城の中のラスボス戦 ② 

 魔王軍幹部のケイルは、目の前の状況が信じられなかった。

 かつてこれほどまでに、人間の軍勢に圧倒されたことは、今までなかったからだった。

 土地の魔力を利用した攻撃と防御だけでない。

 こちらの反撃の隙を与えないような陣形、加えて街を守る防壁の上からは、バリスタや魔法攻撃による援護射撃を行っている。

 倒れた騎士は、その場ですぐさま転移魔法で移動し、回復魔法による治療を受けてから、再び戦場へ戻ってくるという徹底ぶり。この作戦を立てた人間の性格の悪さが窺える。

 この劣勢を覆すには、単独の力で相手の陣形を崩して突破するしかない。

 多少強引ではあるが、そうでもしなければ、自分たちまでテロスの逆鱗に触れる可能性があった。

 ケイルは、魔法による攻撃が飛び交う中、街を囲む防壁の扉の位置を確認した。

 あの扉を破壊し、一気に街中へ侵入する。そして、戦線の位置を大きく変える。さすがに王都内部に侵入されれば、敵も陣形を後退しないわけにはいかないだろう。

(私の力で、突破してみせる!)

 ケイルは体内の魔力を膨れ上がらせて身体を変形させた。

それは、巨大な黒い蛇の姿だった。幹部以上が出来る魔力の覚醒現象だ。

 ケイルは魔力を纏った巨体で、正面の陣形を蛇の姿でなぎ払い、扉へと進撃した。

 防壁側の騎士達が、魔法や弓でケイルを止めようと攻撃する。だが、魔力により強固に守られた体表は傷一つ受けない。

 ケイルがそのまま直進しようとしたときだった。額に強烈な爆発を受けて、その前進が止められたのだ。何者かの攻撃。

 ケイルが攻撃のした方に視線を向けると、そこには桃色の髪をした少女が立っていた。その髪色に、ケイルは人間界で聞いたある話を想起した。

 劣等種族の人間の中でも、奴隷の身分に生まれ、さらに奴隷の中ですら劣った存在と見なされた者たちがいるという。

 それらは髪の色によって区別され、奴隷に似合わない鮮やかすぎる髪色から、卑しい存在として迫害を受けていたという。

 ケイルは目の前の少女が、その劣等種であると認識した。

 同時に、その劣った存在に、足止めされたという屈辱が湧き上がる。

少女がケイルへ向かって駆け出してきた。

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