城の中のラスボス戦 ⑨

「……誰だ貴様は?」

 テロスが虚空に響き渡る男の声に問い掛けた。

『愚かな魔族の王よ……なぜその娘が〈勇者〉だと思ったのだ?』

 その声に、テロスが眉をひそめた。

「この女がそう名乗ったのだ。それに、私は人間たちの〈予言〉を知っている。〈勇者〉の予言を受けたのは、この国の王女で間違いがない」

『では聞くが、その娘は本当にソティル王女なのか?』

 テロスの顔が険しくなった。

「どういうことだ?」

『お前は、ソティル・エクセリクの本当の顔も、声も知らない。なぜなら、王女は〈勇者〉の予言を受けてから、身を隠して表舞台から消えたからだ。それなのに、お前は城内の塔にいたということと、宣戦布告の時の声と同じだったという状況だけで、その娘をソティル・エクセリクだと決めつけている。それは真実か?』

「真実でないなら、本物のソティルは何処にいる?」

『私が匿っている。嘘の予言のせいで、魔王のお前に命を狙われる可能性があったからな。勇者も魔王も、この世でたった一人だけだというのに』

「……いけません、ハルマ様」

 男の声に反応し、ソティルが言った。すると、その名前を聞いたテロスが、顔に動揺の色を見せた。

「ハルマだと!? 貴様、ハルマといったのか!?」

「そうよ……千年前に、あなたと戦った本物の勇者様……残念ね。私は、ハルマ様の指示で動いていただけ。〈アリシャの石〉も、本当はハルマ様が既に確保しているわ」

 ニヤリと笑みを浮かべるソティルに、テロスが怒りの形相を浮かべた。

「信じられるものか! ハルマ、お前は、所詮人間だ! 千年前に、既にその命は朽ちたはずだ!」

『お前は忘れたのか? 俺のデュナミスを』 

 ハルマの声に、テロスが愕然となった。

「まさか……」

『そう。俺のデュナミスは、時間を操る能力だ。千年後に、お前が再度侵略に来ると考えた俺は、自分の寿命を延ばしたのだ。自らに流れる時の流れを遅くすることによってな』

「バカな……」

 テロスはそう零すと、ギリッと歯を食いしばった。

「ハルマ……お前のことはいずれ見つけ出す! だが、この娘は今ここで殺す! 関係のない人間を巻き込んだことを悔いさせる為にな!」

 テロスの拳が振り上げられた時だった。

「させるかぁーー!」

 叫び声と共にスピラが現れ、エクスシアを振るい、テロスの身体を吹き飛ばした。

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