第1話プロローグ2.
「スミマセーン、帰省するから外泊届書きたいんスけど…忙しかったスか?」
「いやいやいいのよ、オオタちゃん」
オオタと呼ばれた女子学生は外泊届を手渡しで貰い、慣れた手つきで記入をする。
書いてる途中、先程いた男子学生が残したA4紙が目に止まった。
「さっきの人のやつですよね。なんかあったんスか?」
「あー…退寮するからって、部屋の汚損状況の報告書みたいなものよ」
「へー珍し」
アパートやマンションならいつ引っ越しして気にはならないだろうが、大学生しかいないこの寮でこの時期に退寮するなんてほとんどありえない。
「少し前、消防設備点検あったでしょ?」
「あーあったっスね」
「そこで室内状況がひどすぎてね…大学側に報告して、引っ越ししてもらうことにしたのよ」
A4紙には床や壁、備え付けの机の損害状況を事細かに書かれており、先ほどの管理人の不機嫌さからも相当なものなのだろう。
「オオタちゃんはこんな風になっちゃダメよー?ゴミ出しと清掃は定期的にね!」
派手な髪色、どっかの格安サイトで売ってそうなブランド物の類似した服に、ロゴが強調されてるバッグ。いかにもデビュー全開でその素質がありそうなオオタも、テレビで見るようなゴミ屋敷になることはないと思いつつ、一つの可能性を上げた。
「でも、4年間住んだらどうなるか分からないっスね。積み重なってく見えない汚れとか…それこそさっきの人とかそうだったんじゃないスか?」
「いや彼、一年生。オオタちゃんと同い年」
「そうそう、一年でも汚れが溜まって…」
「溜まって…」
「一年!?」
どんな使い方をすれば半年で強制退寮させられるような部屋を作り出せるのだろう。オオタは管理人が外泊届をコピーしに行くのを確認し、先程の男子学生の書いたA4紙を手に取った。
書いてあることは至って普通の被害情報だ。
だが、余りにも数が多すぎる。何をしたら17畳程度の1部屋を半年でここまで出来るのか。
驚きと困惑は感心と興味になり、オオタは先ほどの男子学生の顔を思い出しながら、裏面に記載された名前を記憶し、元の場所に戻した。
「それじゃ外泊届は受理したからもう大丈夫よ」
「ありがとうございまーす」
外は今にでも倒れてしまいそうな暑さだ。だが、こんな日にも色んな出会いがある。
「暑いな…」
そう呟きつつ、足は自然と近くのコンビニに向かう。
信号を渡り、何を買おうか考えながら敷地内に入ると、コンビニの入口には見覚えのある男が頭を抱えて項垂れているのが目に入った。
その姿を見た時、オオタは何故か自分の新しい人生の幕が上がるような気がした。
体が勝手に動き、友達の友達に声をかける感じで、彼に話しかける-
「ねね、さっき寮から出てた……一羽…さんっスよね?」
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