配信を喰らう悪魔

@udonokoboku

第1話 プロローグ1.あっけない寮生活の幕

2020年 夏 鯉ヶ丘大学 学生寮


「はい。カードキーを提出したら、もう寮の契約は切れますのでご注意してください。郵便ポストも同様ですので。」

「うす…大丈夫です。」


事務的に淡々と退寮の作業をこなしている管理人を見て、気まずそうに下をずっと見る。

しばらくすると、手書きでびっしりと書かれたA4の紙とボールペンが窓口から投げ込まれた。


「後はこの紙に電話番号と名前を書き、カードキーとともに出してください。それで終了です。」

「え…と、書く場所がないです…けど。」

「は?」


聞き返しでは無い、ただの威圧。

この学生寮の管理人さんは普段は温厚で学生にも笑顔を絶やさない人なのだが、ここ最近、さらに言うと自分の前では殺意に近いような目で見てくる。


これ以上何か言ったものなら本当に殺されかねないと思い、A4の紙をひっくり返して名前と電話番号を書き込み、

「あの、書き終わって…これ。」

恐る恐る紙を出し、文鎮の代わりにカードキーとペンを置いた。


今生の別れとまではいかないが、短い間でもお世話になった感謝と別れの言葉を言いあぐねていると、紙を手に取った管理人から「ありがとうございました、では。」と、淡々と突き放されるように別れの言葉を吐かれた。


「後ろに寮生の方がいるので要件がない方は譲ってください」



〜鯉ヶ岡大学付近のコンビニ〜

「あー終わった。暑ぃーしヤバいし、もう終わったわ…」


外はまとわりつく様な暑さだ。思考する力も徐々に無くなり、ついに入口前で蹲る。


いつもそう、自分の行為や行動がいつも自分を雁字搦めにする。

もうお前は寮生ではないとダメ押しまでされ、寮生活は幕を閉じた訳だが、寮生活すらマトモに送れない自分は、人生の幕にすら自ら下ろしに行ってる様な気がしてしまう。


コンビニにも入らず、入口付近のアスファルトとにらめっこをしていたら、急に頭上に人影が覆う。


「ねね!さっき寮から出てたさー、一羽さんっスよね?」


どこかで見た気がする女性。

派手な髪色なので、知り合いなら忘れることは無いだろうし、声も本当に覚えがない。


じゃあ、なぜ名前を知っている?

あーでもないこーでもないと数秒考えたが、目の前の女性が「寮」という言葉を口にしたのを思い出し、寮関係の人間かと予想した。


そういえば半放心状態だったから記憶が曖昧だが、寮から出る時に後ろに誰かいたような気がする。じゃあなんだ、退寮になった自分を笑いに来たのかこの女は。


こんな日にとんでもない出会いもあるものだ。何がムカつくって話しかけた女の面が良い所だが、


もうどうでもいい。全部利用しよう。


「お、いい所に来たな」

「へ?」


そうそう、その鳩が豆鉄砲を食らったような表情、自分の退寮宣告を貰った時にソックリだ。


悪く思うなよ、話しかけてきたアンタが悪い。


「すまないが、金欠気味でな。メシ奢ってくんねーか?」




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