勇者が旅立つ日 ①
七歳の誕生日のとき、私、スピラ・スピンテールは、自分が勇者になれないことを知った。
この国では子供は必ず、七才の誕生日に予言の儀式を受けることになっている。
予言の儀式では、その子供の持っている才能、将来の適正などが、予知魔法を用いた〈予言〉によって教えられる。
それは単なる占いのレベルではなく、その子の抱えている運命すらも明確に当ててみせるというものだ。
予言と結果がぴたりと一致するという経験がさらに予言の信頼を高めていき、千年以上もその儀式は続けられているらしい。
それほどまで続いているのは、儀式が慣習化していることもあるだろうけど、それ以上に、子供が将来不幸な道へ進まないようにと祈る親心も要因かもしれない。そういった意味では、意義のある儀式ともいえる。予言の儀式はそういった背景もあって権威を持ち続け、人々の間に大きな影響力を持っている。
そしてこの二十年あまりでは、子供の将来を見ることよりもっと重要な役割が、儀式には生まれていた。
それは、その子供の持つ魔法力の成長性、さらに魔法と対を成すもう一つの生まれ持った能力である〈デュナミス〉を見極めること。そして、その結果を元に、優秀な魔法を使役する兵士――〈魔法騎士〉を国が確保することにあった。
そうすることで、近年世界に徒なす存在として再臨した魔王とその軍勢に対抗する国力を維持し、そして、伝説の勇者となる資質を持つ子供見つけ出すといった使命を儀式は担っていた。
そして、私も当然のように、予言の儀式を受けることになった。
6才の時まで、私は自他共に認める優秀な子供だった。
子供ながら大人にも負けない魔法力を持っていたし、デュナミスも4才の時には覚醒していた。
私は剣を取っても大人たちに圧勝するだけの力があったし、両親や町を守る騎士たちも、果ては町の皆が、私のことをこの時代に生まれた勇者だと信じて疑わなかった。
スピラ・スピンテールの名前は千年に一度現れる勇者候補の一人として、国中に知れ渡っていく勢いだった。
チヤホヤする周りの大人たちの反応に、私は優越感で満たされていたし、自分でも次の勇者は私だと自信たっぷりに思っていた。
そして誠に遺憾なことに、私の人生のピークはここまでだった。
七歳の誕生日の時、予言の儀式で告げられたことは、私が勇者ではなく、勇者と共に旅する〈仲間〉であるということだった。
予言者の言葉に、周りの大人たちは、一度は落胆した。
けれどすぐに、勇者の仲間という誉れある立場を一様に喜んだ。
私はまったく納得がいかなかった。
皆、何を喜んでいるんだろう。
どうして私が勇者じゃないの?
どうして私が一番じゃないの?
私の才能や能力は勇者の仲間程度のものだと思ってたの?
――――こんな予言(うんめい)、間違ってる!
悔しくて、悔しくてたまらなかった私は、魔法と戦闘技術を磨くことにした。
私こそが、真の勇者だってことを証明する為に。
でも、そんな私に追い打ちを掛けるようなことが起きた。
私の誕生日から少しして、他の街で、勇者の予言を受けた者が現れたことを耳にした。
予言を受けたのは私の住む国である、エクセリク王国の王女だった。
私はそのとき初めて、目の前が真っ暗になるという経験をした。
……は?
王女なのに勇者って……?
…………なんていう理不尽。
才能も権威もチャンスも、誰もが望んで手に入れられるものじゃない。
けれど、真に持てる者は、この世の全部を手に入れてしまう。
それが、残酷な現実。
誰もがそれを受け入れて生きているのはわかっている。
けれど、それでも……私は、まだ諦めていない。諦められない。
私こそが、真の勇者だってことを証明してみせる。
私が、絶対に魔王を倒してやる!
どんな手段を使っても、私が勇者になってやる!
魔王を倒すだけじゃない。何だったら、勇者の旅に同行して、勇者も私が後ろから張り倒してやる! 勇者も魔王も、全部私が倒せばいい!
誰にも負けない強さ――最強であれば、それこそが真の勇者だ。
所詮、予言は予言。戯れ言だ。そんなものはクソ食らえだ!
全ての賞賛は、私、スピラ・スピンテールのもの。
そうしてみせる。絶対に……!
――そんな決意をしてから、八年が経ち、私は十五歳になっていた。
今日私は、〈勇者〉に会いに行く。
その仲間として。
ふふっ、背中を見せたら最後よ、勇者さま……。
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