第1章 不思議の国に迷い込んだおじさん⑥

 今日は土曜日と言うこともあり、休養日とすることにした。


 こっちの世界じゃ独り身なので、特にすることもない。前の世界だと土日はいろいろな予定ですぐ潰れていたから少し寂しい。


 余計なことにお金を使うこともないのでちょうど良いと言えば良いけれど。


 情報収集するために三十分ほど歩いて駅前にやって来た。休日で人がたくさん出歩いている。


「こうやって歩くとこっちの世界もあまり街並みは変わらないか。」


 毎日ヘトヘトになって宿ですぐ寝ていたので、こっちの世界にはまだ疎いのだ。


 とりあえずデカい本屋に行って情報収集することにした。ネットも良いけどまずは信用度の高い情報を手に入れないとね。その後にネットの海にでも潜ろう。


 本屋に行くと、やはり冒険者についての書籍のコーナーがあった。とりあえずパッションだけで冒険者になったので、冒険者についての情報をしらみつぶしに調べる。


「フムフム。なるほどね。」


 冒険者が世界にしっかりと馴染んでいるのがよく分かった。存在意義と言うか、一つのエネルギー産業の一つとして成り立っているその事実に興奮した。ただやはりハイリスクハイリターンの職業だけに長く続けるのは難しいらしい。


 いつの間にかだいぶ時間が過ぎていたようだ。あっという間にお昼を過ぎていた。


「ご飯でも食べようかな。」


 お腹が減ってきたので、近くのお店を探すことにした。お店が集まっている通りを歩いていると、見たことのある顔と出会った。


「あれ、阿部さんじゃないですか。」


 受付嬢に遭遇した。彼女の名字は阿部なのだ。いつもはギルドの制服を着ているのでクールなイメージだが、私服姿はとてもオシャレな格好をしている。眼福眼福。


「山田さんですか?」


 彼女がびっくりしている。


「奇遇ですね。どうしてここに?」

「息抜きと情報収集をしにですかね。阿部さんは?」

「私は買い物です。休息は大事ですからね。しっかりリフレッシュしてくださいね。」


 阿部さんは一人で街に買い物にきたらしい。彼氏はいないのだろうか。余計なお世話か。


「もうお昼は食べましたか?」

「まだです。」

「それならご一緒しませんか?ご馳走しますよ。」


 オジサンが誘ったからだろう、さっき出会った時よりもっとびっくりしている。


「え、それってナンパですか。」

「そういう意味ではなくてですね。阿部さんからいろいろ冒険者のことについて聞きたいんです。」

「そう、ですか。」


 彼女は暫く考えて、


「いいですよ。それならご馳走になります。」


 悩みながらもオーケーしてくれた。逆に顔見知り程度でオッケーしてくれたことに感謝だ。何でも言ってみるもんだね。彼女も暇を持て余していたのかもしれないし。


「勉強不足で申し訳ないのですが、この辺りで美味しいランチをご存知ですか?」


 と彼女に聞くと、


「えぇ、今から行こうと思ってたところがあるんです。」 


 彼女が行く予定だったお店に連れて行って貰うことにした。そこは良い感じのビストロだった。お昼の一番混雑する時間帯を過ぎていたので待つこともなく入ることが出来た。コース料理を頼み、運ばれてくる美味しい料理に舌鼓を打ちながら俺は彼女に質問した。


「一人でダンジョンを攻略するにはどうすれば良いですか?」

「どういう意味ですか?」

「今の自分だとソロでダンジョンを攻略出来るようになるのに時間がかかりそうなんです。少しずつ実力つけるしかないのかな?」

「山田さんは冒険者になって日が浅いですし、昨日初めてダンジョンに入ったばかりですよ?焦らず実力をつけていただくのがギルド職員としての希望です。」

「やっぱりそうですよね。」


 やはりギルド職員はそう言わざるを得ないよね。分かってたけど。


「マジメな山田さんならそのうちソロでも初級ダンジョンを攻略出来るんじゃないでしょうか。」

「そうですかねぇ。でもそんな悠長にしてられないんですよね。もう若くないですし。」


 思わず自嘲する。俺TUEEEがしたいわけじゃないけれど出来れば早く強くなりたい。そんな複雑なオジサン心。ゲームじゃないんだからパパって強くなれるわけじゃないのは分かってたんだけどね。


 「そんな…。あのー、方法はないわけではないですよ。」


 そんな俺を見かねて阿部さんが言う。


「え?本当ですか?慰めてるわけじゃないですよね?」 

「えぇ。手札を増やすために手っ取り早いのは魔法ですね。やはり魔法を使えると戦術に幅が広がります。魔法をまず覚えるのが一番の近道ですね。」


 魔法。阿部さんの口から普通に出てきたコトバ。ホントに存在するんだな。


「魔法、ですか。」

「えぇ。ちなみに山田さんはお金に余裕はありますか?」

「お恥ずかしながら余裕はあまりありません。」


 カッコつけたいところだが、そんな状況ではないので正直に言う。


「それでしたら山田さんの場合ですと、【溶解の沼】ダンジョンに出てくる、魔法を使うスライムの核を取り込んで魔法を覚えるのが一番の近道ですね。」


 スライムダンジョンでは九割九分九厘がノーマルスライムが出てくるが、凄い低い確率で魔法を使うスライムが出てくるらしい。そのスライムを倒して、核を身体から吸収すると魔法を使えるんだとか。


 ただ気が遠くなるくらい確率は低いので、引き当てる前にボスモンスターを倒してしまい諦めて次のダンジョンへ行くことの方が殆どとのこと。


「もう一つの方法としてはギルドショップで売っている魔法薬を買うのが一番なのですが、とても高価なんです。ですので現状ですと山田さんの場合は自力で取得するのがよろしいかと思います。」

「なるほど。」


 魔法を覚える方法は二つ。魔法薬を飲むか、魔法を使うモンスターを倒して核を吸収するか。魔法薬というのは、魔法や特技を使うモンスターの核からエネルギーを分離して、特性が得られる素だけ残したものらしい。


「核を吸収する際に気をつけなければいけないことは、取り込むとその後二日くらいは高熱が出てかなり苦しむことになります。核を吸収する方法はあまり、というか基本推奨されていません。」


 俺も本当は魔法薬が良いのだが、貧乏冒険者には選択肢は残されていないようだ。


「ですので、取り込んだ際は数日間は大事を取ってくださいね。」

「分かりました。気をつけます。」


 核をゲットした際にはスポドリもしっかり準備しようと心に誓ったのだった。


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