第13話 裏切り者は武力派と深い関係

ソフィア姫は部屋に向かっていると後ろからアトラ王子に声をかけられた。


「ソフィア姫」


ソフィア姫は振り返り話す。


「アトラ王子……今日は私の事で騒ぎになってしまい……」


「いや! こちらの責任ですよ! 酷い目に合わせて申し訳ない。どうか国民の無礼をお許して下さい」


「私は大丈夫ですわ。でもアルベルト王子に怪我をさせてしまい……」


「それも君は悪くないよ。アルが君を守りたい気持ちが行動にでた結果だよ」


ソフィア姫はお辞儀をしながら言う。


「アルには必ずお礼をしますわ」


アトラ王子は思いついたように言う。


「お礼か……お礼の品選びならお手伝いしましょう! 兄弟だから好みはよく分かる。2人で選んだ物を贈ればきっと喜ぶよ」


そう言いながらアトラ王子は腰に手をやりソフィア姫を引き寄せた。

ソフィア姫は急に親しげにされて嫌悪感を感じる。

ソフィア姫とアトラ王子が近すぎる距離なのでリアム先生も少し睨んで咳払いをした。

その時、遠くからティアラ嬢の声がした。


「あら? あ〜ら〜! あ〜ら〜! 殿方は結婚前なら女遊びをすると聞きますけど……まさか! 弟の婚約者に手を出すとは驚きです! ソフィア! この男には気をつけて!」


ティアラ嬢がやってきてアトラ王子にいきなり睨みつけた。

そのお陰でソフィア姫は自然にアトラ王子の手を払って逃れる事ができた。

アトラ王子はニコニコしながらティアラ嬢に反論した。


「失礼な人だ。ただ話してただけで……僕がソフィア姫に手を出しているだなんて」


「この男に友達が何人も泣かされたのよ! マリア、セレーナ、ラナ、リリー、エミリー、ルーシー、スザヌ、マリン、ミシェル……あーあー多いこと! 自分からちょっかいを出しておいて……その気はないと冷たい態度で捨てる! それがモテる男の遊び方かしら? いいえ! ゲスな遊びよ!」


アトラ王子とティアラ嬢は睨み合う。

ソフィア姫はティアラ嬢の態度に少し驚いていた。

ティアラ嬢がアトラ王子の前では素の自分を出していたからだ。

睨み合っているとティアラ嬢は怒りが頂点にきたのか中指を立てアトラ王子を挑発する。

ソフィア姫は冷や汗をかきなが中指を両手で覆って隠して言う。


「ティアラ嬢! お嬢様が品のない事はお辞めなさい! はあ……アトラ王子! ティアラ嬢の言うように……先ほど私にも勘違いしてしまう距離で接していましたよ! そのような行動は気をつけて頂けたらと思います!」


アトラ王子は申し訳ない顔をして答えた。


「そうでしたか……気をつけます」


ソフィア姫は笑顔で話す。


「大切な人を泣かせない為にもお願いしますわ。失礼します」


ティアラ嬢の背中を押しながらソフィア姫は部屋に向かう。

ティアラ嬢は舌ベラをべーと出してアトラ王子を睨み続けていた。

アトラ王子は笑顔で手を振っていたがイラついている様子だった。




ソフィア姫の部屋にティアラ嬢と入るとメイドのアンナが紅茶を用意してくれた。

ソフィア姫は紅茶を一口飲むとティアラ嬢に話しかけた。


「ティアラ助けてくれてありがとう。でもアトラ王子にあんな態度で大丈夫なの?」


「いいのよ! いつもの事だから」


(普通の人なら大丈夫じゃないけど……ティアラとアトラ王子は……)「結婚するものね」


ソフィア姫の言葉に反応してティアラ嬢は紅茶を吹き出してしまった。


「ブーッ!! 結婚!?」


「大丈夫ティアラ!?」


メイドのアンナが急いで汚れた所をハンカチで拭き綺麗にする。

ティアラ嬢は顔を真っ赤にさせながら怒る。


「アトラと結婚なんて天地がひっくり返ってもイヤ!! アイツは意地悪なよ! たまに顔を出してはティアラの友達をみんな取るし! さっきもティアラが見えてソフィアにちょっかいをだして! アルと顔は似ていても性格は大違い!」


「アトラ王子がいつもそんな態度なの?」


「フンッ! 奴は魔王よ!」


「魔王とは大袈裟な……」(結婚相手なのに……)


疑問に思った事をソフィア姫は首を傾げながら質問する。


「アトラ王子が理由なしに嫌がらせをするかしら? ティアラ何か心当たりはないの?」


「心当たり……そんなのあるわ!」


それを聞いてソフィア姫は呆れてテーブルに倒れるように力が抜ける。

ソフィア姫は半笑いで聞いた。


「もー! 何をしたの!?」


「お見舞いで花束の中にダンゴムシを30匹ほどしのばせて驚かせたでしょ! びっくり箱をプレゼントしたり! それから夜中に外壁をよじ登って窓を叩いて驚かせた時もあったわ! あとは……」


「つまり! たくさんやらかしてるのね」(子供のした事だけど……ダンゴムシ30匹……夜中に窓を叩く……すべてトラウマになるわ!)


「ティアラはお見舞いしただけなのにアイツは恩を仇で返してきて!」


ソフィア姫は笑顔で答えた。


「まずはティアラ……アトラ王子に過去の事をちゃんと謝りましょう!」


「え! ティアラが謝るの!?」


「何が良くなかったのかを1から教えてあげます!」


紅茶を飲みながらティアラ嬢の教育をした。

ティアラ嬢に道徳と人の気持ちをゆっくり説明したら理解したようだ。

教育が終わるとソフィア姫は人払いをしてからティアラ嬢と2人で秘密の話をする。

ソフィア姫が質問した。


「ティアラ……ドラゴンの伝説に隠された秘密がある事は知っていますね」(宰相の娘だから知っていて当然)


ティアラ嬢は紅茶が入ったカップを置き答えた。


「何の話?」


ティアラ嬢は少し目を逸らして落ち着かない感じがした。

ソフィア姫は話しを進める。


(口止めされてるのね)「私はエリー王妃殿下から聞いてるわ」


ティアラ嬢は目線を下にして腕を組み答えた。


「エリー王妃殿下が話した通りとしか答えられないわ。宰相は王族の秘密をずっと守ってきた……だから秘密に関して一切答えられないわよ!」


「でも1つだけ教えてくれない? 宰相は呪いが解ける方法を知っているんじゃない? 宰相の座が永遠にほしくて解ける方法を隠してる! どうなの!?」


ティアラ嬢は立ち上がり怒鳴った。


「お父様はそんな事しない! 早く呪いを解きたくて呪いに関する事をずっと調べてきたのよ! もしもお父様が宰相の座の為に解く方法を隠してるなら……ティアラは絶対に許さない!」


ティアラ嬢は真っ直ぐソフィア姫を見た。


「分かったわ……ティアラを信じるわ」


「お父様はそんな事しないもの……」


ティアラ嬢は少しモヤモヤしていたが話題を変えてスパイの調査結果を話した。


「スパイの件だけど……アルベルト王子がソフィアを裏切る計画があるか調べたわ! 確実な証拠はなかった」


ソフィア姫は黙って頷いた。


「でも1つだけ怪しい形跡があったわ。前年度と今年度で火薬の量が多く用意されてる。証拠はないけど火薬を集めてる可能性はあるかも。これだけの火薬を何処かに運ぶとなると人手がいる。王様か総司令官の指示がないと軍は動かせない。それ以外で軍を動かせる人は……フォルトだけ」


「フォルトが裏で糸を?」


「フォルトが指示しているかは今の段階では分からない……でもアルベルト王子がフォルトを利用してる可能性もあるし。そうだったら裏切りの証拠になるわね! でも誕生祭の演説を聞いた限りアルベルト王子がそんな事する人だとは思えないし」


アルベルト王子を信じたいが不安もありソフィア姫は困惑した表情を浮かべる。

ティアラ嬢はソフィア姫の頭を優しく撫でる。

ソフィア姫はティアラ嬢を見つめて微笑む。

ソフィア姫が不思議に思った事をティアラ嬢に質問した。


「不思議に思ってた事だけど……どうしてフォルトは第一王子のアトラ王子に仕えてないの?」


「ああ……最初はアトラに仕えてたのよ。その時にアトラ王子が王様に終戦と平和協定を助言したの。フォルトは反対してたらしくて……それがきっかけでアトラ王子から離れたと噂されてるわ。フォルトはアトラ王子と意見が合わないのよ」


「フォルトは戦争をして何がしたいのかしら?」


「軍人にとって戦争はお金になる。戦争のお陰で地位も名誉が手に入る。でも平和になれば軍のあり方を変えないといけない。今の軍は変化を恐れている」


「なんて愚かな人たち……」


「あの……ソフィア……ティアラは最初アルベルトの裏切りが分かれば結婚が破断になるから協力したけど……誕生祭の2人の話しを聞いて……ティアラも戦争を未然に防ぎたいと思って……呪いが原因でアルや国民が戦争に巻き込まれるのは嫌だ! だから戦争の動きがあったらすぐに伝えるわ!」


「ティアラありがとう」


その時、執事のレオンが部屋をノックする。

レオンが外から声をかけてきた。


「ティアラ嬢、少しお時間を頂いてもよろしいでしょうか? アトラ王子が至急渡して欲しいと言われまして贈り物です」


ソフィア姫がティアラ嬢と顔を合わせながら首を傾げる。

ソフィア姫が答えた。


「どうぞ」


レオンが花束を持って部屋に入りティアラ嬢に花束を渡す。

黄色い小さな花が咲いたローリエだった。


「ローリエ」(花言葉は勝利や栄光だけど……怖い花言葉がある……裏切り……これは脅し? アトラ!)「ソフィア……スパイした事がバレているわ……ごめんなさい!」


ティアラ嬢は花束を抱えて足早く部屋を出て行った。

ソフィア姫は叫ぶ。


「ティアラ! 待って!」


ティアラ嬢はアトラ王子の部屋に向かい勝手に部屋に入っていく。

アトラ王子はたくさんの書類に目を通していた。


「花束くらいで駆けつけてくれるとは思わなかったよ」


ティアラ嬢は息を切らしながら言う。


「あの花束は裏切り者だってメッセージをこめてるのかしら? あなたは王国の平和の為に頑張ってたはずでしょ!? 忘れたとは言わせないわよ! 昔は一緒に呪いを調べて解こうとしたじゃない!」


アトラ王子は笑顔で答えた。


「懐かしいね」


ティアラ嬢は毅然とした態度で話す。


「ティアラのした事は確かに王国にとって裏切り……でもこれは戦争を未然に防げるわ! 正しい事よ! アトラ? どうしたの? どうして戦争に加担するような事するの?」


アトラ王子は冷たい顔で答えた。


「僕は王国の為に正しい事をしただけだ! 君は王国の裏切り者だ!」


ティアラ嬢はアトラ王子の態度にショックを受ける。

フォルトが後ろから来てティアラ嬢に声をかける。


「ティアラお嬢様、帰りの馬車をご用意いたしました。さあ行きましょう」


ティアラ嬢は急に現れたフォルトに驚いた。

フォルトがすべて仕組んだ事だと思いティアラ嬢は怒りが込み上げて怒鳴る。


「フォルト! アトラに何を吹き込んだのよ!」


フォルトはニッコリとして答えた。


「私は執事の仕事をしているだけです」


ティアラ嬢はイライラしながらアトラ王子に花束を突き返して言う。


「ローリエの葉の花言葉はご存知かしら? 私は死ぬまで変わりません……あなたは王国の為に変わらずに頑張っていると思ってましたのに残念ですわ!」


ティアラ嬢は涙を流して部屋を出ていく。

部屋を出るとソフィア姫がいた。

ティアラ嬢は涙を拭いてソフィア姫に話す。


「ティアラはきっとこれから兵士に監視されるわ」


ソフィア姫は真剣な顔で話す。


「でも……監視されても……これからも友人として……会えるわよね?」(もしかしたらティアラに会えなくなるかもしれない)


ティアラ嬢は黙ってソフィア姫を抱きしめた。

ソフィア姫は目に涙を浮かべて言う。


「絶対に会いに行くからね」

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平和を愛する女王とサイコパスな婚約者 みづほ @ebetennmusube

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