勇者の仲間募集中! ②
新聞にソティルの募集が集まった翌日の朝、私は塔の書庫で目が覚めた。
私はここ数日、書庫にあったソファーで夜を過ごしている。ソティルには私室を使っていいと言われたが、夜ぐらいはあいつの顔を見ずに過ごしたい。
私は起きると、朝風呂に入るために、のそのそと二つ上の大浴場へと向かおうと階段へ向かった。この塔、屋上に露天風呂があったりと実に快適である。
「スピラ、おはよー」
階段に差し掛かったところで、上からソティルの声がした。
見ると、ソティルはおかしな格好をしていた。黒のきっちりとした印象の服で、膝上ぐらいのスカート、黒いタイツのようなものを足に履いている。
「おはよう……何その格好は?」
「スーツよスーツ。今日はこれから面接だからね。まずは形から入ろうと思って特別に用意したの。どうエロいでしょ? この足のタイツとか」
くるっと金髪をなびかせて回ってみせる。
え、エロいって……王女の癖にはしたないやつだ。
「し、知らないけど……まあ、頑張って」
「お風呂終わったら上に来てね。あなたの分も用意してるから」
「……はい?」
私が問い詰める前に、ソティルはウキウキとした足取りで去って行く。
今日もまた、面倒な一日になりそうだった。
お風呂に入って朝食を済ませた後、私はソティルにスーツという服を着せられて、二階の作戦室へ着た。普段は騎士団長を集めて会議する場所だが、机や椅子が入れ替わっている。今日はここを面接会場にするらしい。
「てか、なんで王女自ら面接するのよ。誰かに頼めばいいじゃない」
私は不機嫌さを隠さず、ソティルに訊いた。スーツとかいう服の窮屈さと、身体のラインにぴったりつくスカートの短さが落ち着かない。
「作戦の立案者は私だからね。人に任せるよりも、自分で能力の判断をした方が効率的だし、取りこぼしがないわ」
「どんな奴が来るか分からないから危ないんじゃない?」
「こんな格好だし、騎士隊長ってウソつくから大丈夫よ」
そんなことでバレないのだろうか。
「心配ありません。ソティル様の護衛には私が付きます」
声のした方を見ると、そこには同じようにスーツを着せられたラトレの姿があった。普段の鎧を着た騎士の姿じゃないのと、彼女が小柄のもあって、何というか違和感がある。子供が無理に大人ぶっているようなおかしさというか。大人な雰囲気のソティルと違ってなんか可愛い。
「……失礼なことを考えてませんか?」
「別に」
私は視線を外して即答した。
「ラトレ、今日はよろしくね」
「はい。ソティル様に無礼を働こうとする輩は、秒で始末します」
「いや、そこまでしなくていいかな……」
ソティルは苦笑いをしつつ、机の上の資料を開き始めた。
「あれ? スピラ、面接の名簿リスト知らない?」
「なんで私が知ってるのよ」
「じゃあ、私室かな……ちょっと取ってくる」
ソティルは言うが早いか、部屋に備えられた転移魔法陣へ移動し、私室へと姿を消した。ソティルは転移魔法をやたら活用しているけど、転移魔法の式は理解がかなり難しく、正確な転移先に飛ぶように出来るのは、高度な知識と技術が必要だ。それを、各階自由に思い描いた場所に移動出来るようにしているのは、あいつの魔法力の凄さの証明でもある。その点に関して、私はソティルのことを一目置いていたりする。まあ、口に出して言わないけど。
「面接とか、あいつ物好きだよねぇ」
「ソティル王女はお優しい方です。計画進行の中にも雇用をしっかりと作る……素晴らしい試みだと思います」
私の呟きにラトレが答えてきた。あまり積極的に話したことがなかったので、若干狼狽えてしまう。
「優しいのかな? 半分遊んでるようにしか見えないけど。それに、さすがに全員採用するわけでもないでしょ」
「チャンスを貰えるということだけでも有り難いことです。民の人生を鑑みて、人に機会を与えられる大きな器。ソティル様の偉大な人徳あってのことです」
「そ、そう……」
なんかソティルのこと崇拝しすぎてて、怖いんだけどこの子。
「機会かぁ……テクトみたいな才能が、そんなに何人もいるとは思えないけど。やる意味あるのかねー」
「……そう思うのは、あなたが恵まれているからです」
「……はい?」
急に棘のある言葉をいうラトレに私が言い返そうとしたとき、
「ソティル、お菓子も持ってきたよ!」
転移魔法陣から、ソティルが呑気に戻ってきた。
やっぱり遊び半分でしょ。
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