瀬戸はや

第1話 夢中

入社してすぐの自己紹介で綾子さんは自分のことを「根暗な引きこもりの綾子ですと」自己紹介していた。誰が見てもあんなに綺麗で可愛い子がどうして根暗で引きこもりになるんだろうと思っていた。僕は綾子さんと一番よく障害のある子供たちの迎えに行っていた。綾子さんは話しずきで、おまけにその話がとても楽しくて 僕は綾子さんと一緒に子供たちを迎えに行くのが楽しくてしかたがなかった。学校が終わる頃の子供達の迎えの時間が僕の一番の楽しみになった。

綾子さんは中学受験のとき私立の女子校を受験して、そこで中学と高校 そして大学生活を送った。生粋の女子校育ちだ。なので 綾子さんは男の子との関わりが 小学生以来 全くなかった。そういった ゆがんだ 学校制度は人の人生も 歪めてしまうのかもしれない。あんなに誰が見ても綺麗でかわいらしい綾子さんが自分で自分のことを根暗の引きこもりの綾子ですなんて言うわけがない。普通なら絶対に考えられない。綾子さんと初めて会った時 僕は 乃木坂46にでもいそうな娘だなと思った。きれいで可愛らしい綾子さんはそれぐらいアイドル感があった。どこをとっても美しく綺麗で可愛らしく手も足も体も ほっそりとしていた。少々 痩せすぎているという人もいたが僕にはちょうどよかった あれぐらいがちょうどいい 少し華奢なぐらいが僕は好きだった。まあ 綾子さんのお父さんが言うには娘の綾子はそんなに可愛らしいもんじゃないよ ということだったが、少々 気が強くて思ったよりきつい性格なのかもしれない。当然 身内のお父さんには素の自分を見せていただろうし、正直な姿というのは決して 快いものばかりではないだろう。にしてもだ 外見しかわからない僕には綾子さんは十分 素敵な人だった。あの少しきつめな性格の綾子さんと仕事を通して ゆっくり 少しずつ仲良くなっていきたかったなのにどうしていきなり 栃木県に行ってしまったんだ。3年前の3月の20日あれ以来綾子さんとは会っていない。綾子さんは 栃木県に行ってしまった。その年の夏に お盆休みで帰ってきた綾子さんに一度だけ会った。あの時は大した話は全くできなかった。綾子さんが元気で頑張っているんだなということはわかった。それだけだった。それ以来一度も綾子さんには会えていない。あの頃は本当に楽しかった仕事に行くたびに今日は 綾子さんと迎えに行けるんだろうかとか綾子さん今日来てるんだろうかとか、休み だろうかとか、毎日毎日 綾子さんのことで頭がいっぱいだった。毎日楽しくて仕方がなかった 。はっきり言って僕は 綾子さんに夢中だった。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る