城の中のラスボス戦 ①
魔王軍との決戦が始まって、既に一時間が経過していた。
現状、地の利を活かした攻城戦に加え、開戦早々に敵軍全体を包囲する構造を取れたので、人類側が大きく優勢となっていた。
加えて、土地の魔力を用いた騎士との戦闘は、敵側からすると初めての状況であり、いつもは魔力で騎士を圧倒していた魔族達も対応が取りきれず次々とやられていく。
戦場では各配置についている騎士隊長たちが指示を出しているが、ソティルもイトデンから入る情報を駆使して細かく指示を出し、戦況をコントールしていた。
「想定していたより、うまくはまったわね」
ソティルが映像を見つつ言った。
目的の攻城戦に持ち込む事に成功した上に、戦力差を埋めるための入念な土地の魔力の活用や、イトデンを使った状況判断。
加えて、相手が油断して攻めてきたおかげで、こちらは最適の陣形で戦闘に望める。
ソティルが当初思い描いた戦場が、今のこの場に描かれていた。
「ある意味、必然でしょ。それだけの準備してきたってことだし」
「あれ? 珍しく褒めた?」
「……ただの真っ当な評価よ」
私は気恥ずかしくなり、ソティルから視線を外した。
イトデンに映し出される映像に、私は内心、圧倒されていた。
悔しいけど、ソティルは凄い。
仮に私が同じような力や立場であったとしても、ここまでの状況を作り出せるかは分からない。
街全体も、昨日の演説からのお祭り騒ぎで、土地の魔力は満ちあふれている。
もはや、人類側に負ける要素はないのではと思うほどだ。
「でも、まだ魔王軍には幹部もいる。並の魔族相手なら今のままで十分だけど、ニパスレベルの相手ならまだ油断はできない」
ソティルはそう言うと、イトデンから送られてくる映像を見渡し、戦況の確認を続けた。
「……なんかさ、私より魔王討伐に夢中になってない?」
私は呆れと少しの焦りを抱きつつ、ソティルに問うた。すると、ソティルがなぜか、顔をほのかに赤らめた。
「その……敵を罠にハメて圧倒するのって……気持ちいいわね」
「変な趣味に目覚めるな」
一国の王女として、とんでもない発言である。
「冗談よ、冗談」
ソティルが誤魔化すように笑って言った。本当だろうな?
しかし、そんな余裕のソティルの表情が、一気に引き締まった。私はソティルの目線を追って、その理由に気づく。視線の先のイトデンの映像には、腕を組み自軍の兵へ視線を送る魔王テロスの姿があった。
魔王。
その力は未知数だ。
魔力量もデュナミスの情報も、過去の文献にも一切載っていなかったらしい。
魔王に関してだけは、攻城戦の中に具体的な対策を立てられなかったという。
「どんなに策を詰めても、この戦いは魔王を倒せるかどうかに掛かっている。相手がどのタイミングでどう動くか……本当の勝負はその時よ」
ソティルの言葉に、私は拳に力を入れた。魔王テロスに関してだけは、つまり出たとこ勝負。
そう――その時こそが私の本当の戦いの始まりだ。
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