第11話

「ボクはクレナ・アシュフォード。火、水、風、土の四属性のクアドラプルだ。勇者の子孫とか言われているけれど、神器を扱うことはできない。だから、そういった肩書きはボクには荷が重いかな。みんなには普通に接して欲しいと思ってる」


 この世界には勇者にしか扱うことができない四つの神器がある。神器は魔王を倒せる唯一の武器でセレスティアン・エンパイア王国にはアークエンジェルボウという弓の神器が厳重に保管されている。クレナは神器を扱えないと言っている。

 おそらくクレナはアークエンジェルボウが使えるか、試したことがあるのかもしれない。

 今までクレナが、勇者の子孫として期待されていたことが窺える。そして神器を使えないことに失望されたことも。

 クレナの言葉にはそういった意味が含まれているのではないか、アルベルトは、ふと思った。


「ボクはこの学園で、良い男を見つけて旦那さんにしようと思ってたんだけど、もう見つかったから、半分以上は目標は達成されたかな。だから、ボクを口説こうと思ってた男子は残念だけど諦めてね」


 そう言ってクレナはアルベルトに視線を送りウィンクする。その行動に教室の女子生徒から黄色い声が上がった。

 クレナの自己紹介は前半と後半でエラい違いである。


 ――いや、マジで何なのこの子? というか、クレナは凄い自信だな……まあ、このルックスなら当然か。


「あー、この学園で君たちが何を目標にしようと自由だが、節度を持って欲しいものだな」


 今まで自己紹介に口を挟まなかったソフィアだが、さすがにクレナの自己紹介には面食らったようで、教師として注意せざるを得なかったのだろう。


「チッ! どいつもこいつも遊び気分だな」


 舌打ちが聞こえた方向に、顔を向けると案の定ヘンリーであった。真面目なヘンリーにとって、実に面白くない理由であることは想像にかたくない。


 ――ヘンリー、すまん……僕もその理由はどうかと思うよ。


 勇者の子孫というクレナがどんな高尚な理由で入学してきたのかと思えば、あまりにも斜め上の理由でアルベルトも言葉がなかった。


 そんな爆弾を投げ込んだクレナの自己紹介は終わった。


「では、次で最後になりますね。自己紹介をお願いします」


 ソフィアが視線を向けた先には、銀髪のロングヘアーの隙間から尖った長い耳を覗かせていた。その体躯は細くしなやかで、まるで妖精のような美しさである。


 ――エルフ族? エルフを見るのは初めてだ。


 セレスティアン・エンパイア王国にエルフは国民として存在するが、エルフ族は森に独自の自治区を作り、人族とあまり交流せずヒッソリと暮らしている。

 エルフ族は優秀で貴重な人材であるため、王国もエルフの住む森を特別自治区として認め、保護している。


「私はリアンヌ・シルヴァーナ・アーシェ。光、水、風、土の四属性のクアドラプルだ。エルフ族はあまり人族と交流を持たない。しかし、あまりに世俗から一族が離れてしまってはいけないと、長老に諭されエルフ族を代表して、私はこの学園へと学びに来た。人族の常識にうといところもあるがよろしく頼む」


 リアンヌは一切表情を変えずに淡々と話し続けた。かなりクール、というより感情の起伏が少ないようだ。


 エルフ族は信仰心が強く、信仰する神の名前をミドルネームに入れている。シルヴァーナというのは、この世界を創造したといわれている三神の一柱であり、自然と森、樹木や生物の創造神とされている。樹木や動植物、森の生態系を守り、自然との調和を求める者たちに愛されている。


 リアンヌもまた、真面目にエルフ族の将来を考え、明確な目標を持って入学してきたようだ。そう考えると、クレナは如何に変わった目標であることが分かる。


 ――それにしても……クアドラプルが三人も入学してきたのか……?


 王国内でも四属性持ちのクアドラプルは五十人ほどしか存在していない。セレスティアン魔法学園の上級生に二名いると聞いている。つまりクアドラプルの約一割の五人が、この学園に在学していることになる。


 ――この学園のレベルの高さは半端じゃないな……僕について行けるのだろうか?


 王立セレスティアン魔法学園は、この大陸でも屈指の学園だ。アルベルトが不安になるのも致し方ないところである。


「いや、僕も明確な目標を見つけられるように頑張らないと」


 一抹の不安を感じるものの、アルベルトにはベアトリクスとクレアという頼もしい二人が協力してくれる。弱気になっている場合ではないと、アルベルトは気持ちを切り替える。


「以上で全員の自己紹介は終わったようですね。この時間が終ったら今日の授業は終わりになります。その前に明日以降のお話をします」


 入学式は顔合わせのようなもので、本格的な授業は明日からのようだ。


「明日から座学と実践の授業が始まります。一年生はクラス全員に同じ授業を受けて貰います。そして一年生の間に自分の得意分野、やりたいことを見つけて下さい。そして二年生以降は選択授業を受けることができます。そこで各々の得意分野、やりたいことを伸ばしてください」


 鑑定の儀で属性は鑑定することができる。しかし、この世界はアルベルトが前世で生活していた、日本のゲームのような数値化されたステータスや、明文化されたスキル名などは存在しない。実際に実践してみなければ自分の才能は分からない。

 だから全ての生徒が剣や槍、弓など様々な武器を授業で使う。そして魔法や政治、経済の講義を受ける。そして自分の得意分野、やりたいことを見つけて二年生以降、その能力を伸ばしていく必要がある。それが王立セレスティアン魔法学園の教育方針であり教育理念である。


「詳しくは入学時に配った資料に書いてあるので、目を通しておくように」


 ソフィアは最後に、と言葉を続けた。


「この学園では貴族と平民が同じ教室で学ぶことになります。そこに貴族や平民といった序列はありません。お互いの名前を呼ぶ時も敬称は不要です。しかし、上級生や教師に対しては最低限の礼儀を持って接してください」


 これは初めてヘンリーに会った時に言っていたことだ。実力主義の学園では貴族や平民と言った身分の差などは関係ないようだ。


「皆さんから何か質問はありますか? 特に無いようでしたら今日はここまでになります」


 複数の生徒から学内に関する質問があり、それの受け答えも終了し、生徒たちは各々帰り支度を始める。

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