第9話
入学式を終えたアルベルトとベアトリクスは、自分のクラスへと移動していた。クラス分けは近いレベルの生徒が集められたため、二人は同じクラスになった。
「アル、あたしと同じクラスで嬉しいでしょ?」
「ん? まあ、そうだね。一人だったら心細かったかも」
前世の日本で友達はそれほど多くはなかった
――奈緒……元気にしてるかな……? もう、僕のことは忘れちゃってるだろうか……。
アルベルトは久しぶりに前世の日本でのことを思い出したが、今となっては遠い昔のことのように感じた。
――もう十年以上たってるんだしな……幸せに暮らしてくれてればいいな。
「まったく、アルはいつまで経っても子供なんだから。あたしがいないとダメみたいね」
ベアトリクスは持ち前の明るさで人と仲良くなるのが得意で、誰とでも仲良くなれる。そんなベアトリクスであるが、アルベルトに頼られることが嬉しくて、つい照れ隠しで毒舌になってしまっている。
「ああ、ベアトリクスが一緒なら学園生活も楽しめそうだよ」
――そういえば、奈緒も高校に入学したばかりの頃、僕に友達ができないって心配して、いつも一緒にいてくれたな。
「そ、そう? アルがぼっちにならないように、あたしが相手してあげるから感謝しなさいよ」
「ああ、そうしてくれると助かるよ」
久しぶりに思い出した奈緒の面影が、ベアトリクスと重なる。あの時と同じように心配してくれる幼馴染にアルベルトは心から感謝した。
教室の前に辿り着いたアルベルトたちは豪奢な扉を開け、教室内に一歩踏み入れた。教室は教壇が一番低い場所にあり、そこを中心に扇状に生徒の席が上段に向かって広がっている形状で、扇状教室と呼ばれている。
アルベルトとベアトリクスが、空いている席を探すために教室内を歩き始める。すると先に入室していたクラスメイトから一斉に注目を浴びる。
「な、なんか、注目されてない?」
アルベルトたち二人がこのクラスの生徒として最後に入室したようで、二十人近い眼差しがアルベルトとベアトリクスの二人に集まっていた。
「アル、もっと背筋を伸ばして堂々としなさい。他の生徒から舐められるわよ」
足が引けているアルベルトにベアトリクスが忠告する。
「そ、そうだね」
アルベルトは気を取り直し、特に席順は決まっていないようなので空いている席を探して移動する。
「ここ、いいかな?」
アルベルトは空いてる席の隣に座っている、黒髪でショートヘアーに白いリボンを付けた少女に声を掛けた。
「うん、空いてるよ」
「ありがとう。ベア、ここに座ろう」
アルベルトとベアトリクスが席に腰掛ける間、隣の黒髪の少女がジーっとこちらを見ている。
「あ、あの……何か?」
「そっちの女の子はキミの彼女さん?」
突然何を言い出すかと思えば、ベアトリクスのことを彼女なのかと質問してきた。
「い、いや、隣に住んでる幼馴染だよ」
「その割には教室まで一緒に来て、仲良さそうだよね。幼馴染ってそういうもの?」
「一般的にどうかは知らないけど……生まれてからずっと一緒だったから」
「ア、アルは付き人みたいなものよ! だから一緒なの!」
――付き人って……ベアは僕のことなんだと思ってるんだろ?
これは素直になれないベアトリクスの照れ隠しである。
「そうなんだ……じゃあ、貴女の恋人ってわけじゃあないのね?」
「そ、そうね。あたしの恋人になるなら、もっと強くないと」
「ふーん……だったらボクが彼の恋人に立候補しよっかな? ルックスがすごくボクの好きなタイプ」
「ええっ!? か、
初対面の女子にいきなり好きなタイプと言われて戸惑うアルベルト。
「揶揄ってなんていないよ。本当にカッコいいし、ボクの好みなんだ」
「ダ、ダメよ! アルはあたしの付き人なんだから!」
「付き人でも恋愛は自由じゃない? 自己紹介がまだだったね。ボクはクレナ・アシュフォードっていうの、よろしくね」
――クレナ? 入学式で学園長が言っていた勇者の子孫の?
「ぼ、僕はアルベルト・ペンウィックです。彼女は幼馴染のベアトリクス。こちらこそよろしく」
「アルベルト……? ああ! あの英雄候補の!? それにベアトリクスって学園長が言っていたクアドラプルの子ね。それでアルはボクのことどう思う?」
「ど、どうって……き、綺麗だと思います……」
黒髪のクレナは目鼻立ちが整っていて、スラっとしているが出ているところは出ている女性らしい体型で美人だ。背が低くて可愛らしいベアトリクスとは正反対のタイプだ。
「ち、ちょっと、なにデレデレしてるのよ!」
「デレデレしてないって……」
突然、クレナに恋人候補として名乗りをあげられて、戸惑うアルベルトだがベアトリクスにしてみれば面白くないようだ。
「クレナさん、冗談は止めていただけると……」
「あら、冗談を言っているわけじゃないよ。アルは本当にボクの好みだから正直に言ってるだけ。あ、あと、クレナって呼んで?」
「わ、分かった……それは光栄だけど、クレナは自重してくれると助かる」
アルベルトは、不機嫌そうにしているベアトリクスをチラッと横目で視線を向けた。
「そうね、ボクもちょっと先走っちゃったみたい。ベアちゃんもごめんね」
アルベルトが送った視線に気付いたのか、クレナは自重してくれたようだ。
「なんであたしに謝るのよ。それにベアちゃんて……」
「ベアちゃんもヤキモチ焼いて可愛いよ。食べちゃいたいくらい」
――なんだろう……このクレナって子は……勇者の子孫って変わってるんだな。
「皆さん、全員集まったようですね。この時間は、この学園のことについてお話しします」
担任が教壇に立つとそれまで騒がしかった教室内が静かになる。
「私はこのSクラスの担任となるソフィア・イヴァーノヴァです。闇、火、風のトリプルです。このクラスには二十年ぶりに現れた闇の属性を持つ生徒がいるため、同じ属性持ちの私がこのクラスを担当することになりました」
担任が自己紹介をすると、教室が騒がしくなる。それもそのはずで、ソフィアは闇属性持ちのトリプルという称号持ちであった。鑑定の儀で神官が二十年ぶりに闇の属性を見たと言っていたが、もしかするとソフィアのことかもしれない。
「Sクラスは本年度の新入生で入学試験で上位だった生徒、それに特待生の二十名によって構成されています。共に切磋琢磨して、より高みを目指してください」
入学の資料に書かれていたクラス分けの説明では、成績優秀者別に五クラスに分かれており、上から順にS、A、B、C、Dのクラスに分かれている。
アルベルトの闇属性の希少性、ベアトリクスのクアドラプルという称号から最優秀クラスの”S”クラスに分けられた。
「学園のカリキュラムについての説明の前に、生徒の皆さんには自己紹介をしてもらいましょう。名前と所持している属性、それ以外は好きなように話してください」
こうしてアルベルトとベアトリクスの学園生活は自己紹介から始まった。
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