城の中のラスボス戦 ⑤
幹部2人が倒されたという報は、魔王軍の志気と戦力に大きな影響を与えた。
対して、人類側の志気は大きく跳ね上がる。騎士隊の攻撃は勢いを増し、魔王軍は次第に追い詰められていった。
「これで幹部を二人とも倒した。突破された正面の陣形も再編成したし、戦いは最終局面に入ったわね」
ソティルがイトデンの映像で戦況を確認しつつ言った。
私は大きく頷いて答えた。
「これで残りは、一般兵と魔王テロスのみ」
「ええ。さて、魔王が文献通りの実力かどうかだけど……まずは、ありったけの戦力ぶつけるわ。火力で圧倒すれば、いくら魔王だって」
ソティルが思案していたその時だった。
『現代の〈勇者〉よ……聞こえているか?』
白のイトデンの一つから、テロスの声が響いてきた。私とソティルは、顔を見合わせた。ここに来て、ようやくテロスが動きを見せた。いよいよだ。
「聞こえているわ。降伏でもしてくれるの?」
ソティルがイトデンに向かって問い掛けた。
『いや、非礼をわびようと思ってな……確かに、お前達は強い。そちらに地の利があるとはいえ、ここまで我が軍が圧倒されるとは思いもしなかった。敬意を表するよ』
「あらそう。なら、さっさと異界へ撤退してくれると有り難いのだけど」
『ああ、撤退しよう。私以外はな』
テロスがそう言った直後、大きな叫び声のような音が、部屋に設置したイトデンから聞こえだした。
「なに!?」
私とソティルは、壁に映った映像に視線を移して、息を呑む。
魔王テロスが味方であるはずの魔族を虐殺し始めたのだ。手から攻撃魔法らしきものを発し、次々と魔族の兵を殺し尽くしていく。
その凄惨で異常な光景に、騎士達も攻撃の手を止めていた。
そして、テロスは五分と立たないうちに、自らの兵を全滅させてしまった。
『……〈勇者〉よ。これで侮ったことの詫びの印としよう』
テロスの言葉に、私もソティルも押し黙った。
その圧倒的な力と狂気に、騎士達全員が完全に飲まれてしまった。
しかし、そんな中、果敢に魔王に迫る影があった。
アリストス王だ。アリストス王はテロスに一気に接敵すると、大剣を一気に振り下ろした。
だが、テロスは大剣の一振りを片手であっさり受け止めた。
刃はテロスの手に傷一つ付けていないどころか、アリストス王の魔力で強化された膂力と大剣の質量を持ってしても、テロスの身体を僅かに身じろがせることさえ出来なかった。
『人間の王、この程度か』
その言葉の直後、テロスの手から炎が燃えさかり、大剣を一気に伝ってアリストス王の全身を襲った。
『お父様!』
ソティルが思わず声を上げると同時に、彼女は転移魔法を発動させて、アリストス王を医療班の元へ転移させた。テロスの側には、炎で焼かれた大剣だけがその場に残された。
私は、息を呑んだ。
映像越しでも分かるテロスの迸る魔力は、幹部の比じゃない。それはまるで、大地震や台風を思わせる災害に等しい魔力量だった。
『愚かなお前達に教えてやろう。圧倒的な個は、集団の力を容易く超えるということをな』
テロスは言うと右手を頭上に挙げて魔力を活性化させた。
「ダメ、逃げて!」
ソティルがイトデンを通して騎士達に向かって叫んだ。
直後、テロスは自分の頭上に、魔法で巨大な火球を出現させた。
その大きさは、直径五十メートルを超える。
禍々しさを持った、まるで小型の太陽だった。
テロスが手を振り下ろすと、火球がゆっくりと街の防壁目がけて動き出した。ソティルが慌てて、イトデンで命令した。
「全隊、転移魔法を使用して撤退! 火球から離れて!」
その命令を受けて、火球の進路上の騎士達が一斉に転移魔法で撤退した。
火球がゆっくりと、街の防壁にぶつかった。
直後、轟音を伴った大爆発が起きた。
衝撃の振動が、正面扉から離れたこの塔にまで伝わってきた。
爆煙で、イトデンの映像では何も見えない。
やがて騒然とした音は静まっていき、映像も復活した。
そこに映っていたのは、破壊された街を覆う防壁と、爆発により大きく地面が抉られた光景だった。防壁側にあった商店なども爆発の被害を受け、跡形もなく崩れ去っている。
戦場に近い民家や商店の人たちの避難はあらかじめしていたのが、不幸中の幸いだった。
「……魔法力が違いすぎる」
ソティルがそう呟いた時だった。
巨大な振動と共に、塔が大きく揺れ出した。
映像を映し出していた壁に、亀裂が走った。私はすぐさまソティルの前に立って、〈エクスシア〉を格納魔法から取り出した。
塔の壁が、爆風と共に破壊された。
飛んでくる石の破片を、私はエクスシアで弾き飛ばし、ソティルを守った。
煙が晴れ、そこには飛行魔法で宙に浮かぶ、魔王テロスの姿が現れた。
「会いたかったぞ、〈勇者〉」
テロスの嗜虐に満ちた笑みが、ソティルに降り注がれた。
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