第12話
「僕とベアは自宅から徒歩で通学だから、このまま帰るけど、クレナは?」
「ボクも徒歩通学だよ。途中まで一緒に帰ろうよ」
「僕らは貴族が住んでいるエリアとは反対方向だから、一緒なのは門までだけどね」
首都アストリアムはエリア毎に別れていて、王城に最も近いエリアにクレナのような貴族が住む屋敷がある。
平民は城壁に一番近いエリアの小さいアパートに住んでいる。アルベルトは一応、貴族だが屋敷など持っているわけでもないので、今まで通り自宅から通うことになる。
「それじゃあ、行こうか」
アルベルトは立ち上がり、ベアトリクスとクレナを連れ立って出入り口の扉へと向かった。
「アルベルト様!」
その声にアルベルトは足を止め、声が聞こえた方へと視線を向けた。
「君は確か……アリア、さんだったよね?」
そこには慌てて駆け寄って来たと思われる聖女、アリアの姿があった。
「は、はい、わたくしのことはアリアとお呼びください」
「それじゃあ、僕のこともアルでいいよ。さっき先生が言っていたけど、同級生には敬称は不要だよ」
「そ、そんな大それたことはできません。アルベルト様はわたくしの運命の人なのですから」
「ええっ!? いきなりプロポーズ? アリアってボクよりも大胆……なに一目惚れ?」
「ち、ちょっと、アリアだっけ……? アンタいきなり何言ってるのよ!?」
突然の”運命の人”発言で勘違いしたクレナとベアトリクスは、一様に驚きを隠せなかった。
「クレナとベアはちょっと黙っててくれるかな。えーと……それはどういう意味なのかな?」
ベアトリクスとクレナが騒ぐと、余計ややこしくなりそうだったので、アルベルトは黙って欲しいと二人にお願いをした。
「わたくしは、五歳の頃にアルベルト様の夢を見ました。その時のことは今でもよく覚えています。お姿も今と全く同じで、初めてこの教室でお姿を見た時に、すぐに夢に現れたアルベルト様だと確信いたしました」
「それって神託というやつだよね?」
「そうです。神託ではアルベルト様が、わたくし運命の人だということを
「……その運命というのを具体的に話せる?」
「いえ、神託ではそこまで詳しくは……ただ、わたくしの運命を変える人である、と」
神託というのは、神が与える天啓のようなもので具体的ではないことが多い。
「そっか……アリアはボクが闇の属性を持って生まれてくる夢を見たってことは、何かあるんだろうな……」
アルベルトが生まれる前に、予知していたということは、眉唾な話ではなく、やはり神からのお告げなのかもしれない。
「そうです! だから、わたくしはアルベルト様に会える日を待ち望んでおりました。こうして同じ学園の同じクラスになれるなんて、やはり運命と言わざるを得ません!」
アリアは興奮した様子で、その想いを語った。
「わ、分かった。神託で僕の夢を見たというのは本当のことだろうし、信じることにするよ。でも、運命の人というのは少し大袈裟な気もするけど……」
「そんなことはありません! ネクロス様の神託に間違いはありません。ですから、どうぞ、わたくしをアルベルト様の妻に――」
ネクロスとは冥界の神である。死者の冥福を司り、冥界への案内者として崇拝されている。
「と、とりあえずクラスも一緒なんだし、その運命の出来事とやらが起こるのを、一緒に待ってみようじゃないか。具体的に何が起こるのか分からないし、万が一、良くない事であったら事前に回避できるかもしれないし」
アリアが暴走して妻などと言い出したので、アルベルトはそれっぽい言葉でお茶を濁すことにした。
「そうですね……アルベルト様、取り乱してしまい、大変失礼いたしました」
アルベルトの言葉を聞いたアリアは、少し考えてから落ち着きを取り戻した。
「うん、また明日から同じクラスで授業を受けるんだから、何か起こったら一緒に解決しよう」
「はい! アルベルト様が一緒なら心強いです! 明日からよろしくお願いします!」
一緒に解決しようと言われたことが嬉しかったのか、アリアは満面の笑みを浮かべた。
「ところで、アルベルト様はこの後、お時間空いておられますか? よろしければ学内の見学をご一緒できればと……」
「今から? えーと……だい――」
アリアに可愛く
「えーっと……今日は今から家に帰って、手伝いをしなければならないから、無理、かな?」
「そうでしたか……残念ですが家の事情では仕方ありませんね。わたくしも今日は寮に帰って部屋の整理と、明日の支度をすることにいたします」
「ああ、アリア、また明日な、ゆっくり休むんだぞ」
「はい、アルベルト様も今日はゆっくりお休みください」
アリアはベアトリクスとクレナに頭を下げ、教室を出ていった。
「ふぅ……入学初日から疲れたな……」
クレナに始まり、アリアの運命の人宣言と、あまりにも濃い入学初日であったアルベルトは、深い溜息を吐いた。
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