第11話 裏切り者は戦争の駒

次の日ソフィア姫はトゥインクル王国に帰り部屋のベットで体を休めた。

体を強く打ったので医者には安静にするようにと言われている。

ソフィア姫は昨日の事を思い返す。


(力強く武器を振り下ろしたのに武器を簡単に取られた。私には、まだ力が足りない……)


ソフィア姫は今すぐ体を鍛えたいが医者とリアム先生に体を動かすなと止められている。

しかしソフィア姫は大人しくしているわけがない体を鍛えようと腹筋を始めようとした。


(少し腹筋してもバレないわ)


その時、部屋をノックされた。


「お部屋に入ってもよろしいでしょうか?」


メイドのララだった。

ソフィア姫は慌てながらベットの布団に潜り込み返事をした。


「どっどうぞ!」


「失礼いたします」


ララが部屋に入って来た。

ソフィア姫は布団から顔を出して笑顔を見せた。

ララは少し疑いの目でソフィア姫を見たが注意しなかった。

ララは荷物を運び入れながらソフィア姫に話しかける。


「ソフィア姫にアルベルト王子から招待状と手紙……それから花束の贈り物が届きましたよ」


「そう……」(花に恨みわないけど複雑)


ソフィア姫は体を起こして招待状と手紙を受け取る。

それからララはリアム先生に言われた事を話し始めた。


「リアム隊長からソフィア姫の様子を見るようにと言われましたので、このままお部屋で身の回りのお世話をします」


(私が動かないように監視ね)「私は大丈夫よ。ララは他の仕事で忙しいでしょ!」


「他の仕事はアンナたちで手はたりてます。それにソフィア姫の事は王城のみんなが心配しています。もちろん私もです。だからしっかりお世話をしますね」


ララは贈り物の花束をソフィア姫に渡して微笑む。

ララにそう言われてはソフィア姫は大人しく身守られるしかなかった。

ソフィア姫は少し肩を落としながら微笑みお礼を言う。


「ありがとう」


ソフィア姫は招待状に目を通す。

アルベルト王子の誕生祭の招待状だった。


「誕生祭!?」


「ソフィア姫は婚約者なので出席は仕方ありませんね」


「ははあ……おかしな話……」(殺したい相手の誕生日を祝うなんて……プレゼントに電気椅子でも贈ろうか)


ソフィア姫は悪者のような顔でニヤリとする。


(それにお城に行ったらアルの母のエリー王妃殿下に会う事になるじゃない……母親なら暗殺の事怒ってるに違いない)


ソフィア姫は頭を悩ませてタメ息をついた。




5月25日アトラ王子とアルベルト王子の誕生祭の日がやってきた。

エターナル王国のお城を訪れたソフィア姫は玉座の間に案内された。

玉座の間はステンドグラスの色鮮やかな光が差し込む。

エターナル王国は王様がドラゴンを倒して王国を築き上げたという伝説があるのでステンドグラスにはドラゴンがデザインされていた。

日差しが入るとステンドグラスが綺麗にキラキラと光る。

この光景を見て感動する者は多い。

もちろんソフィア姫も最初は感動したが死ぬ前に何度も目にしたので今では慣れてしまった。

ソフィア姫は凛とした態度で玉座の間に入るとたくさんの人がいた。

ルーファス王とエリー王妃殿下とアトラ王子にアルベルト王子それからカミラ宰相と大臣たち公爵家で豪華な顔ぶれで緊張するような場面だがソフィア姫は堂々と挨拶をする。


「トゥインクル王国第一王女ソフィアと申しあげます。アトラ王子とアルベルト王子の誕生祭にお招き頂き光栄です。アトラ王子、アルベルト王子、心より祝福のお言葉を送ります。おめでとうございます」(本当は祝いたくないけど! 見なさいアルベルト王子……私の完璧な作り笑顔を!)


ソフィア姫に後光がさしたような輝いている最高の作り笑顔だった。

しかしアルベルト王子にはソフィア姫の完璧な作り笑顔が不自然に感じてたので右眉毛を少しあげてしまう。

ソフィア姫の笑顔に対してアルベルト王子は思った。


(笑顔なのに嫌味な顔だな……)


だからアルベルト王子はソフィア姫にちょっかいを出したくなった。

しかし今は手が出せないので表情でお返しする事にした。

アルベルト王子は最高の笑顔を見せる。

すると周り人々が歓声をあげた。

アトラ王子も素敵な笑顔を見せると周りの人々が更に歓声をあげた。

2人の素敵な笑顔で失神する者もでた。

アトラ王子は慣れている感じですぐに医者を呼ぶようにと声をかけた。

それからアトラ王子はソフィア姫に声をかける。


「少しお騒がせしました。今日はソフィア姫に祝福のお言葉を頂き嬉しく思います」


ソフィア姫はお礼の言葉なんて耳に入っていない。

笑顔だが顔が青ざめて敗北の気持ちでいっぱいだった。


(笑顔で負けた感じがする)


アトラ王子は普段なら病弱で顔色が悪いのを隠すため仮面をつけているが今日は仮面をつけずに素顔で参加している。

アルベルト王子と瓜二つの顔で美しい顔だった。

アルベルト王子もソフィア姫にお礼を言う。


「ソフィア姫、お言葉をありがとうございます」


またソフィア姫はお礼の言葉を聞いてなくてアルベルト王子のプレゼントの事を考えていた。


(あー……プレゼントに電気椅子が用意できなくて残念だったわ! リアムに怒られなければ……電気椅子を贈って高笑いしてたのに!)


ルーファス王が話し始めた。


「ソフィア姫、長旅大変だったろう。部屋で休みたまえ。後から執事のフォルトが誕生祭について説明しに行くので、よろしく頼むよ」


ルーファス王は金髪で赤い瞳の整った顔をしているがアトラ王子とアルベルト王子の顔には似ていない。

母親のエリー王妃殿下は漆黒の髪色で瞳は青だった。

瞳の色が違うが王子たちとそっくりな顔をしている。

エリー王妃殿下がソフィア姫に話しかけた。


「ソフィア姫、誕生祭まで時間があるわ。フォルトから誕生祭の説明を受け終わったら私の部屋でお話でもしましょう」


「はい、喜んでお伺います」


「では後ほど」


アトラ王子とアルベルト王子とエリー王妃殿下が並ぶと顔が本当に似ている。

エリー王妃殿下の漆黒の黒髪は長くて艶やかで触りたくなる美しさだ。

周りの人々がうっとりした声を漏らすほどの美貌。

ソフィア姫は王族たちを見て思った。


(ステンドグラスの光より眩しい王族だわ)


ソフィア姫は与えられた控室に戻り執事のフォルトに説明を受けてからエリー王妃殿下の部屋に向かう。

エリー王妃殿下の部屋に男性を入れるわけにはいかないのでメイドのアンナを同行させる。

リアム先生は部屋の外で待機してもらった。

ソフィア姫が部屋に入るとエリー王妃殿下がいきなり抱きついてきた。


「会いたかったわ♡ あぁ〜可愛い! 娘が本当に欲しかったのよ! こっちに住めばいいのに〜! ここを家だと思ってね♡」


エリー王妃殿下のメイド長のサマンサが咳払いをする。

エリー王妃殿下は凛とした態度に戻る。

ソフィア姫は冷や汗をかきながら思った。


(てっきり暗殺の事で怒られるかと……何故か好かれている)


ソフィア姫とエリー王妃殿下はテーブルを挟んで向かい合いソファーに座る。

エリー王妃殿下は俯きながら話す。


「アルベルト王子との契約は聞きましたわ! あの契約だけど……信じられない! とっても面白そー!」


エリー王妃殿下をワクワクしていた。

メイド長のサマンサが厳しい顔で口をはさみむ。


「エリー王妃殿下! お言葉ですが……お立場的にそこはお叱りになるところですよ」


エリー王妃殿下が目を丸くして言う。


「えー! でもあの契約書……条件が有利なのはこちらよ! だから大丈夫! 大丈夫! それにアルは素敵な子だからソフィアはアルと結婚しますわよね♡」


エリー王妃殿下は首を傾げながらソフィア姫を見つめた。

ソフィア姫は引き攣った顔で目を逸らして曖昧に答えた。


「えっ! えーっとー……」


その時にアンナが後ろから声を上げた。


「お言葉を挟んで申し訳ありません! 私メイドのアンナと申し上げます!!」


ソフィア姫は振り返り目を大きくして驚く。


「アンナ??」


アンナは顔を真っ赤にさせながら言う。


「ソフィア姫はアルベルト王子を愛してます!!」


アンナの心に秘めていた妄想が爆発したようだ。

アンナの発言にソフィア姫は内心は凄く驚いていたが菩薩様のよいな顔でアンナの様子を伺った。


(この人は何を話してるのでしょう!?)


メイドのアンナは話しを続けた。


「ソフィア姫は将来女王として王国を守る責任があります! 似たお立場のエリー王妃殿下もよくお分かりでしょう……敵国の者を疑うのは当然です。だけどソフィア姫は王国のために自分の心を押し殺しているのです! 本当は……2人だけで……幸せに暮らしたいのに……ソフィア姫は王国のために暗殺という茨の道を選んだのです!」


アンナは妄想を熱く語り涙した。

その話を信じたエリー王妃殿下の目にも涙が溢れていた。

泣く2人を見てソフィア姫は思った。


(私は何も話してないけど!)


エリー王妃殿下が言う。


「2人なら大丈夫よね」


アンナが目を擦りながら返事をする。


「はい!」


この空気で否定するのは辛いがソフィア姫は叫ぶように話しを割って入る。


「あーのー!」


アンナはハッとして急いで頭を下げて謝る。


「出過ぎた事をして申し訳ございません」


「アンナ……」


ソフィア姫は困った顔で話す。


「エリー王妃殿下……申し訳ありませんが……私は……アルと……」


ソフィア姫が言葉に詰まっているとエリー王妃殿下は優しい顔で言う。


「少しだけ2人で話しましょう」


メイドたちが部屋を出て2人っきりになり部屋は静まり緊張がはしる。

張り詰めた空気の中でエリー王妃殿下が真剣な顔で話す。


「謝るのは私たちの方です。あなたを巻き込んで申し訳ないと思ってます」


ソフィア姫はエリー王妃殿下の言葉に驚きながらも質問した。


「それは……どう言う意味でしょう?」


「子供のあなたに話そうかは……正直……悩んだのだけど……ソフィアはアルと敵対する姿勢だと聞いて……アルが変わるきっかけになると私は期待してるの。だから全て話します」


ソフィア姫は息を飲むように真剣な顔をする。

エリー王妃殿下は不安気な顔で話す。


「ソフィア姫、エターナル王国の王族には……秘密があるのです。何から話していいのか……そうね……エターナル王国のドラゴンの伝説は聞いた事ありますか?」


「はい。昔ここを支配していたドラゴンを退治してエターナル王国ができた伝説は存じてます……?」


「実は……その伝説には秘密があって……ドラゴンの魔力で……王が呪われたのです。ドラゴンは倒せましたが……王の心は呪われ鬼のような心になり戦争ばかり始めたのです」


ソフィア姫の顔色が暗くなる。

エリー王妃殿下が話を続けた。


「呪いは王が亡くなると子孫に受け継がれていく呪いでした。今も呪いが続いて……ルーファス王も上王が亡くなると呪いが受け継がれ……優しかったルーファスが人を殺す事を楽しむようになってしまった」


エリー王妃殿下は悲しくなり涙がポロポロ出た。

ソフィア姫は顔が真っ青になりながらも立ち上がり力がない歩きでエリー王妃殿下のそばまで行き横に座り質問した。


「この事は民は?」


「知りません。王族と一部の大臣たちだけの秘密にしてきました」


「先ほどお会いしたルーファス王は人殺しのような顔には見えませんでした。穏やかな顔で……鬼には……見えませんでしたよ? それに鬼なら大量虐殺をすると思いますが?」


手を震わせながらエリー王妃殿下は答えた。


「鬼と言っても無差別ではなく戦争を好んでいます。つまり戦争と言うゲームを楽しんでいるのです。今ルーファスは戦争の事ばかり考えています。せっかく終戦にしたのに……おそらくまた戦争は繰り返されるでしょう! アルは最初は呪いを解こうと頑張っていたけど父親が呪われて自分に責任があると思って心が壊れてしまった。アルがあんな事になったのは私の責任です。ソフィア本当にごめんなさい。難しいけど私たちで呪いは、なんとかする! ソフィアとアルはトゥインクル王国で幸せになって!」


ソフィア姫は炎に包まれたトゥインクル王国の光景を思い出して血の気が引くのを感じながら質問した。


「呪いを解く方法は……ないのですか?」


エリー王妃殿下は首を横に振り答えた。


「呪いは魔法族の者にも解けませんでした。呪い専門の魔女がいるようてすが、ずっと探しています。でも見つからなくて……他に手がないか魔法に詳しい者に知恵をかりましたが……伝説の竜王の剣なら呪いを解けるようかもしれないと……しかし剣も見つかっていません」


手詰まりで難しい状況なのにソフィア姫は少しでも可能性がある事に喜びを感じて顔が晴れた。

そしてソフィア姫は呟いた。


「呪いなんて解いてやる!」


「でも何十年も呪いは……」


ソフィア姫は目をキラキラさせていた。

それを見たエリー王妃殿下はなぜかソフィア姫に期待を感じた。

ソフィア姫はエリー王妃殿下に今後どうするか話し終えると部屋を出た。

廊下を進むとアルベルト王子がソフィア姫の控室の前で待っていた。

ソフィア姫は思わず身構えた。

ソフィア姫の姿に気づいたアルベルト王子はソフィア姫に話しかける。


「王妃殿下から王国の事を聞きましたか?」


「聞きました。立ち話しより部屋で話しましょう」


アルベルト王子はエリー王妃殿下が秘密を打ち明ける事は聞かされていたようだ。

リアム先生やメイドたちには部屋を出てもらって2人で話す。

アルベルト王子は秘密を知られたくなかったのか辛そうな顔をしている。

この状況ならソフィア姫は婚約者として優しく振る舞い寄り添う言葉をかけるべきだろう。

でも未来でアルベルト王子に裏切られて殺されたソフィア姫は寄り添う事ができなかった。

ソフィア姫は冷たい言葉をなげかけた。


「辛い現状は理解しましたわ。私からあなたにアドバイスを1つだけします。鬼になったルーファス王に手をかさない事ね」


アルベルト王子はムッとした顔で答えた。


「そんなっ! 父上は呪いにずっと悩まされて今も苦しんでいる! 母は隠れて泣いて……次に呪われるのは兄上だ! 僕はそんな家族を見捨てられない!」


アルベルト王子の力強い目でソフィア姫を見た。

ソフィア姫は少し嬉しそうな顔をして話した。


「やっと本音を話してくれましたね」


アルベルト王子は少しハッとして顔を逸らしながら呟く。


「僕は幸せになっちゃいけないんだ……」


アルベルト王子がまた自分の殻に閉じこもるような感じがしたのでソフィア姫はアルベルト王子ともっと話さないといけないと悩んだ。

その時、部屋をノックされた。


「失礼いたします。アルベルト王子お時間です」


フォルトがアルベルト王子を迎えに来たのだ。

アルベルト王子はソファーから立ち上がり部屋を出ようとする。

ソフィア姫が叫ぶように言う。


「それで本当にいいの?」


「君には関係ない事だ!」


そう言ってアルベルト王子は部屋を出た。

ソフィア姫は完全にキレていた。

ソフィア姫は部屋を飛び出して叫んだ。


「私も関係あるから怒っているのよ! アル! 未来を絶対に諦めてはダメ! アルは幸せになっちゃいけない人間じゃないわ!」


アンナとリアム先生が暴れるソフィア姫を落ち着かせる。

アルベルト王子は少し振り返りソフィア姫を見たがフォルトが小声で声をかけた。


「時間がありません」


「フォルト……でも……」


「よそ者の話しに耳を傾ける必要はありませんよ。あなた様はエターナル王国の王子です。エターナル王国の為に力を尽くせばいいのです。よーく考えてください。ルーファス王やアトラ王子を支えれるのはあなた様だけです。あなた様がついていれば、きっとエリー王妃殿下もお喜びになります。さあ行きましょう」


アルベルト王子は顔が暗くなった。

フォルトがアルベルト王子の背中を軽く押して2人は歩き出す。

ソフィア姫は届かない声で泣き出してしまった。

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