城の中のラスボス戦 ⑩
間一髪だった。
私は倒れているソティルの側に寄ると、エクスシアで身体を抑えている杭を無効化し、消滅させた。
「もうッ、遅い! 普通に命と貞操の危機を感じたわ」
ソティルが起き上がるなり、軽口を叩く。貞操の危機って何だ、どういう意味だ……いや、それよりも聞きたいことがある。
「っていうか、あなた、本当のソティル王女じゃなかったの!?」
さっきのハルマという勇者との会話は、私にも聞こえていた。だとしたら、私たちの今までの関係性は何だったんだって話だ。
すると、私の言葉に、ソティルがぽかんと口を開けた。
「……え?」
「……え?」
そのソティルの反応に、ようやく私は察しがついた。
あ、うん……そういうことだよね。当然、テロスを騙す為の嘘だよね。
知ってたよ、勿論。
「……冗談よ」
「面白い顔が見れて、ラッキーね」
ニヤニヤと笑うソティル。助けにこなければ良かった。
「それで、ちゃんと策はあるんでしょうね?」
「スピラって、頭いいとは思うけど、ちょっと抜けてるとこあるよね」
「その話は後にしろ!」
段々と顔が熱くなってくる。
すると、壁に吹き飛ばしたテロスが、むくりと起き上がった。
「どうやらお前らは、どこまでも俺をコケにしたいらしいな」
テロスが再び、火球を発生させ、私たち目がけて放った。
私はエクスシアでそれらを素早く掻き消し、テロスへ接敵する。エクスシアを振り上げると、テロスは横に飛び退いて回避した。
「何度やっても同じだ!」
「そうかしら?」
ソティルがそういった時、テロスの身体がエクスシアの攻撃範囲へと転移させられた。
「転移魔法!?」
「残念。ここは私のテリトリーよ」
ソティルの言葉に私は笑みを浮かべた。
絶妙の位置。
私はありったけの魔力を込めて、エクスシアを振り下ろした。戦槌の直撃が、テロスを襲った。
「がはッ!」
テロスが初めて、呻き声を上げ、床に叩きつけられた。すると。
「スピラ、すぐにこっちへ!」
ソティルがそう叫んだので、私は追撃をせずに、ソティルの側まで後退した。
直後、ソティルは両の手を床につけて、魔力を床へと流し込んだ。
「これで終わりよ」
ソティルが言うと、テロスの身体の下に転移魔法陣のようなものが現れた。
けれど、転移魔法というには、発生している魔力の奔流が尋常ではない。
まるで雷のような放電現象のようなものが、テロスの周りに渦巻き出していた。
「なんだこれは……?」
テロスが起き上がるも、その異様な転移魔法の力場とでもいうべきものが、テロスの身体の自由を奪っていた。
ソティルがテロスの方を見て小さく笑った。
「じゃあね魔王……本物の勇者によろしく」
「ま、待て……」
言葉を言い切る前に、テロスの身体が転移魔法によって消え去った。
放電現象が収まり、周囲は静寂に包まれた。
「ねえ……まさか、遠くに飛ばしただけってわけじゃないわよね?」
私は恐る恐るソティルに聞いた。
ただ転移させただけでは、あれだけの能力を持つテロスのことだ。また私たちを襲いにくるかもしれない。
すると、ソティルが腕を組んで神妙な面持ちになる。
「まあ、遠くといえば遠くだけど……」
「何処に飛ばしたの?」
「千年前」
「……は?」
あっさりと答えるソティルに、私は愕然となった。
「だって、あんな強すぎる魔王を倒せるの、本物の勇者しかいないでしょ」
ソティルが、悪戯っぽい笑みを浮かべて言った。つまりソティルは、ただの転移魔法ではなく、時間転移魔法を使ったということだ。自分たちの力で魔王を倒せないと判断したソティルは、魔王を過去に送ったのだ。
正論だと思う。
正論だけどさ……。
「えっとこれだけ準備して、戦って……最後は結局、他人任せってこと?」
「そうとも言う」
胸を張ってソティルは答えた。
何とも情けない、戦いの決着だった。
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