勇者の仲間募集中! ③

 午前十時を過ぎ、まもなく面接が開始される時になった。

 ソティルと私が並んで座り、机を一つ挟んで少し距離を取った場所に、参加者用の椅子が置かれている。ラトレは参加者の椅子の横から少し離れた位置に待機することになった。何か不審な動きを見たら、すぐに動けるようにする為らしい。

 ちなみに、各新聞に広告を出した結果、参加希望者は百人を超えているとのことだ。これらの人数を今日中に捌き切る予定らしい。

「さすがに人数多すぎない? 夜までに終わる?」

「終わらせるのよ。他のタスクも残ってるし。私がチェックするのは、デュナミスの内容だけだし。細かい審議用に二次面接もちゃんと用意してるから」

「普通、逆じゃないの?」

 一番偉い人間が最初に見るなど、魔法騎士の試験でも訊いたことがない。

前代未聞である。

「よし、じゃあ開始するわよ」

 ソティルがそう告げて、面接が開始されたのだが、

「私のデュナミスは、物と物を融合させる能力です。生物には使えませんが、武具をつくる際の素材の強化に使えるかと」

「合格!」

「私のデュナミスは、掘削能力です。もっとも、力が強すぎて鉱石を粉砕しすぎてしまうので、採掘には使えないのですが」

「合格!」

「落とし物を届けるデュナミスです。落としたものの本来の所有者の名前と顔が分かります」

「合格!」

「紙に書いた文字や絵を転写するデュナミスです。色んな場所に転写できます。子供の頃、この能力でよくラクガキをして親に怒られました」

「合格!」

「ちょっと待て!」

 ソティルは次々と現れる参加者を、軒並みに二次面接に送り出していた。

こんなのでは、ほとんど面接の意味がないのでは?

「さすがソティル様。その慈悲深さは、すべてを包み込む大海のようです」

 ラトレはラトレで、ソティルが何を言っても、何をしても褒め称える揺るぎない全肯定姿勢を見せていた。逆に、ちゃんとソティルの言うことを聞いているのか疑わしくなってくる。

「ちょっと、どういうつもり? これじゃあ、参加者のほとんど合格もあり得るでしょ」

「そうかもね。いやぁ、思ったより使えそうなデュナミスばかりで楽しいわ」

 ウキウキと言うソティル。やっぱ、遊んでんじゃないだろうな、こいつ……。

「これって面接なんだよね? だったら、こんなに合格にしてどうすんの?」

「言ったでしょ。落とすのが目的なんじゃなくて、才能を見るための面接。だから広告にも試験ってあえて書かなかったし。魔王軍との戦いには、選りすぐりの人間を揃えるんじゃなくて、すべての才能を活かしていかないと」

「何処まで採用する気?」

「うーん……国家予算の許す限り?」

 てへっと笑っていうソティル。私は今、暴君の萌芽を見ているのかもしれない。

いや、救済の女神なのか? もう、よく分からない。

「ホント……めちゃくちゃするわ」

「まあ、二次で多分絞られるけどね。私が、ちゃんとデュナミスの内容を把握しているのが重要なのよ」

「ああ……なるほど」

 私はようやく合点がいった。要するにこの面接は、ソティルが作戦を立てる際に、頭の中の選択肢を増やす為のものなのだ。それは、立案できる作戦の幅や、実行期間の短縮に繋がってくる。この面接の参加者は、身元確認のために、名前と住んでいる場所を確認しているから、二次で不合格となっても、必要ならすぐに呼び出すことも出来る。

 仮にレオーンから移動することがあっても、ソティルのイトデンを使えば、相手の居所をすぐに調べて、徴集することも可能というわけだ。

「まあ、やろうとしていることを考えれば最も効率的か……半日かける価値はあるかもね」

「スピラのそういう理解の早いところ好きよ」

「はいはい」

 こいつに好かれても、まったく嬉しくない。すると、不意に殺気のようなものを感じて、私は慌てて視線を移した。

見ると、ラトレが何処か不満そうに私の方を睨んでいた。

 なによ、その目は……。

「ラトレ、次の人呼んできて」

「畏まりました」

 ソティルに言われて、ラトレは私から視線を外して、扉の方へと向かった。

 なんか、あの子とうまくやっていける気がしない……。


 面接は夜まで続き、終わった頃には夜八時ごろになっていた。

「………………疲れた」

 私は机の上に身体を投げだし、ぐったりとした。かなりテンポ良く面接自体は進んだのだけれど、昼過ぎ頃に噂を聞きつけた人たちが、参加したいと訴えだし、ソティルがこれを了承してしまったのだ。

 結果、百五十人以上を一日で見ることになり、しかも、参加者の九割以上が合格になった。落とした一割は、複数のデュナミスを使えるといった口頭で明らかに嘘と分かるものや、まだ力が発現していないのに、よく分からずに来た子供たちだった(ただ、その子達の面接時間が一番長かった)。

「そう? 私は楽しかったけど」

 ソティルは机の資料を揃えながら、平然とそんなことを言ってのけた。

 部屋に籠もりきりのはずなのに、なんでこんなに体力あんの。

「しかし、ソティル様。少しお休みになるのはどうでしょうか」

 ラトレがソティルに進言した。私はその光景を意外に思った。基本、ソティルに対して何か言うことはないと思ったのに。

「そうね……じゃあ、ご飯にしましょうか」

「城の料理人に作らせて運んできます」

 私はその言葉に、少し期待に胸が膨らんだ。ここに来てからは、なぜかソティルの作るご飯ばかりで、城の料理というのを食べたことがない。きっと、高級食材ばかり使ったこの世のものと思えないほどの贅沢で絶品な料理に違いない。まあ、王族と騎士では別メニューかもしれないけど、ソティルと一緒なら、もしかしたら王族の食事にありつけるのではないか。

「大丈夫よ。五階まで戻って自分で作るから」

 が、ソティルがその提案をすぐさま蹴った。まずい。

「いや、でも疲れてるし、たまには作ってもらったら?」

「そうですソティル様。そもそも料理など、王族のすることではありません」

 私の言葉に、ラトレが追撃をしてきた。

お、いいぞ。初めてこの子と意見が合いそうだった。

 ソティルは腕を組み、少し考え込む。

「気分転換になるし別に平気なんだけど……そうだ。ラトレ、あなたも食べる?」

「ふぇ!?」

 ソティルの提案に明らかに動揺の声を上げるラトレ。なぜか、顔も真っ赤になっていく。なんか流れが……。

「い、いえでも……ソティル様にそんなことをしていただくには!」

「そうよ。ずっと働きっぱなしだし、休むべきね」

 私も何とかラトレに便乗する。すると、ソティルがラトレに向かってにっかりと微笑んだ。

「ラトレ。命令よ」

「……畏まりました」

 あっさりとラトレは陥落した。多数決は残酷である。

……王族の料理、食べたかったなぁ。

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