにしてる。
「ま、まあアルが強くなるのに、あたしの協力が必要不可欠だし、手伝ってあげないことないわよ?」
照れ隠しなのか、ベアトリクスも顔が少しニヤけている。
「じゃあ、僕たちも今日は帰ろうか」
ベアトリクスとクレアを連れてアルベルトは教室のドアへ向かった。
「おい、お前ら」
教室を出たところでアルベルトたちは不意に声を掛けられた。
「ヘンリー? 僕たちに何か用かい?」
アルベルトたちを待ち伏せていたのか、そこにはヘンリーの姿があった。
「一応、挨拶をしておこうと思ってな」
「ああ、こちらこそ同じクラスメイトとして明日から頑張ろう」
アルベルトは手を差し出し、ヘンリーに握手を求めた。
「しかし、お前のような奴が英雄候補とはな。こんな腑抜けだとはガッカリだ」
手を差し出し、真剣に挨拶をしたアルベルトに対し、握手を拒んだヘンリーの返答は、実に
根が真面目なヘンリーのことだ、クラスメイトとして親交を深めるつもりだろう、アルベルトはそう思っていた。だが、予想は裏切られた。
「あれ、クラスメイトに対して随分と失礼な挨拶だね」
「お前は勇者の末裔……クレナだったか……どんな誇り高い人物かと思ったら、チャラチャラした女だったとはな。アルベルトもお前も、ただの成り上がりだったか」
ヘンリーにとって英雄や勇者は憧れの存在であり、アルベルトとクレナの言動が彼を幻滅させたのだろう。
「ヘンリーって言ったっけ? いきなり、それは失礼なんじゃない? クレナはともかくアルベルトを馬鹿にするのは許さないよ」
直情的な性格をしているベアトリクスは、アルベルトを馬鹿にされ、かなりお怒りのようだ。ベアトリクスの身体から魔力が溢れ出し、今にも暴発しそうであった。
「ベアちゃん、ボクのことは怒ってくれないの!?」
「アンタは自分で蒔いた種でしょ? 自業自得よ」
「ベアちゃんったらつれないんだからぁ」
こんな状況でもクレナは変わらず、緊張感のない態度だった。
「ベア、落ち着いて。あと、クレナは黙ってて」
アルベルトの言葉を受け、ベアトリクスは纏った魔力を治め、クレナは肩をすくめた。
「ベアトリクスと言ったか? こんな連中と一緒にいると、剣聖なんて夢のまた夢だぞ。その辺をよく考えた方がいい」
ベアトリクスに対するヘンリーの態度は、アルベルトやクレナに対しての態度とは違って、剣聖になるという目標のお陰か、少しは認めているようだった。
「ふん、余計なお世話よ」
ヘンリーに少しは認められているということを、ベアトリクスは汲むことはできなかった。ベアトリクスはそういった心の機微には疎い。
「ヘンリー、確かに僕たちが騒がしくしてしまったのは申し訳なく思ってる。すまなかった。ヘンリーが真剣に学園で学ぼうとしているのも、分かってる。でも……僕たち三人も、この学園で真剣に学びたいと思っていることは君と同じだ」
「そうか……なら明日からの授業でそれを見せてもらおうか。模擬戦では容赦しないからな」
「ああ、望むところだ」
アルベルトの言葉に対して、ヘンリーは無言でその場を立ち去っていった。
「なんだろう……本当に疲れた。初日から色々あり過ぎだろ」
「それだけ、アルが注目されているってことだよ」
「原因の一端はクレナなんだけだけどね……」
自覚のないクレナに呆れるしかないアルベルトである。
「じゃあ、本当に帰ろう。もう何も無いことを祈るよ」
アルベルトの波乱万丈な入学当日は、こうして幕を閉じた。
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