城の中のラスボス戦 ④
ラトレが魔王軍幹部を撃破した様子を、私とソティルは部屋の映像で確認していた。
「あの子、結構やる……」
私は素直に感心していた。私とのケンカだとすぐ決着がついたせいで、見せる機会がなかったのだろう。けれど、魔法矢を打てば打つほど戦況を有利に出来るのは、中々優秀なデュナミスだと思う。映像からは、ラトレが回復班に腕を治療してもらっている姿が映っていた。危うい戦いではあったけど、勝利は勝利だ。
「これで、西側は楽になるね」
「ええ。あとは、東側の幹部だけど」
『ケイル――――!』
突然、黒のイトデンから、耳をつんざく叫び声が部屋中に響いた。
私とソティルは思わず顔をしかめ、両手を耳に当てた。
声を荒げたのは、防壁の東側にいるもう一人の魔王軍幹部だった。見た目は褐色の筋骨隆々の大男だが、その額には大きな角が生えている。
名前をタッロスというらしい。ご丁寧にタッロスは、戦闘開始時に自分の名を名乗っていた。
相対しているのは、ソティルのお父さんであるアリストス王だった。アリストス王も、この作戦を成功させる為に、自ら望んで前線に立っていた。
だが、アリストス王は苦戦していた。タッロスは、身長2メートルを超えるアリストス王の体格を、さらに二回り以上も超えるほどの体躯だった。
タッロスは武器を持っていなかったが、その巨体は、魔力によって作られた雷を全身に纏っていた。拳の一振りが雷撃となって、騎士達をなぎ払っていく。いくら土地の魔力を使役しているといっても、ダメージの大きさは避けられない。アリストス王は大剣を駆使して戦うも、苦戦を強いられていた。
タッロスは仲間がやられた怒りで、さらに纏った雷と攻撃の勢いを激しくさせた。
『エクセリクの王よ、全力を出して見よ! 俺を止めねば、俺は死したケイルの分までこの戦場を血で染めてやろうぞ!』
『フン、貴様ごときにこの国の民と兵の血を流させん! 尋常に勝負!』
映像の向こうでは、互いに大きなものを背負った、男同士の熱い戦いが演じられていた。
一撃一撃がハイレベルかつ強力な技の応酬。
力と力のぶつかり合い。
私はつい、手に汗握ってその戦いに見入っていた。人類と魔族、立場は違えど、正々堂々と正面から戦う姿は憧れるものがあった。
私がイメージしていた、勇者となって魔王と戦う姿を体現しているようで、とにかく熱い。私が戦いに興奮している一方で、映像を見たソティルが不安げに眉をひそめた。
ソティルにとっては父親の決死の戦いだ。心配になるのも無理はない。
「大丈夫よ、ソティル。あなたのお父さんならきっと勝てるわ!」
私も映像に映し出される熱戦に当てられたせいか、そんな言葉を投げかけていた。
すると、ソティルがさらに眉間にしわを寄せた。
「いや、時間かかりすぎというか……暑苦しい」
「はい?」
「お父様、そろそろ作戦を始めてください」
ソティルが白のイトデンを通して、アリストス王へ伝えた。アリストス王の耳にも、私のニパス戦と同じような小型のイトデンが耳に装着されている。
『そ、ソティル!? し、しかし、これは男と男の真剣勝負でだな……』
「そういう汗臭いのは嫌いです。命令に従えないなら、一ヶ月口をききませんから」
『うっ……』
ソティルの痛烈な言葉に、映像の中のアリストス王の剣戟が明らかに鈍った。
『どうした王よ! そんなことで俺を倒せるのか!』
事情の知らないタッロスは、アリストス王を囃し立てるように言葉を投げかけた。
しかし、アリストス王は苦悶の表情をした後、
『……許せ、強き者よ』
そう掠れた声を零し、その場から大きく飛び退いた。直後、周りにいた騎士達もタッロスから大きく離れるように後退した。
『な、なんだ?』
タッロスが一瞬の困惑を見せた時だった。
「〈トゥリパ〉、実行!」
ソティルがイトデン越しに命令すると、タッロスの足下が大きく揺れて、そのまま地面が崩れ去った。作戦名〈トゥリパ〉――ただの落とし穴である。
タッロスの巨体は無残に穴の奥まで落下した。その深さは二十メートル。しかも底に落ちるにつれてすり鉢状になっており、奥底は身動きが取りづらい仕様になっている。掘削のデュナミスを使って、短期間に一気に拵えたものだった。
『罠だと!? 見損なったぞアリストス王! 貴様には武人としての矜持はないのか!』
『許せタッロス……我も所詮は父親。武人としての矜持よりも娘に嫌われる方が怖いのだ』
そこには、ごくありふれた、もの悲しい父親の言葉があった。
正直、あまり見たくない光景だ……。
「戦争やってるんだから、卑怯も何もないでしょ」
悲しみの男達の会話に、ソティルが呆れるように呟いた。多分、こいつには一生理解できないものかもなぁ……。
「まあ、いいわ。全員、一斉攻撃!」
落とし穴で身動き取れなくなったタッロスに向かって、騎士達の魔法攻撃と防壁からの支援攻撃が一気に降り注いだ。タッロスは攻撃を防ぐ為に変身しようとするも、その隙すら与えられない攻撃の連続にやがて倒れ、光の粒子へとなってその姿を消した。
『タッロス……』
倒れた魔王幹部の姿を確認し、アリストス王が声を震わせた。
「よし、これで幹部二人を撃破完了ね」
ソティルが上機嫌にそう言った。
こいつは、もっと父親に優しくした方がいいと思う。
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