第2話 イタチ

「わたし、野生のイタチを飼っているんです。」と綾子さんは言った。

「イタチですか?」

「はい。」

「野生のイタチがいるんですか?多治見には。」

「家の近所の公園にいました。」

「公園に?」

「捕まえてきて家で飼ってます。」

「家で?」

「だから野良イタチですかね。」

「野良イタチ?初めて聞きました。多治見にはそんな野生のイタチが放し飼いで自由に歩いているんですか?」

「いるんです。私は2匹捕まえてきてペットにして飼ってます。」

「ペットに?」

「嚙まれるとイタチって結構痛いんですよ。」

「ペットなのに嚙む?」

「噛むんです。 本人たちは 甘噛みのつもりなんだろうけど痛いんです。普通に血だらけですよ。」

「そんなに噛まれて大丈夫なんですか?」

「さすがに食べるまではいかないんで大丈夫です。」

イタチってフェレットを散歩させてる人に公園で会ったことはあったけど綾子さんはペットで飼ってるんだ。しかも 家の近所で捕まえてきた野生のイタチをだ。毎日のように噛まれていてペットとして飼っていて 楽しんだろうか。イタチの甘噛み というものがどの程度痛いものか僕には分からなかった。ただイタチは見ていて楽しいし、可愛いなとは思った。でも臭くないんだろうか。イタチ系ってなんか臭そうな気がした。綾子さんは匂いとか平気なんだろうか 僕は苦手だな〜。あぁそう言えば花粉症でほとんどにおわないって言ってたなぁ。

2階の室長の長坂さんは犬を飼っていると言っていたけど寒い冬 なんかに犬と一緒に寝ているとあったかくていいのよ と嬉しそうに言ってた。けど、僕はダメだ。犬は好きだし、可愛かった。子供のころには飼っていたこともあったけど、それでも犬と一緒に寝ようとは思わない。 僕には犬と寝ることは無理だ。ペットとして 庭で買うのはいいけど、布団の中で一緒に寝るのは無理だし、したくない。

長坂さんはとても親切だしよくしてもらったけど、それと犬と一緒に寝られるかどうかとは話が違う。僕には無理だし、そんなことはしたくない。だから長坂さんとは無理だなと思った。それに、僕は太った人は苦手なのでその点でもだめだなと思った。長坂さんがとても親切で優しい人だってことはよく分かってるんだけどそれでも無理です。犬と寝るのは無理です。

最近見たドラマで版画家のポールクレーの話が出てきた。綾子さんと絵の話はしたことがあったけど、ポールクレーの話はしたことがなかった。あれは確か 名古屋の百貨店でヨーロッパルネサンス絵画展か何かをやっていて あの時は僕一人で見に行った。もしあの頃綾子さんのことを知っていたらきっと誘っただろうと思う。だが残念なことに僕たちはまだ出会ってさえいなかった。綾子さんとはバレリーナを描いたドガの話ぐらいはしたけど、モネの話も ルノワールのことも全然話していない。スピード狂でジャガーのEタイプに乗っていたサガンの話もしていない。おそらく 綾子さんは サガンのことは知っていただろう。一度も話はしたことはないが おそらく 気に入ってくれたに違いない。〚悲しみよこんにちは』ぐらいは読んでいたかもしれない。あーもっと綾子さんと話がしたかった。まだ帰ってこないんだろうな。彼女は若い人 特有のほっそりとした体をしていたが、細かったけれども 痩せてはいなかった。あれが彼女にとっての適正体重と言うか ちょうどいい状態だったんだろう。綾子さんの体のことをペラペラだと言っていた人もいたかな。僕は決してそう思わなかった彼女の胸はちょうどいいぐらいの大きさだった。まだ見ていないから分からないが おそらくちょうどいいぐらいの大きさだったと思う彼女の身体の全体のバランスから言ってまず間違いない。彼女の胸は、均整の取れた実にバランスのいい 美しい胸だったと思う。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る