第14話 女王とデート

アルベルト王子の治療が終わるとフォルトが話す。


「どうやら上手くいきましたね。ソフィア姫に信用されましたよ。これから偵察ができますね」


アルベルト王子は恋の自覚をしたばかりなのに二人が上手くいく状況ではなかった。

戦争の為にトゥインクル王国の偵察をするように呪われた王に命令されている。

でもソフィア姫の影響でアルベルト王子の心は変わり呪いを解きたいと思えた。

しかしそんな事をすれば呪われた王から反逆者だと認定される。

アルベルト王子の命は危なくなるだろう。

自分の身を守る為にも普段通りの態度で生活をするしかない。

フォルトの方に顔を向けてアルベルト王子は話す。


「やっと計画が進みそうだ」


フォルトは笑顔で答えた。


「任務の遂行を頑張ってください」


フォルトは仕事があると言って部屋を出て行った。




ティアラ嬢がエターナル王国を裏切った騒動のすぐ後にティアラ嬢は兵士に尋問されてソフィア姫から脅迫を受けたかどうか問われた。

ティアラ嬢は自分の意思で王国の動きを姫に密告したと兵士に訴えた。

漏えいした情報は王国の軍事情報だが王国の危機にならない情報だと判断されたが罪深い。

罪を犯したのは子供なので監獄生活は半年の軽い処罰ですんだ。

しかし宰相は娘の罪を王様に報告せずに権力で兵士に口止めをして裁判官には大金を払い罪を揉み消した。

宰相はティアラ嬢とソフィア姫が会う事を禁じた。

ティアラ嬢はソフィア姫に会わせてほしいと何度も宰相にお願いをしたが許されなかった。

ソフィア姫が帰国して、しばらくするとティアラ嬢からソフィア姫に手紙が届く。

宰相はやっぱりティアラ嬢に甘いようだ。

ティアラ嬢の執事が手紙の内容を確認したら送れる決まりだったが、それでも手紙で話せるだけで嬉しかった。

今朝もティアラ嬢から手紙が届いたのでアンナが持ってきてくれた。


「ティアラ嬢からお手紙が届きましたよ」


ソフィア姫は笑顔で受け取りわくわくしながら話す。


「前はケーキの話題で盛り上がったのよね。次は洋服の話題でも書こうかな?」


アンナがニヤニヤしながら声をかけた。


「それもいいですけど……ソフィア姫……アルベルト王子からもお手紙が届いてます♡  週に一度は手紙を必ず送ってくれて素敵な方です! ソフィア姫の事がとーってもお好きなようですね♡」


またアンナの妄想が始まってソフィア姫は困った顔で答える。


「だから……そう言う関係では……」


アンナは目を輝かせて言う。


「私の前で照れてなくて大丈夫です! 最近ソフィア姫の様子が変だったのは知ってますよ! 王子に会えずに寂しかった! そうですよね!」


「へっ!?」(何でそうなるの? あー! ティアラ嬢の事が心配で落ち込んでた時か……もうアンナに何を言っても……ダメそうだわ)


アンナは頬を赤くしながら言う。


「我慢しないでデートに行ってください!」


ソフィア姫は呆れた顔で答えた。


「ハイハイ……イキマス! イキマス!」


ソフィア姫はアルベルト王子の手紙に疑問をいだく。


(アルはどうしてデートに誘うの? 婚約ごっこする必要ある? あっ! それとも呪いについて何か分かったのかも? だったら会わないと! あー! でも困った……今は公務が忙しい)


ソフィア姫はデートのお誘いは偽装でアルベルト王子は呪いについて話がしたいのだと解釈した。

その時リアム先生が部屋をノックする。


「失礼致します。入ってもよろしいでしょうか?」


「どうぞ」


ソフィア姫はアルベルト王子の手紙を読んでいた。

リアム先生は上質な便箋を見てアルベルト王子の手紙だとすぐに気づいた。

リアム先生はソフィア姫に声をかける。


「ソフィア姫お手紙を読んでいる時に失礼します。公務を増やしておきました。早速ですが書類にサインをお願いします」


ソフィア姫はリアム先生を睨んで言う。


「あの……今……聞き捨てならない事を言いませんでしたか?」


リアム先生は笑顔で答えた。


「そんな睨まないでください。私の冗談ですよ。さあ婚約者に手紙の返事を書く暇はございません。公務が山のようにあります」


リアム先生はそう言って山のような書類を机に置いた。

公務の量の多さにソフィア姫は目を丸くしながら驚いて言う。


「ゔっ……多い!」


リアム先生が笑顔で言う。


「では手紙を片付けて公務の仕事をしましょう」


アンナは手紙をしまい外の掃除をするから部屋を出た。

ソフィア姫は納得いかない顔で公務の仕事を始める。

リアム先生はソフィア姫が逃げるかもしれないので見張りをした。

ソフィア姫は書類にサインをしながら考えていた事をリアム先生に話す。


「アルベルト王子の事だけど……本人の様子を見て思ったの……大人びて見えるけど……心はやっぱり年相応の子供……ずっと呪いの事で頭を悩ませていたみたい」


リアム先生は頷いて話す。


「まだ8歳の子供ですから当然でしょう」


ソフィア姫は心配そうな顔で言った。


「その悩みにつけ込んでフォルトが裏で糸を引いていると思うの」


「それでもアルベルト王子が危険な人物なのは変わりません」


「そうかな……誕生祭で言った事は嘘とは思えないし……」


「どうするおつもりですか?」


「手紙でデートのお誘いがきてるの……アルに直接会って話がしたいの」


「それは危険です!」


「何で? 会談するだけよ?」


リアム先生は困った顔をして答えた。


「今は……その……エターナル王国はティアラ嬢が内情を漏らしてピリついています。アルベルト王子と2人で会うのは危ないかと……」


「トゥインクル王国で会えば大丈夫よ。それに私は弱くないわよ。剣は上達してるし!」


リアム先生は頭が痛そうな表情をして呟く。


「心配です……」(相手がデートのつもりだから心配なんだ)


ソフィア姫は笑顔で言う。


「リアムは心配性ね。私は大丈夫よ!」


スラスラとサインを書いて公務を終わらせる。




ソフィア姫がアルベルト王子に手紙を送り。

とんとん拍子にデートの日が決まった。

2人はトゥンクル王国王城で待ち合わせてからデート場所に選んだ湖に向かう。

馬車に乗り数分で湖に到着した。

馬車から降りてソフィア姫は帽子を被りながら言う。


「雨じゃなくて良かった。いい天気」


アルベルト王子は笑顔で言う。


「そうですね」


ソフィア姫はアルベルト王子の笑顔がいつもより柔らかくて優しい笑顔に見えた。

アルベルト王子の笑顔にドキドキしてしまった事が気づかれないようにソフィア姫は湖の方を向いて話す。


「ミズウミガキレイダワ」(ゔぅゔぅゔぅ! アルの笑顔に翻弄される!)


ソフィア姫は脳の思考を停止させて固まる。

アルベルト王子は目線を斜め下しながら少し照れた様子で言う。


「ソフィア、僕と一緒にボートに乗って頂けませんか?」


「ハイ」(あれ? 目がおかしいわ!? 今日のアルの顔は何倍にもキラキラして見える!?)


アルベルト王子が先にボートに乗りソフィア姫の手をとって支えてあげてボートに乗せる。

アルベルト王子の大人びた行動にソフィア姫はまたドキドキしてしまう。


「ありがとう」(待って! ずっと忙しくて忘れてたけど……誕生祭から会ってない! あの時……私……)


誕生祭の後にアルベルト王子の部屋で何をしたか思い出した。


(私はなんて事をしてしまったの! 恥ずかしい!)


ソフィア姫は目を白くさせてボートに座る。

アルベルト王子がオールを動かしてボートが進み始める。

ソフィア姫は自分を落ち着かせていた。


(アルはティアラに毎回頬にキスされていたから平気だわ! 私のスキンシップはレベルが低い! レベルが低い……自分で言っておいて何だか悲しい!)


リアム先生はソフィア姫を心配そうに見ていた。

執事のフォルトが声をかける。


「お二人が結婚する姿が目に浮かびますね」


不適な笑みでフォルトが笑う。

リアム先生が答えた。


「まだ2人とも子供です。将来では何がおこるか分かりません」


リアム先生は笑顔だが不機嫌そうな顔に見えた。

フォルトは笑って言う。


「そうですかね? きっと将来ソフィア姫はアルベルト王子を選びますよ」


フォルトは軽食の準備をするために馬車の方へ行く。

リアム先生は少しムッとした顔をする。

一方ソフィア姫は緊張して変な事を言っていた。


「天気いいわね……晴れてる……雲一つない……晴天……お日様がキラキラしてるわ」


アルベルト王子がクスクス笑いながら言う。


「もしかしてデートに緊張してますか?」


ソフィア姫は慌てながら威張って言う。


「まっ! まさか! 私が緊張するわけないわ! まずデートと言ってるけどデートは偽装なんでしょ?」


アルベルト王子は苦笑いして呟く。


「偽装……?」(いろいろあったから普通の婚約者だと思われていないのか)


「それで私に何の用? 呪いについて何か進展でもあったの?」


肩を落としてアルベルト王子は答えた。


「残念ながら進展はありません」


ソフィア姫は眉間にシワをよせて呟く。


「えっ! じゃあ何で手紙をくれたの!?」


アルベルト王子は真剣な顔で話す。


「ソフィア姫に会いたかったからです。お話しがあります。誕生祭の時に……平和にすると誓ったのは僕の本心です! それで婚約の事なんですけど……」


アルベルト王子の話を婚約解消だと思い最後まで話を聞かずに途中からソフィア姫は話した。


「婚約解消の話だったのね! 呪いの事がある限りこのまま結婚はできないし……もし結婚するなら亡命して頂かないと無理だわ!」


アルベルト王子は暗い顔で呟く。


「亡命……故郷を捨てろと……」


ソフィア姫は淡々と言った。


「厳しい事を言うけど……そうでしょ? 縁を断ち切らないと信用はできません!」(私は王国を守る義務がある!)


アルベルト王子は暗い顔して黙ってしまった。

沈黙が続いて気まずい空気になる。


(何で暗くなるの!? 婚約解消するから亡命の話はどうでもいい話なのに……何でこんな空気になるの?)


ソフィア姫は急に話題を変えて話す。


「私ここの景色が綺麗で好きなのよ」(昔アルと何度も見た……)


アルベルト王子は急に話題が変わって驚いたが少し気持ちが楽になる。

アルベルト王子も山を見て綺麗だと思って言う。


「本当に綺麗だ」


景色は青々とした山が広がり自然豊かで綺麗だった。

アルベルト王子は湖の水面を見ると水面に映るソフィア姫の姿が見えた。

思わずアルベルト王子は水面に手を伸ばす。

水面に手が触れると水面が揺れてソフィア姫の姿が消えた。

それを見てアルベルト王子は怖くなった。


(僕はソフィアを幸せにしたいのに……すべてを壊してしまいそうだ)


アルベルト王子はしばらく水面をずっと見つめている。

ソフィア姫はその様子を見て魚でも見ているのかと思い水面を覗いて声をかける。


「何かいましたか?」


水面を見るとアルベルト王子とソフィア姫の姿が映っている。

その時、強い風が吹いてソフィア姫の帽子がアルベルト王子の方に軽く飛んだ。

ソフィア姫は素早く帽子を掴むが勢いで倒れてアルベルト王子を押し倒してしまう。

アルベルト王子の上に乗ってしまったのでソフィア姫は恥ずかしくて顔を赤くして謝る。


「ごめんなさい! アル大丈夫? 痛くなかった?」


アルベルト王子は切ない顔でソフィア姫の左頬を右手で優しく触れて言う。


「君と離れたくない」


ソフィア姫は時間が止まったような感覚になった。


(君と離れたくない……私の12歳の誕生日にアルがゼフィランサスの花で指輪を作ってくれて言った言葉)


ソフィア姫はアルを好きだった記憶を思い出して切なくて胸が締め付けられた。

泣きそうになりソフィア姫は涙を隠す為にアルベルト王子の胸に顔を当てた。

アルベルト王子の心臓の音が聞こえる。

ソフィア姫は堪えていた涙が流れた。

アルベルト王子はソフィア姫を優しく抱きしめる。

ソフィア姫は泣きながら言った。


「早く呪いを解き一緒になりたい……」


好きだった記憶を思い出したせいか思わず口にした言葉は好きと言ってるのと同じだった。

ソフィア姫は裏切られてからはアルベルト王子と婚約を解消する事ばかり考えていたのに今の自分の発言に驚く。

ここは愛し合う流れだがソフィア姫は何もなかったかのように起き上がり帽子を深くかぶって景色を眺める。

ソフィア姫は心を抑えて凛とした態度をとる。

アルベルト王子も起き上がりソフィア姫の変な行動を見て思った。


(逃げられた)


その時、リアム先生が別のボートで近づいてきて心配そうに声をかけた。


「どうかしましたか?」


アルベルト王子が笑顔で答えた。


「心配ありません。少し寝転がって空を見ていただけですよ」


リアム先生はソフィア姫を見て言う。


「ソフィア姫、体調が悪そうですよ。戻りましょう」


アルベルト王子は戻るためにボートをこいだ。

二人っきりでいるのは耐えれなかったから戻ってくれてソフィア姫はホッとした。


(こんなに胸が苦しいのは好きだった記憶のせいよ!)


到着してアルベルト王子が先にボートから降りた。

アルベルト王子はソフィア姫が降りるのを手伝う為に手を伸ばしたが横からリアム先生が両手でソフィア姫を持ち上げて降ろした。

ソフィア姫は少し驚いて怒りながら言う。


「もー! 子供扱いしないでって言ってるでしょ!」


リアム先生は笑いながら言った。


「良かった。いつものソフィア姫に戻りました」


「いつもの私……私がいつも怒ってるみたいじゃない!」


「それなら怒った顔じゃなくて笑った顔を私に見せてください」


リアム先生がソフィア姫に意地悪を言っているようだが実は口説いているのでアルベルト王子は不機嫌そうにする。

アルベルト王子の態度に気づきリアム先生は目の前でわざとソフィア姫の手を握って見せた。

フォルトが軽食を用意したのでリアム先生はソフィア姫の手をひいて連れて行く。

アルベルト王子はイライラが止まらない。

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