第6話 女王と悪役令嬢

翌朝エターナル王国では玉座の間にソフィア姫はレオナルド王に呼ばれる。

玉座の間でアルベルト殿下に襲わられた光景を思い出してソフィア姫は震えた。

あの時のアルベルト殿下の冷たい表情が怖くてたまらない。

ソフィア姫は手の震えを抑える為に自分の左手を右手の甲に重ねてギュッと握りしめる。

兵士が玉座の間の扉を開ける。

玉座に座るレオナルド王が見えて右の壁側には宰相と大臣が立ち並ぶ。

ソフィア姫は玉座の間の中央まで歩き立ち止まりスカートを軽く摘み上げて挨拶をする。

レオナルド王が質問する。


「ソフィア姫、呼ばれた理由は分かっているね……何故あんな契約をしたのか答えなさい」


「アルベルト王子が……スパイだと思ったからです! アルベルト王子に初めて会った日にそう思い殺そうとしました。それで……アルベルト王子に契約書を提案されて契約を交わしました。レオナルド王にご相談せずに申し訳ありません。どうかお許しください」


婚約して結婚したくなければ大抵の人は婚約者に汚名をきせて婚約の破棄をすれば済む話。

でもソフィア姫とアルベルト王子の婚約は平和協定を結んだ王国同士の強い絆を象徴するもので婚約破棄する事が絶対に許されない。

どんなに嫌でも結婚してもらうしかないのだ。

レオナルド王は娘に辛い思いをさせている事は分かっているが娘が婚約者がスパイだから殺すと言い出して困り果てた。

レオナルド王は呆れながらも強く言う。


「しかしアルベルト王子を殺す事が戦争の火種だ!」


「暗殺後は事故死と公表されて戦争もしないとお約束しております」


レオナルド王は頭を抱えながら言う。


「信じれんな……」


「確かにエターナル王国に対する信用などありません! しかしアルベルト王子のスパイ行為を止める為にも暗殺するしかありませんわ!」


レオナルド王は両手で顔を覆い悩んだ。

それから覆った両手がゆっくりと下ろされて椅子の左右にある肘掛けにそれぞれ手を置く。

真一文字の口が開いて答えた。


「お前に……任せる!」


宰相が面食らったかの様に騒ぐ。


「レオナルド王! こんな事をお許しになったら王国の危機ですぞ!」


レオナルド王は耳が痛そうな顔をしながら言う。


「分かっておる! そもそもエターナル王国が結婚を強く望んできて拒否ができなかったのだ。婿の立場は人質に見えるが……姫の言う通りスパイだろう……ワシも不安な芽は摘みたい……」


宰相は深刻そうに質問をする。


「戦争になったらどうするのですか?」


覚悟を決めた顔でレオナルド王は言った。


「ワシが対話をして説得するしかないだろう! それでも戦争の場合は民を避難させて戦う! 今のうちに民の為に食品などを備えるしかない」


レオナルド王はソフィア姫を真っ直ぐ見て言う。


「もし戦争になってもお前のせいではない……婚約を断れなかったワシの責任だ」


ソフィア姫は首を振る。


「いいえ! 私も王族です!」


ソフィア姫は強く逞しく見える。

ソフィア姫の成長を感じてレオナルド王は頷く。

レオナルド王は腕組みして右手の拳を口元に持ってきて咳払いして質問する。


「あと聞きたい事が1つあるのだが……今からは父親として気になる事で……アルベルト王子がソフィアに惚れ込んでいると噂を耳にしたのだが……キスをしたとも聞いておる。それは事実なのか?」


敵国の相手だと心配するのは無理もないが小さな子供の色恋を心配しているのは流石に過保護のようだ。

周りの者は今聞かなくても良いのにと思い緊張の糸が切れてクスクス笑う。

アルベルト王子にキスされた事をソフィア姫は思い出して怒りがわいた。

怒りをこらえながらソフィア姫は笑顔で答える。


「頬にキスされただけです。 お父様、これからは何も心配ありません。あの……女誑しは……私が墓に埋めてやります! ご安心ください!」


ソフィア姫の怒りのオーラを感じる。

周りの者は笑ごとにした事をまずかったと思い笑うのをやめて固まる。

レオナルド王はソフィア姫の厳しい姿勢に喜び微笑んだ。


「ハッハッハッ……心配はいらんようだな。聞いたワシが悪かった。話しは終わりだ」


「はい。では失礼致します」


ソフィア姫は自分の部屋に戻り一息つく。

アンナが紅茶を用意してくれていた。


「ソフィア姫、紅茶です」


「ありがとう」


ララがソフィア姫に話す。


「ソフィア姫……あの……私たちも契約書にはビックリしましたよ」


アンナが心配そうに話しにはいる。


「アルベルト王子は危険な人物なのですか?」


ソフィア姫は紅茶を見つめて少し悲しそうな顔で言う。


「私はアルベルト王子はトゥインクル王国を裏切り戦争をすると思うわ」(未来で見た事は言えない……)


アンナが右手で口元を覆い驚いて言う。


「そんな……まさか!」(ソフィア姫とアルベルト王子は愛し合ってるのに……戦わないといけないだなんて……悲恋だわ)


アンナの頭の中で悲劇の運命のソフィア姫とアルベルト王子が手を取り合い王国から逃げる姿を想像した。

アンナの目には涙が潤んだ。

ララはアンナの頭の中が手に取るように分かったので冷たい目でアンナを見ていた。

ララはソフィア姫に質問した。


「アルベルト王子は婿の立場ですが裏切るでしょうか?」


「私もだけど……王国の為に生きる者は王国の為にやらないといけない事がある。アルベルト王子は結婚を利用してトゥインクル王国の内部を調べ上げるつもりよ。そうなってからではトゥインクル王国は手遅れ! それに暗殺の契約書なんて出して変よ! 普通は暗殺者はギロチン行きよね! 暗殺の契約書はアルベルト王子が婚約継続する為の道具。まあ私はそれを存分に利用させてもらいますわ!」


ソフィア姫からそう聞いてからアンナは呟く。


「ソフィア姫……」(強がった事を言って……アルベルト王子と明るい未来を目指していたのに可哀想なソフィア姫)


アンナの頭の中で悲劇の運命のソフィア姫とアルベルト王子が抱き合い崖に落ちる姿を想像した。

アンナは悲しすぎて号泣する。

ララはアンナの妄想が暴走しているのが分かって眉間にシワを作りながら冷たい目で見た。

ソフィア姫はアンナを慰めた。


「アンナ、私がトゥインクル王国を守るから泣かないで」


「ソフィアひ〜め〜!」


ララはアルベルト王子がソフィア姫とリアム先生との関係を妬いていた事を伝えようと思ったが、ソフィア姫の言うように王国の為に生きている者は自分の心を殺してやりとげる事がある。

ソフィア姫を迷わせない為にも言わない方がいいと思った。

あとアンナの妄想はもっと余計な事なのでソフィア姫に伝えない。

その時、ソフィア部屋にハルト副隊長がノックをして声をかける。


「ソフィア姫お部屋に入ってもよろしいですか?」


「どうぞ」


ハルト副隊長が部屋に入って言う。


「ソフィア姫、体術の講義のお時間です。行きましょう」


「あっそうでしたね。今から準備をします。ハルト先生は稽古場でお待ち下さい」





その頃アルベルト王子は兵士が稽古をする広場では30人の兵士と対戦をしていた。

アルベルト王子の相手の大人は大男で腕力に自信がある者たちばかりで攻撃は凄まじい。

アルベルト王子は小柄な体型を上手く利用してすり抜けるように攻撃を避けて兵士の背中をとり木刀で首を打っていく。

あっと言う間に30人の兵士を倒してしまう。


「フォルト、僕の相手をしてよ」


アルベルト王子は疲れていない様子で爽やかな笑顔で言った。


「かしこまりました」


フォルトはニッコリと笑い承諾した。

フォルトは木刀を掴み真剣な顔つきに変わる。

アルベルト王子は鋭い目でフォルトを睨み音をたてる事なく飛び上がり木刀を振り上げ真っ直ぐ縦に振り下ろす。

フォルト持っている木刀でアルベルト王子の木刀を受けるとカンっと音が鳴り風圧が円状に広がる。

アルベルト王子はフォルトの左耳をチラッと見て空中に浮いたままフォルトの首を蹴ろうとするがフォルトはアルベルト王子が足を掴んだ。

それからバットを振るかのようにクルッとアルベルト王子を投げ飛ばした。

アルベルト王子は空中で体の大勢を立て直して地面に着地。


「さすがフォルトだね。君が本気で投げてたら僕は塀にぶつかって即死だ。フォルトに戦いを挑むなら、もっと速さを鍛えないとな」


フォルトは笑いながら話す。


「十分早かったですよ。あと直す点なら……そうですね。アルベルト王子、殺意をお隠し下さい。目の動きや殺気で攻撃する事が気づかれてしまいます」


「気をつけるよ」





その頃トゥインクル王国では、ソフィア姫が白い軍服を着てハルト副隊長の話を聞いていた。


「アルベルト王子は武道の達人です。いろいろな大会に出られて優勝しております。ソフィア姫がアルベルト王子を倒すのはハッキリ言って無理でしょう」


「えっ!? アルベルト王子はもうそんなに力をつけてるの!?」(アルは武術や体術が得意なのは知っていたけど……子供なら倒せると思っていたのに!)


「体力づくりの筋肉トレーニングから始めて組手を毎日やりましょう」


ソフィア姫は少しガッカリしながら返事をする。


「ゔー……よろしくお願いします」


ソフィア姫は凹んでる場合じゃないと思い真剣に筋肉トレーニングをする。

毎日続けて腕立て腹筋に走り込み鉄棒にぶら下がり懸垂をしたり組手の稽古をした。

トレーニングのレベルも上げていき2ヶ月で体力はしっかりついた。

ステップアップで武術を取り入れ、まずは木刀の素振りをして武器の扱いに慣れる。

それからハルト副隊長と木刀で対戦して打ち方を勉強した。





トレーニングを開始してから3ヶ月。

ハルト副隊長が笑顔でソフィア姫を褒めていた。


「ソフィア姫は真面目にトレーニングを続けて素晴らしいです」


「ありがとう。でも練習は私1人では無理でしたわ。ハルト先生やリアムに手伝って頂き助かりました。それにハルト先生はリアムと違って褒めて伸ばしてくれるからモチベーションが上がって良かったわ」


ハルト副隊長がソフィア姫の後ろを見て声を出した。


「あっ!」


ソフィア姫のすぐ後ろからリアム先生の声がする。


「私もしっかり褒めていますよ」


ソフィア姫は青ざめた顔で振り返る。


「あはは……リアム……」


リアム先生の後ろからヒョコッとアルベルト王子が顔を出したのでソフィア姫は驚いて声を上げる。


「アルベルト王子!?」


「ソフィア姫がエターナル王国に何度か足を運んでくださっているのに僕には会いに来てくれないので僕から会いに来ましたよ」


アルベルト王子は天使の様に微笑む。

周りの大人たちがドキッとするくらいの可愛さだ。

ソフィア姫は会えなかった事を適当に話す。


「諸事情で忙しくて……せっかく来てくれたのに今は剣の練習中で……あ! アルベルト王子よろしければ手合わせをお願いします!」


リアム先生が話しを割って入る。


「ソフィア姫、ここはエターナル王国ではありません!」


ソフィア姫は甘えたように言う。


「練習に付き合うくらいは、いいでしょ!」


「僕はいいですよ」


ソフィア姫はウキウキしながら木刀を持つ。

アルベルト王子はハルト副隊長から木刀を受け取りかまえる。

アルベルト王子と向か合いソフィア姫は木刀をかまえて真剣な顔で言う。


「練習の成果がどれくらいか試させて頂きます!」


ハルト副隊長が試合の号令をかけた。


「始め!」


開始すぐにソフィア姫は勢いよく左上から右下に木刀を振り下ろした。

アルベルト王子が木刀で攻撃を受け止める。

ソフィア姫は右側で半円を描くように回して、その勢いで右上から左下に木刀をまた振り下ろす。

またアルベルト王子は木刀で攻撃を受け止める。

ソフィア姫は一撃一撃を本気で打った。

しかしソフィア姫の力では全く歯が立っていないのは分かる。

アルベルト王子が木刀を振り上げるとソフィア姫の木刀は手から簡単に抜けて木刀は空中にクルクルと回りながら飛ばされる。

アルベルト王子は勝利を確信して口元が笑っていた。

その時ソフィア姫はアルベルト王子に体当たりしてアルベルト王子を押し倒す。

ソフィア姫はアルベルト王子が持っている木刀を掴みアルベルト王子の首筋に当てるように押したが首には当たらなかった。

ソフィア姫は息を切らしながら言う。


「まだまだ私の力ではアルベルト王子には及びません……ですが! この首をとるのは私!」


アルベルト王子は楽しそうに言う。


「ええ楽しみにしています」


アルベルト王子とソフィア姫は立ち上がり握手をする。

ソフィア姫は戦場の女神のように凛として美しい姿だった。

その姿にアルベルト王子は見惚れていたら突然ソフィア姫の顔を大人の手が覆う。

ソフィア姫は驚いた声を上げる。


「わっ! 何?」


手の主はリアム先生だった。

アルベルト王子は見上げてリアム先生を睨む。

リアム先生は手をどけてソフィア姫を抱き上げて言う。


「ソフィア姫、怪我の手当をするので医務室に行きましょう」


「リアム! 抱っこはやめなさい! 怪我なんてしてないし!」


リアム先生とソフィア姫は行ってしまった。

ハルト副隊長は申し訳なさそうに言う。


「あーまたリアム隊長ソフィア姫にあんな事して怒らせて。リアム隊長が過保護で申し訳ありません。アルベルト王子の前であのような態度をしてしまい失礼いたしました」


アルベルト王子は少し笑って答える。


「彼女は魅力的ですから仕方ありませんよ」


ハルト副隊長は目が点になって驚き思わず口にする。


「え?」(魅力的!?)


ニコニコしながらアルベルト王子は伝える。


「僕は帰ります。あと招待状を持ってきました。ソフィア姫に渡してください」


「あっ! はい」


アルベルト王子はハルト副隊長に招待状を渡してから歩き出した。

その後をフォルトが追いかける。

ハルト副隊長から少し離れた場所で執事のフォルトが話す。


「なぜ避けなかっのですか?」


「体当たりを避けたらソフィア姫が怪我をするだろう! ソフィア姫を守るのは当然だ。それに僕を殺すイメージトレーニングも大切だろ?」


執事のフォルトはアルベルト王子がソフィア姫に甘いのが気になった様子。

アルベルト王子は馬車に乗りエターナル王国に戻っていく。

アルベルト王子は馬車の中でソフィア姫の顔を思い出す。


(ソフィア……いつか君を殺した時に僕はどう思うだろう)




その頃ソフィア姫はハルト副隊長からお茶会の招待状を受け取っていた。

招待状を読み終えてリアム先生に話しかけた。


「リアム、お茶会より前にアルベルト王子に会っておきたいわ。手紙を出して約束をしないと……エターナル王国に行くときは、また付き添いをお願い」


「かしこまりました」




ソフィア姫はアルベルト王子と手紙でやりとりをして会う事になり別荘に向かう。

到着してソフィア姫が馬車を降りると丁度もう一台馬車が到着して馬車から降りてくる人がいた。

それはティアラ嬢だった。

ソフィア姫はタメ息をつく。


(アルベルト王子の前にティアラ嬢の事を済ませないと……)


ソフィアが死に戻る前の世界では、お茶会や社交会でティアラ嬢に嫌がらせを受けた過去がある。

嫌がらせが余りにも酷いのでソフィア姫とティアラ嬢は殴り合いになってしまいソフィア姫はエターナル王国でのお茶会や社交会には行けなくなった。

アルベルト王子とソフィア姫が結婚するのが許せないティアラ嬢は盗賊を雇いソフィア姫を殺そうとした事もある。

しかし宰相の娘だから事件は揉み消された。

ソフィア姫はティアラ嬢と目が合うとティアラ嬢は嫌そうな顔で挨拶をする。


「はあー……エターナル王国カミラ宰相の御息女のティアラと申します」(本当は挨拶したくねー!)


ソフィア姫は作り笑顔で挨拶をした。


「ご丁寧にどうも。私トゥインクル王国第一王女ソフィアと申します」(態度が悪いのは相変わらずね)


「ティアラはアルベルト王子と約束しているので失礼します」


「私もよ。ティアラ嬢、お城の中までご一緒しましょう」


ソフィア姫が前を歩いた。

ティアラ嬢がソフィア姫を追い越して歩く。


(え? 早速張り合ってる……)


ティアラ嬢の行動にソフィア姫は驚いたが、なんだか呆れを通り越して可愛く思えて思わずクスクス笑う。

入り口でフォルトがお出迎えして扉を開けるとアルベルト王子がいた。

ティアラ嬢がアルベルト王子に駆け寄り飛びつくように抱きしめた。


「アル……大好き♡」


そう言って頬にキスをする。

ソフィア姫はボーっと眺めながら思った。


(はい、はい……100回は見た光景)


ソフィア姫はコートをメイドのアンナに預けた。

堂々と愛情表現するティアラ嬢を見てソフィア姫が少しは嫉妬しているかと思ったが全くしていない様子。

アルベルト王子はそれで少し不機嫌になった。

アルベルト王子はティアラ嬢の手を外して言う。


「ティアラ嬢、ソフィア姫に挨拶したいから、ごめんよ」


アルベルト王子はソフィア姫に近づき手を引き寄せて急に抱きしめた。

ソフィア姫は驚いた。

アルベルト王子は頬がうっすら赤くしながらソフィア姫の耳元で囁く。


「お待たせ僕のお姫様」


アルベルト王子の吐息が少し聞こえて首筋に軽くキスをされた。

破壊力ある色気の攻撃をくらいソフィア姫は真っ赤な顔になった。

アルベルト王子は強く抱きしめた後にソフィア姫の腰のあたりに手を移動させソフィア姫の顔を覗き込みアルベルト王子は微笑む。

ソフィア姫は理性がぶっ飛んだのかようにアルベルト王子の首の後ろに手を回して、ゆっくり顔を近づけながら目を閉じた。

アルベルト王子は一瞬だけ驚いたが空気を読んで受け入れて目を閉じる。

執事のフォルトは気をきかせて両手でティアラ嬢の目をふさいで目隠しをする。

しかしソフィア姫はキスをするのを辞めて止まる。

ソフィア姫は目を閉じたまま言う。


「唇に毒が塗ってあれば即死ね……毒が使えないのが残念」


アルベルト王子は目を開けて言った。


「毒なんていりません。その唇は心臓を射抜く力はあります」


ソフィア姫は目を開けて問いかける。


「それならキスをすれば、その心臓が止まるのかしら?」


「試してみますか?」


ソフィア姫はアルベルト王子の顔の前にナイフを出してキスを遮り言う。


「キスよりコレで心臓を止めましょうか?」


アルベルト王子は少し驚き言う。


「おっと……それは遠慮します」


2人は離れてソフィア姫はナイフをしまう。

フォルトはティアラ嬢の目をふさぐのを辞めた。

ティアラ嬢は2人がキスしたと思い込んで固まっていた。

我に返りティアラ嬢は真っ赤な顔で怒鳴る。


「ふざけるな! 泥棒猫! アルはティアラのモノよ! ティアラのアルを返して!」


「ティアラ嬢……僕は君のモノでもないし君のモノにはならないよ」


ティアラ嬢はアルベルト王子に今までハッキリと言われた事がなかったので固まって驚き、それからショックで大声で泣きだした。


「うっうっうわーーん」


アルベルト王子はソフィア姫の前でティアラ嬢との関係をハッキリとさせたかったのだ。

遅かれ早かれ、いつかはこうなる事。

ティアラ嬢は逃げるように走り出す。

ソフィア姫は追いかけながらアルベルト王子に言う。


「私に任せて!」


「え! ソフィア姫!?」


アルベルト王子は少し困った顔を見せたがソフィア姫に任せる事にした。

ティアラ嬢は中庭のベンチに座り泣いていた。

執事のレオンがハンカチを差し出して慰めているようだ。

ソフィア姫が近づくとティアラ嬢は気づいて怒鳴る。


「ティアラを笑いに来たの!?」


「違うわよ」


「慰めは、いらないわよ!」


「そのようね」


「何しに来たのよ!?」


ソフィア姫は首を傾げながら言う。


「正直に言うと、どうしたらいいか……分からない……私では怒りを逆立てるだけで……でもあなたをほっとけなくて……それに……ティアラ嬢とちゃんと話したいの」


ティアラ嬢はイライラして叫ぶ。


「あんたなんか大嫌い!」


ソフィア姫はひどい事を言われても淡々と言う。


「あなたはそうかもしれないけど……できれば私はティアラ嬢と仲良くしたいわ」


「ティアラは絶対に嫌!」


「話してみると意外と気が変わるかもしれないわよ……実は今日あなたに会いにきたの。私の相談にのってほしくてね」


「はあ!?」


驚くティアラ嬢をおいてソフィア姫は話しを進める。


「ティアラ嬢に協力してほしい事があるの」


ティアラ嬢は怒鳴る。


「何でティアラが協力しなきゃいけないのよ!?」


ソフィア姫は不適な笑みを浮かべて言う。


「アルベルト王子がエターナル王国の命令でスパイをしているか調べてほしい。彼がスパイか知りたいのよ!」


ティアラ嬢は息を飲み汗をかいている。

無理もないそれはティアラ嬢にスパイをしろと言っているのと同じだ。

ソフィア姫はもう一言を言う。


「彼がスパイだと分かれば……彼と私は別れるわ」(さあどうする?)


ティアラ嬢は急に大笑いをした。


「アハハハ」


笑い終わるとティアラ嬢は返事をした。


「いいわ! アンタたちの婚約をぶっ潰す為なら、それくらいしなきゃね!」


ソフィア姫は満面の笑みで言う。


「調べてくれるの!?」


「ええ」


「ありがとう! ティアラ嬢に相談をして良かった! ティアラこれからも仲良くしてね♡」


ティアラ嬢は嫌そうな顔で言う。


「はあ! 気安くティアラと呼ぶな! それに仲良くしないわ! ティアラはアンタ達を別れさせたいだけ!」


その会話を聞いていた執事のレオンは少し戸惑っていたが何も言えなかった。




3人でお茶会をする。

ソフィア姫はニコニコ話す。


「私たち仲良くなれたのよ! お友達になれて嬉しい」


思わずティアラ嬢は口から紅茶を噴き出した。

ティアラ嬢は叫ぶように否定する。


「変な事を言い出して変な人ね!」


「照れなくていいわよ」


「全く照れてないわ!」


ソフィア姫は首を傾げて言った。


「ツンデレかな?」


「デレてない! ツンしかないわ!」


アルベルト王子が笑顔で言う。


「随分と仲良くなりましたね」


ティアラ嬢は叫ぶ。


「仲良くないって言ってるでしょー!」


不思議な三角関係になった。



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