王都は踊る ⑦
レオーンは祭りの熱気に包まれながら夜を超えて、そして朝を迎えた。
ソティルの指示した通り、祭りの賑わいは朝になっても衰えなかった。
一方、朝になると騎士団の各班は、魔王軍を迎え撃つために、決められた配置についた。ラトレも朝までは一緒にいたが、事前に言っていた通り、防壁際での守りの配置へと向かった。
作戦に参加する騎士の数は、約三千人である。魔法を扱える騎士の人数としては、一個師団に満たないが、これが現状の精一杯だった。
ソティルは、今日は作戦室ではなく、自分の私室で指揮を取ると言った。その為、部屋中がイトデンだらけの有様になっていたが、ソティルはどれが何処と繋がっているかちゃんと把握しているとのことだ。何とも頼もしい。
そして、魔王が指定した時刻まであと十分ほどになった。
「さて、どう動いてくるか……」
ソティルは青のイトデンに映し出される映像を見つつ呟いた。
コーリオンからレオーンに至るまでのルートには、騎士隊の一部とイトデンを設置して、魔王軍の動きを確認できるようにしていた。
けれど、魔王軍らしき姿はどの映像からも見つけられなかった。
「来ないの? もう時間だけど……」
「うーん、相手のプライドに賭けるしかないわね」
「どういうこと?」
私がそう問い返した時、丁度魔王の指定した時間になった。
直後、怒号のような声が、白のイトデンを通じて聞こえてきた。ソティルが音のしたイトデンを手に取る。確かそれは、南の街門に設置したものだった。
「どうしたの?」
『魔王軍です! 防壁前に突然現れました!』
「数は?」
『およそ三千!』
ソティルはそれを聞くと、青いイトデンの取り出して、それを部屋の壁に映し出した。
映像には、魔王の軍勢がレオーンの目と鼻の先に現れていた。
「転移魔法を使ったってことか」
一気に三千人もの魔族を、しかも転移先に魔法陣を組まずに行うなど破格の能力だ。
「まあ、転移魔法は私の専売特許ってわけでもないしね。それよりも、都市内に転移してこうならなかったのが幸いだった。都市内だったら、勝負は終わってたからね。魔王のプライドに感謝」
ソティルは呑気な口調で、そんなことを言った。
敵がいきなり目と鼻の先に現れたというのに、何を平然としているのか。しかも、そのせいで侵攻ルートに配置していた戦力が、すべて無駄になったということになる。
状況は、開戦する前から不利になったとしかいえない。
『現代の〈勇者〉よ、約束通り来てやったぞ』
不意に、白のイトデンの一つから魔王テロスの声がした。
『決戦にふさわしく、こちらは全兵力を用意した。〈アリシャの石〉は用意してあるな?』
「当然よ」
ソティルが平然とウソをつく。この豪胆さはさすがだ……。
『今日で俺の願いもようやく叶う』
「願い?」
『勇者を思う存分叩きのめし、尊厳を奪い、最後には殺すことだ』
テロスが獰猛な眼差し共に、ソティルに言い放った。
ソティルは動じずに、不適に笑い返して見せた。
「果たしてできるかしらね? それに、転移魔法でいきなり現れるなんて、ちょっと無粋なんじゃない?」
『フン。街中に転移しなかっただけ感謝するのだな。悪いが、一気に正面突破させてもらう』
「そうね。でも、それは愚策よ、魔王」
『愚策だと?』
「あなたは、私たちを侮った」
『――――なにッ!?』
私は、壁に映されていた映像を見て驚愕した。
いつの間にか、転移した魔王軍を取り囲むように、騎士隊の配備がされていたのだ。
ソティルもまた、転移魔法を用意していたのだ。
「こっちは無駄な兵力さけないからね。侵攻ルートに配置していた騎士隊を戻す手段も用意しているわ。当然、配置位置には土地の魔力の使役魔法を用意済み。先手を取ったつもりが、大きく後手に回ったわね?」
『貴様ッ!』
魔王テロスの憎悪の籠もった声が、イトデンから響いた。それを聞いて、ソティルが口の端を浮かべた。
「さあ、決戦よテロス。魔王は勇者に倒されるのが、どの世界でも王道よ」
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます