魔王軍幹部 ④

 ニパスを倒してから二時間ほどして、ソティルの派遣した機動小隊が、私と女の子の騎士の元へやってきた。騎士隊の中には医療係もおり、動けない私を回復魔法で治してくれた。私も回復魔法は使えるけど、繊細な魔力コントロールをするにはこの痛みでは無理だったので助かった。

『どう調子は?』

「腕も治ったし大丈夫。でも土地の魔力の運用も、いきなりだと結構難しかった」

『でも、良いデータが揃った。立案していた戦術も有効だって立証できたから、このまま計画を進行しても問題ないって分かったし。土地魔力の運用訓練計画もこの後立てましょう』

「遺跡の調査は?」

『そのまま現場にいる騎士に進めてもらうし、魔王軍が再度攻めてきた場合も考えて、増援も手配済み』

 ホント、仕事が早い。今回結局勝てたのも、ソティルが先を読んで、土地の魔力の使役魔法をあらかじめ用意したからに他ならないし、そもそも戦闘中の助言もなければ、私は死んでいた。

 だから。

「……ごめんソティル」

 私は誠意を込めて、ちゃんと謝罪する。

『なにが?』

 惚けた口調で聞き返してくるソティル。こういうところ腹立つんだよな……。

「結果が欲しくて、あなたとの約束を破った。その上、あなたに助けられたし……申し訳なかった」

『別にいいんじゃない? 欲は何かを成し遂げるパワーになる。結果は勝利だった。反省を次に活かせるというのが、生き残ったものの特権よ』

「でも、明らかに失敗でしょ」

『それを言うなら私だって……中隊の皆の命を犠牲にしたわ』

 さらっと語られた言葉に、私はハッとした。

 私は最悪、自分の命のことだけを考えていればいい。

 でもソティルは、その命令によって、多くの人間の命を預かる立場にある。私とは、背負っている重さが全然違うんだ。

「私がもっと早く動いてれば……」

『気にしないで。私も、騎士の皆も覚悟の上。これは、今回の計画に始まったことではなく、王族に生まれ者の責務みたいなものだからね。あなたが思ってるより落ち込んでない』

「そうなの?」

『上に立つ者には、鈍さも必要なのよ』

 わかったようなわかんない話だった。

やっぱり自分は庶民なんだと嫌でも実感する。

「そういえば、いい加減休んだら?」

 昨日の夜から、ソティルはずっと働き詰めだったはずだ。さすがに疲労の色が出ているはずだと思っていると、イトデンの向こうから欠伸が聞こえてきた。

『そうね。さすがに二徹はキツいから、あとは引き継いで寝るわ。おやすみなさい』

「あれ、ところで私、どうやって帰るの?」

 ソティルに言った後、私はここに転移魔法できたことを思い出していた。傷は治ったとはいえ、体力までまだ戻っていない。

まさか、歩いて帰るの?

「ちょっとソティル。私の帰りの足は?」

『…………』

 どうやらもう寝てしまったらしい。

 仕事の早い女は、寝るのまで早かった。

 結局その夜、まだ仕事の残る騎士の助けを借りることもできず、私は疲れ切った身体のまま、徒歩で王都レオーンへと帰ったのだった。

 魔王倒し終わったら、いつか絶対張り倒してやる!

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