第12話 女王と誕生祭

音楽隊が曲を演奏すると誕生祭が始まる。

アトラ王子とアルベルト王子がお城のバルコニーに出て国民に手を振る。

アトラ王子が前に出て国民に挨拶をした。


「国民の皆様、僕たちの為にありがとうございます。冬の寒さを乗り越えて暖かな春になり、すっかり花も咲き誇っています。陽気な天気の中で皆様に祝って頂き嬉しく思います。私の体調ですが薬草研究のお陰で私の体調も良くなり穏やかな日を過ごせています。皆様には感謝の気持ちでいっぱいです。私は国民の皆様の健康を願って過ごしてまいります」


アトラ王子が後退する。

アルベルト王子も同じように前に出ると挨拶をする。


「今日はありがとうございます。我が王国はトゥンクル王国と平和協定を結び平和な日々を過ごせています。私事ですがトゥインクル王国のソフィア姫と婚約を決めました。2人で両王国を平和にしようと誓いました。今日は婚約者のソフィア姫も来ています。僕はソフィア姫と王国の平和を祈り続けていきたいと思います。国民の皆様、私たち2人をこれからもよろしくお願い致します」


ソフィア姫はアルベルト王子の挨拶の内容に腹を立っていた。


(よくも国民を欺き嘘を並べて……こんなの詐欺じゃない!)


挨拶が終わるとアルベルト王子は後退する。

次にソフィア姫が挨拶をする番だがソフィア姫は直前で過去の記憶を思い出した。


(あっ! 今日って! 挨拶すると……国民から石を投げられて……アルが私を庇って怪我を! でも今は敵対しているし……庇うわけないわ……それに今の私なら石くらい避けられる)


ソフィア姫が挨拶を早くしないので周りの人がどうしたのかと不思議そうな顔をしている。

リアム先生が後ろからソフィア姫に声をかける。


「ソフィア姫、ご挨拶をお願いします」


「あっはい!」(大丈夫! 国民よ! かかって来なさい!)


ソフィア姫はキリッとした顔で前に出て挨拶を始めた。

過去と同じように国民から石を投げられた。

ソフィア姫は石を避けながら挨拶をする。


「トゥインクル王国第一王女ソフィア姫です」


どんどん石が投げられたがソフィア姫はスイスイと避ける。

驚きの反射神経を見せた。

ソフィア姫を見て周りの人は口を大きく開けて驚いている。

異常な状況なのにソフィア姫は平然と挨拶を続けた。


「改めましてアトラ王子、アルベルト王子お誕生日おめでとうございます。この日を王族の皆様、国民の皆様とご一緒に祝えた事を嬉しく思います」


ソフィア姫に石が当たらなくて石を投げた犯人が罵声する。


「お前たちに家や作物を焼かれた!」


「戦争で父が亡くなった! トゥインクル王国のせいだ!」


エターナル王国は平和協定を結んで喜ぶ人もいれば戦争で心の傷が癒えていない人が平和協定を反対している。

王族は一部の国民が怒る事は想定していたが王族の前でここまですると思っていなかった。

アルベルト王子が叫んだ。


「石を投げた者を取り押さえろ!」


兵士が人混みの中に入り犯人を探す。

ソフィア姫はバルコニーの手すりに両手をついて顔を前に出すように身を乗り出した。

それからソフィア姫は国民に向かって叫ぶ。


「私は戦争がない平和な世界にしたい!」


それを聞いてエターナル王国の国民は綺麗事だと反発した。

反感的な空気の中でもソフィア姫は自分の気持ちを正直に伝えた。


「過去の戦争を許してくれとは言いません!」


アルベルト王子は見かねて声をかけた。


「ソフィア!」


しかしソフィア姫は悲しそうな顔で国民に訴えた。


「戦争は大切な人を奪っただけでなく……人の心を深く傷つけた……だから……もうみんなには辛い思いは……もうさせたくない!」


その言葉を聞いてアルベルト王子はズキッと胸の奥が痛く感じた。

ソフィア姫は力強い声で話す。


「私はエターナル王国とトゥインクル王国は手を取り合えると信じたい! 傷ついた人たちの心の声も聞き続けます。傷ついた人に何かできるかを考えて癒せるように努力する。私はみんなの幸せな日々を守りたいの! どうかお願い……みんな協力して!」


アルベルト王子はソフィア姫の言葉を聞いて心が騒つき喉の奥が苦しく感じた。

ソフィア姫に向かって何度も石が投げられた。

ソフィア姫の言葉では国民の不満を解消できなかった。

ソフィア姫はどうにもならない事に悩む。


(私は何も変える事ができないの!? どうしたらいい?)


ソフィア姫は考えていると少し動きが鈍ってしまい石が当たりそうになる。

リアム先生が手を伸ばし助けようとしたが、それよりも早くアルベルト王子がソフィア姫の手を引いて前に出て庇った。

ソフィア姫は無事だったがアルベルト王子の頭に石が当たる。

ソフィア姫は叫んだ。


「アル!? 大丈夫!?」


アルベルト王子の頭の右側から少し血が滲んで見えた。

アルベルト王子に怪我をさせてしまった事にソフィア姫は責任を感じて心を痛めた。

胸の奥から怒りの感情が湧き上がりソフィア姫は国民に訴えた。


「もう辞めて!」


その声は国民に聞こえていない。

国民はアルベルト王子に石が当たった事すら気づいていない。

まだ石は投げ続いていた。

ソフィア姫は凄まじ大声で国民に訴えた。


「辞めなさい!」


国民は驚いて手が止まり騒ぎが静まる。

ソフィア姫は更に国民に訴えた。


「こんなやり方は間違ってる!」


やっと国民はアルベルト王子が怪我をした事に今頃気づいた。

アルベルト王子が身を挺してソフィア姫を守ったという事はアルベルト王子にとって大切な人のようだ。

でもソフィア姫とアルベルト王子の婚約は政略結婚だと国民は思っていたので、この状況に困惑した。

アルベルト王子が国民に言う。


「受け入れられない気持ちは分かります。でも……僕らは変わる時が来たのです! 何をするにも一生懸命な彼女を見て僕はそう思った。それにソフィアなりに戦争の残酷さを受け止めてくれて……寄り添おうとしてくれている。これからどんなに困難でもソフィアは平和を考えて行動してくれるだろう!」


その言葉は嘘ではないような気がしてソフィア姫は嬉しいと思った。

しかし同時に過去の裏切りがよぎり信じきれてはいなかった。

でも状況が変化していると思った。


「アル……」(過去では、こんな事は言わなかった。もしかして未来が変わる……?)


アルベルト王子の左耳あたりに血が一筋流れたのでソフィア姫はハンカチを出してアルベルト王子の怪我をハンカチで抑えると2人は見つめ合った。

アルベルト王子は国民の方を向いて話す。


「手探りで曖昧かもしれないけど……ソフィアは僕らにとって希望の光だ」


アトラ王子が目を細ませて冷たい視線で見た。

その視線に気づいてアルベルト王子は少し辛い顔をした。

すぐにアルベルト王子は逞しい顔を見せて話した。


「僕たち……王族は……」


アルベルト王子が王族の秘密を打ち明けようとしている事にソフィア姫は気づいて咄嗟にアルベルト王子の声をかき消すような大きな声でソフィア姫が宣言した。


「エターナル王国とトゥインクル王国の人々が分け隔てなく幸せに暮らせる未来にする為に力を尽くします!」


国民から小さな拍手の音が聞こえて段々と拍手する人が増えて拍手の音が大きくなる。

国民の誰かが叫んだ。


「アルベルト王子! ソフィア姫! 万歳!」


同じ言葉を叫ぶ人が増えていく。

更に2人を褒める声も聞こえた。


「王子が姫を守って素敵!」


「ソフィア姫は女神だ!」


ソフィア姫は女神と言われて少し照れた。

アルベルト王子は少し浮かない顔をしていたがソフィア姫の顔を見て少し微笑む。

アルベルト王子の怪我を治療する為に2人はアルベルト王子の部屋まで戻り医者を待つ。

医者を待っている間アルベルト王子はソファーに座った。

ソフィア姫は隣に座りハンカチで止血をする。

ソフィア姫は小さな声で話す。


「さっき秘密を話すつもりだった?」


辛そうな顔でアルベルト王子は答えた。


「はい……」


ソフィア姫はタメ息をついて小さな声で叱る。


「国民がパニックになるだけよ! バレたら、あなたは処刑される! 呪いが何十年も解けてないけど、まだ解けないと決まったわけじゃない! もう少しだけ呪いを解く方法を探してみましょう!」


アルベルト王子は反省した顔を見せた後に真剣な顔で質問をする。


「ソフィアはどうして優しくしてくれるの?」


アルベルト王子は少し頬を赤くしてソフィア姫を見つめた。

その顔にソフィア姫はドキッとした。

ソフィア姫は目線をそらして話す。


「私がいつ優しくしたかしら? 私のお節介を勘違いしてるの? 呪いと知って放っておけなかっただけよ!」


アルベルト王子はソフィア姫に顔を近づけて少し色っぽい目で見た。

アルベルト王子が迫ってくるのでソフィア姫は少し体を後ろに斜めに傾けて倒れないように右手はソファーに手をついた。

ソフィア姫の気持ちを探るようにアルベルト王子が聞く。


「本当にそれだけですか?」


「そっ! そうよ!」


ソフィア姫は言い寄られてる感じがして顔が赤くなってしまった。

調子が狂いそうなので話題を変えたくなりソフィア姫は早口で質問する。


「それより頭は痛くないの? 具合は?」


するとアルベルト王子はソフィア姫の背中に手を回して抱きしめるように引き寄せた。


「キスしたら痛いのが平気になるかも」


「えっ!?」


「ねぇ……ソフィア僕に……キスして」


「何言ってるの! 急に……」


アルベルト王子がキスをしようとする。

ソフィア姫が顔を赤くして固まってしまう。

その時アルベルト王子の目の前が真っ暗になった。

リアム先生が一言お詫びを言う。


「申し訳ありません。風が吹いてハンカチが飛ばされました」


リアム先生がアルベルト王子の頭にハンカチをわざと被せてムードを打ち壊したのだ。

リアム先生がずっと見ていたので邪魔されるのは当然だ。

アルベルト王子はイラつきながら言う。


「君のナイトはお節介が過ぎるようだね」


リアム先生は小馬鹿にしたような感じで言う。


「お節介? 私が邪魔をするわけありまん。ハンカチが飛んだのは風のせいですよ」


アルベルト王子がキスしようとしたのは本気か本気じゃないのかが分からなくて悩みソフィア姫は目が回るような思いだった。


(今のは何だったの? でもやられっぱなしは良くないわ! 私だってやる時はやる!)


ソフィア姫は頭が混乱しながらも強気な姿勢を見せようとする。

ソフィア姫は今できるからかいを思いついた。


「アル! お子様には……まだキスは早そうね! でも可哀想だから……」


ソフィア姫はハンカチの上からアルベルト王子の頬に軽くキスをした。

ソフィア姫はからかえたとご満悦な顔で言う。


「これで痛みを忘れたでしょ!」


それを見てリアム先生は冷静を装っているが頭が真っ白になっていた。

アルベルト王子は予想外の事がおきて驚き固まる。

ソフィア姫がクスクス笑いながらハンカチをめくりアルベルト王子の顔を覗く。

アルベルト王子は恥ずかしくて斜め下を見て頬は真っ赤になっていた。

その顔を見てソフィア姫はドキッとして急に恥ずかしくなった。

ハンカチはスルリと落ちてアルベルト王子が照れながらソフィア姫の目を見つめた。

頭が沸騰するような思いだったがソフィア姫は大人の余裕を見せようと頑張った。

鼻を少し上げて堂々とした態度でソフィア姫は話す。


「私のキスをありがたく頂きなさい!」


「あれがキス? ハンカチごしですよ……」


「ゔっ! それでも金貨300枚の価値があるわ!」


アルベルト王子はクスクス笑いなら質問した。


「じゃあ普通のキスはおいくらですか?」


ソフィア姫は首を傾げなら考えて答えた。


「そーねー1000枚かしら?」


アルベルト王子は真剣な顔で言った。


「では払ったらキスして下さい」


ソフィア姫は顔を真っ赤にさせて声を上げる。


「例えであって……! そんな大金はどうせ無理でしょ!」


いい雰囲気の2人を見ながらリアム先生は無表情だが拗ねているような顔にも見えた。

リアム先生が思わず呟く。


「ソフィア姫を……返してくれ……」


リアム先生の言葉が少し聞こえてソフィア姫は振り返る。


「えっ?」(聞き違いかしら?)


リアム先生は少し微笑んでいたが、どことなく冷たい顔に見える。

アルベルト王子はリアム先生を睨んだ。

ソフィア姫はさっきの言葉は聞き違いでハンカチを返してと言ったと思い込んだ。

ソフィア姫はハンカチを渡そうとリアム先生に差し出す。


「リアム、ハンカチをどうぞ」(返してとは……ハンカチの事よね?)


リアム先生はハンカチを受け取りながらソフィア姫の手をしっかり握り引き寄せてソファーから立たせた。

ソフィア姫は驚いて声が出た。


「きゃっ!」


リアム先生とアルベルト王子は睨み合う。

何だが不穏な空気が流れる。

医者がちょうど部屋に入ってきた。

リアム先生が言う。


「私たちは部屋に帰りましょう」


ソフィア姫は慌てながら振り返り言う。


「はい! これ少しの間でも使うといいわ」


ソフィア姫が止血に使ったハンカチをアルベルト王子に差し出す。

リアム先生の顔はどことなく不機嫌な顔にも見える。

チラッとリアム先生を見てアルベルト王子は勝った気がして少し口角が上がっている。

アルベルト王子の挑発的な表情にリアム先生は気づいたが相手にしたら負けだと思い優しく微笑むが心の中では闘争心に火が付いて燃えたぎっていた。

アルベルト王子はハンカチを受け取る時にソフィア姫の手を握る。

ソフィア姫が顔を赤くして困惑しながら言う。


「あの……手を……アル?」


アルベルト王子は左手を引き寄せて見た。

ソフィア姫の左薬指には血がついて指輪のように見える。

それでアルベルト王子がクスクス笑いながら言う。


「僕の血の跡が……指輪の様に見えます」


ソフィア姫は自分の左薬指を覗いて言う。


「確かに……」


アルベルト王子が笑顔で言う。


「婚約指輪のようだ……本当の婚約指輪はもう少しだけ待っていてください」


ソフィア姫は顔を赤くして手を振り上げて逃げるよう扉に向かう。

リアム先生が急いで扉を開けた。

ソフィア姫は扉の前で止まり言う。


「いろいろ協力するけど! 結婚の話は別だからね!」


ソフィア姫は頬を赤くしながら部屋を出て行った。

アルベルト王子が医者に手当を受けながら言う。


「まだイエスとは言ってくれないのか……」


フォルトが話す。


「なかなか難しいお姫様ですね。それにリアム隊長があの様な行動をするとは驚きました」


「あの男……」(ソフィアに何かするかも……)


アルベルト王子はリアム先生とソフィア姫の仲をいろいろと想像してしまう。

2人がキスをしているのを想像してアルベルト王子は怒った顔になる。

医者が心配そうに言う。


「王子! 心拍が上がってます。お気分は大丈夫ですか?」


アルベルト王子は医者に言われるまで自分が怒っている事に気づいていなかった。

自然に怒っていたのだ。

何故こんなに怒ったのか考えた。

すると答えが出た。


「これって!?」(嫉妬!!)


アルベルト王子はソフィア姫に恋をしている事をやっと自覚した。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る