第5話
『鑑定の儀』
この国で生まれた子供は、五歳になったら必ず受けなければならない儀式である。もし儀式を受けないと
魔法の属性は火、水、風、土、光、闇の六属性があり、魔法を行使する人間が持っている属性の魔法しか使うことはできない。
鑑定の儀では、その人がどの魔法属性を持っているのか鑑定することができる。持っている属性の数が多いほど才能がある、ということだ。
鑑定の儀は、カウンティーホールと呼ばれる王国内の各地に存在し、王国の行政窓口となっている役所のような場所で行われる。
アルベルトとベアトリクスの家族たち六人は、首都アストリアムの城に隣接するカウンティーホールに集合していた。
「父さん、僕たちの他にもたくさんいますね」
アルベルトが周囲を見回すと儀式が行われる祭場には、アルベルト達の他にも十組以上の家族の姿を見ることができた。
「実際に鑑定するのは十五~六人くらいじゃないか? 大事な我が子の鑑定の日だからな。家族を連れてくるのは当然だ」
鑑定の儀は子供の将来が決まってしまうほどの大事な儀式のため、ハンスが言うように、ほとんどが家族総出で来ることが多い。
「さて、我らの愛しい子供たちには、どんな才能があるか楽しみだ。な、ハンス?」
「元冒険者のお前らしいな。俺はアルベルトが幸せに育ってくれれば、それでいいよ。変に才能があると色々と大変だからな」
パウルは娘のベアトリクスに、暇さえあれば剣を教えていた。常に強さを求めていた元冒険者のパウルと、料理人のハンスとでは考え方が違うようだ。
「俺だってベアトリクスには幸せになってもらいたいが、こんな魔物が
「まあ、な。俺には才能がなかったからな……自分と家族くらいは守れる力はあった方がいいか」
ハンスは魔法属性を一つも持っていない。十人に一人くらいの割合で、魔法属性を持たない者がいる。そんな才能無しの人間は、才能持ちに比べると戦闘力において遥かに劣り、この世界での死亡率は高い。
とはいえ、属性を持っていない者が魔法を使えないかというと、そういうわけではない。無属性魔法というものも存在するので、魔力さえ扱えれば魔法を唱えたり、魔道具を使うことはできる。ただ、無属性魔法は戦闘向きではない魔法が多い。
「お前のところにはアンナがいるじゃないか。あいつは冒険者として優秀だったし、魔物からは守ってもらえばいい」
アンナは結婚前、パウルと同じパーティーで冒険者をやっていた。当時ハンスの働いていた酒場に、パウルたちのパーティが常連として通っていて、それがキッカケでハンスとアンナは知り合い、恋に落ち結婚に至った。
「ハンス、お前は自分自身ができることで、家族を守ってやればいいんだよ」
「……そうだな」
パウルの言葉にハンスは頷いた。
「パパ、なんのおはなししてるの?」
真剣に話し合っていたパウルとハンスに、ベアトリクスは割って入った。
「アンナは強いからアルを守ってもらえって話をしてたんだ」
「アンナおばさん、あたしよりつよいの?」
「そうだな……今のベアトリクスより強いな」
アンナは属性を三つ持っているトリプルの魔法使いであり、才能があろうとも五歳児のベアトリクスよりは遥かに強い。
「そっか……じゃあ、あたしがアンナおばさんよりつよくなったら、アルはあたしが守ってあげるね!」
「あらあら、ベアちゃんはアルのお嫁さんになって、守ってくれるのかな?」
「うん! およめさんになる!」
アンナの言葉にベアトリクスは満面の笑みを浮かべた。
「ベアちゃんなら大歓迎よ。楽しみにしてるわ」
「アル、これで将来は安泰だな」
ベアトリクスがアルベルトの嫁になることは、アンナとハンスには確定事項のようで、本気で喜んでいる。
「あれ? 僕に選択肢はないの!?」
「あら? アルくんはうちの子じゃ不満かしら? あんなに可愛い子は滅多にいないわよ」
「いや、ベアは可愛いとは思うけど、それとはこれとは話が……」
いくらベアトリクスが可愛いといっても、精神年齢が十六歳以上のアルベルトにとって、五歳児は妹みたいなものだ。
「あたしがおよめさんじゃイヤなの……?」
お嫁さんにするという話に戸惑っているアルベルトが、それを嫌がっていると思ったのか、ベアトリクスはしょんぼりと悲しい表情を見せた。
「ああーアルくん、うちの子を泣かせたぁ」
「ルビナさん!? そ、そんなつもりはなくてですね……」
「なーんて、冗談よ。二人にはまだ早いわよねぇ。あと、十年くらい経ったら考えましょうね」
ベアトリスの母親のルビナは冗談っぽく言ってはいるが、その目は真剣そのものであった。
『お集りの皆様、お待たせいたしました。これより鑑定の儀を行います』
祭壇の前に進行役と思われる役人と、
『創造神セレスティア様の
魔道具により拡声されたアナウンスの後、神官からの訓示をいただいた。セレスティアン王国の国教はセレスティア教であるが、信仰は自由であり、一部の邪神教を除いては他の神に対して寛大なので宗教戦争などもない。
『それでは名前を呼ばれたお子様は、祭壇の前に描かれた魔法陣の中心で
複雑な模様が描かれた魔法陣の周囲には、赤、青、緑、黄、白、黒、六つの宝石が配置されている。
鑑定される者の魔力に反応し、対応する宝石が輝く仕組みになっている。
一人目の子供が呼ばれ、魔法陣の中心で神官に向かい跪くと、胸の前で両手を握り身を屈めた。
『神聖なる力よ、深淵なる魂の奥底に潜む、この者の真の力を示したまえ』
神官が呪文を唱えると、複雑に描かれた魔法陣が淡い光を発し、子供を包み込む。
すると、魔法陣の周囲に埋め込まれていた宝石の一つが、光を発した。
『神があなたに与えた属性は水です。この力は、あなたの人生をより豊かに、より幸せにしてくれるでしょう。神は、あなたの道を常に照らし続け、あなたを導いてくれることでしょう』
――なるほど……ああ、やって宝石が光ることで属性を判別するのか。魔法陣の光と宝石の輝き……綺麗だったな。
一部始終を見ていたアルベルトは、その美しく神秘的な光景に感動していた。
「アル、すごくきれいだったね。あたしもぱぁってひかるかな?」
「ああ、ベアもきっと光るさ」
剣士ごっこでパウル相手に見せたベアトリクスの力は、間違いなく魔法によるものだった。ベアトリクスがどんな輝きを見せるのか、アルベルトは自分のことよりも楽しみにしている。
その後も何人かの鑑定が終わり、属性一つ持ちのシングルと二つのダブルの子供だけであった。属性三つ持ちのトリプル以上の子供は現れてはいない。
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