第5話 裏切り者は英雄を従える
トゥインクル王国が火の海になってソフィア女王が亡くなった直後……
アルベルト殿下は暗い表情で玉座から立ち上がり歩きだし次第に歩く速度が早くなり駆け寄るように亡くなったソフィア女王の側にいき片膝をつく。
アルベルト王子は息ができないような苦しそうな表情を浮かべながらソフィア女王の頬に手を当てた。
(自分から手放しておいて……僕はなんて愚かだ……君を殺したら煩わしい感情がなくなると思ったが……苦しい)
ソフィア女王の事を考えると胸の中心を刃物でグルグルとかき混ぜられた気分がして胸の奥が痛くて重い気分になる。
(ソフィア……)
アルベルト殿下はソフィア女王の体を起こして強く抱きしめると、まだソフィア姫の体は温かくて温もりを感じた。
アルベルト殿下は目を閉じて上を向き呟く。
「ソフィア」(僕は戦わないといけない……でも君といると君と幸せになる未来を望んでしまう……僕は君と幸せになる事は許されないんだ)「僕が弱いせいで君を不幸にした」
アルベルト殿下がソフィア女王にキスをするとソフィア女王の唇はもう冷たくなっていた。
「この世界は地獄だ」(君がいない世界で……僕は鬼として生きる)
アルベルト殿下は左目から一筋の涙を流しソフィア女王を強く抱きしめた。
契約を交わし終えたソフィア姫はトゥインクル王国に帰る。
帰りの馬車の中でソフィア姫は契約の内容を確認していた。
ソフィア姫は大切な事に気づき慌てるように馬車の窓を開けて馭者に声をかけた。
「リアム先生を呼んで頂けますか?」
「はい!」
馭者は先に進む騎士の列に向かって叫ぶ。
「リアム隊長、ソフィア姫がお呼びです」
馬に乗ったままリアム先生は馬車と横並びになり馬車から顔を出すソフィア姫に声をける。
「何かご用でしょうか?」
ソフィア姫は青ざめた顔で話す。
「この契約書だけど! 私の命の保証がされてないわ!」
「……」
リアム先生は一瞬呆れて言葉が出なかった。
本当にソフィア姫の中身は20歳の女王なのかと思うくらい軽率な行動が多い。
リアム先生はソフィア姫の猪突猛進の性格を変えなくてはいけないと考えながらため息をつく。
「はあ……サインする前に契約書の内容を王国で協議するべきでした! 私たちに断りもなく姫がサインをしたのです!」
リアム先生は鬼のような顔になる。
ソフィア姫は怒られて当然なのだが優しくないリアム先生を憎らしく思った。
「ゔっ……」(私が悪いけど、ちょっとくらい優しい言葉をかけてよ)
先頭の馬が騒がしくヒィヒィーンと鳴いた。
ハルト副隊長が大声を出す。
「敵襲! 敵襲! 盗賊だ!」
馭者が叫ぶ。
「ソフィア姫! 馬車を止めます!」
馬車が無理矢理に止まろうとしたので馬車は激しく揺れて止まる。
ソフィア姫は恐怖で唇を震わせて言う。
「実は暗殺者とか……?」
「契約書に姫の命は保証してませんから暗殺者かもしれませんね」
リアム先生は冷たい顔をしながらソフィア姫にわざと不安を煽った。
ソフィア姫は泣き顔で言う。
「そーんなー!」
泣いているソフィア姫を見てリアム先生は怖がらせてしまった事を反省する。
リアム先生はソフィア姫の泣き顔には弱いのだ。
リアム先生はソフィア姫に甘い自分はどうしようもない奴だと思いながらもソフィア姫に優しく声をかけた。
「大丈夫です! 私がすぐに片づけます! そこを動かないでください」
リアム先生は馬から降りると前から盗賊が3人駆けてくる。
リアム先生は走り出し剣を一振りして盗賊の1人目を一撃で仕留めた。
ソフィア姫はリアム先生の凄さに驚いた。
外にいる馭者は怖くなり運転席から降りて走って逃げる。
盗賊の2人はリアム先生を警戒して距離をとった。
距離をとっていた盗賊の1人がリアム先生に剣を振りながら向かってくる。
リアム先生は攻撃をサッと避けてクルッと回る様に相手の背中をとって剣を振り下ろしザンッと斬り倒す。
残りの盗賊が剣を振り下ろしたがリアム先生は素早く剣で相手の剣を受けた。
リアム先生と盗賊は剣で押し合う。
リアム先生の剣が押し勝って盗賊が後退りをしながら距離をとった。
盗賊は覚悟を決めて剣を振り上げ真正面から向かってきた。
リアム先生は盗賊の剣を見切って避けて盗賊の腹を剣で横に真っ直ぐに左から右にシャッと振り斬る。
盗賊は2、3歩進みゆっくり倒れた。
戦いの隙に隠れていた盗賊が馬車に忍び寄り馬車のドアを開けてソフィア姫を引きづり降ろした。
「きゃ!」
ソフィア姫は車輪の近くで倒れてしまった。
リアム先生は走りだして叫ぶ。
「ソフィア姫!」
ソフィア姫は痛い体を何とか動かして馬車の車輪に掴まり起き上がる。
盗賊はリアム先生の声に反応して振り返る。
リアム先生は剣を真っ直ぐ縦に振り斬り盗賊はソフィア姫の目の前に倒れてきた。
リアム先生は剣をしまいソフィア姫の手をとる。
「大丈夫ですか?」
「ええ大丈夫」
ソフィア姫はスカートが一箇所だけ縦に裂けて破れていてボロボロになっていた。
ドレスの切れ目から膝が見えた。
膝は怪我をしていて出血している。
リアム先生はソフィア姫に優しく声をかけた。
「怪我をしてる……大丈夫ですか?」
「ちょっと痛いけど、これくらい平気よ!」
「しっかり止血します!」
リアム先生はソフィア姫をお姫様抱っこをした。
ビックリしたソフィア姫は思わず声がでた。
「わぁ!」
馬車の運転席にソフィア姫を座らせてリアム先生はハンカチを出して膝にあてる。
痛くてソフィア姫は呟く。
「いっ……痛い……」
リアム先生は怪我をした膝にハンカチを巻きつけて包帯にする。
リアム先生がハンカチを縛っているのをソフィア姫はジッと見ていたら膝から上の肌が出ている事に気がついた。
ソフィア姫は顔を赤くして両手で肌を隠した。
(リアム……見たわよね!)
ハンカチの包帯を縛り終えるとリアム先生はコートを脱ぎソフィア姫に着せた。
ソフィア姫はリアム先生の気遣いに気づく。
大きなコートでドレスの破れた所を隠してくれたのだ。
「ありがとう……」
「いえ……怪我をさせてしまい申し訳ありません」
リアム先生は責任を感じていた。
ソフィア姫はリアム先生を攻める気持ちは全くない。
だから落ち込むリアム先生を励まそうとソフィア姫は素直にリアム先生を褒めた。
「リアムは何も悪くない! それに……こんな素晴らしいナイトは私には勿体ないし……あなたにナイトを辞められたら困るのは私よ! いつまでも私のナイトでいてください」
月明かりに照らされてソフィア姫の顔がよく見える。
ソフィア姫の顔は照れくさそうにしながらも、とても愛らしい顔で微笑んでいた。
吸い込まれるようにリアム先生は両手を伸ばしソフィア姫の顔を優しく手で包み込んで引き寄せた。
2人の顔が近づき鼻先が触れる距離でリアム先生は囁くように言う。
「私はあなたのものです。あたなを失う事は自分を失う事……一生をかけてお守りすると誓います。あなたと私で未来を生きましょう」
「リアム……?」
リアム先生の甘い言葉は恋人に向けたように聞こえた。
リアム先生は敵の気配に気づき呟く。
「邪魔者がきた……」
リアム先生はソフィア姫を抱き上げて走る。
その後を盗賊が追いかけてくる。
ソフィア姫を抱えながら剣を振るのは難しい。
ソフィア姫を馬に乗せてリアム先生も乗り込み森の中に馬で逃げて行く。
こんな時にソフィア姫は真っ赤な顔して困っていた。
ソフィア姫の頭の中でリアム先生の言葉がリプレイ再生されてパニック状態。
(リアムの言葉の意味をどうとらえればいいの!? 騎士として誓った言葉? それとも!?)
森の奥深くに入ると白い霧につつまれて盗賊が見えなくなった。
騒いでいる声も聞こえなくなり周りが静かになる。
リアム先生は周りを警戒しながら馬の足を止めた時に女の声がした。
「もう大丈夫だぞ」
その声を聞いてソフィア姫は正気を取り戻す。
突然、目の前に女が現れた。
女の姿は17歳くらい髪は前髪が白く横髪から後ろは黒くて長い、目は宇宙の銀河のような瞳をしている。
服は黒いマーメイドドレスを着ていた。
リアム先生はソフィア姫をしっかり抱き寄せって警戒をする。
「ああ驚かせたね! 僕はルーラこの森に住んでいる魔女だ」
ソフィア姫は青ざめた顔して叫ぶ。
「魔女!!」
リアム先生は冷静に質問する。
「魔女が何の用だ!?」
魔女のルーラは子供みたいな態度で拗ねた顔をして言う。
「助けたのに態度があんまりだな……」
「助けただと……?」
魔女のルーラは自慢げな顔で言う。
「君たちを結界の中にいれて助けたのさぁ」
どうやら魔女のルーラは危害をくわえるつもりはないようだ。
ソフィア姫は少し安心して質問した。
「ここは本当に結界の中?」(結界に入れてくれるなんて優しい魔女)
「ハッハッハッ疑うなら魔法でも見せてあげようか?」
リアム先生は剣を抜いた。
ルーラは両手を顔の横に持ってきて手の平を見せた。
「おっと! 危害をくわえるつもりはない」
「リアム! 剣を下ろしなさい! ルーラさんはきっと大丈夫よ。私、魔女に会うのは初めてなの! 是非、魔法を見てみたいわ」
ソフィア姫は無邪気な顔で魔法に興味津々。
リアム先生はソフィア姫の警戒心のなさに困ってしまう。
魔女のルーラはお辞儀をしてショーでも披露するかのように言う。
「ではソフィア姫に特別に魔法を見せてあげよう!」
魔女のルーラは右手をソフィア姫の近づけた。
右手を左から右に手をるように動かすとソフィア姫は一瞬だけ青い光に包まれた。
リアム先生はソフィア姫を強く抱きしめて叫ぶ。
「何をした!」
ソフィア姫はハッとして言う。
「さっきまで痛かった怪我が痛くない……」
ソフィア姫はコートをめくると怪我が治っている。
それだけでなくドレスも直っている。
ソフィア姫は目をキラキラさせて興奮した声で話す。
「リアム! ドレスも元通りよ! ルーラさんは何で私が怪我をしているのが分かったの?」
「僕は魔女だよ。過去を見るのは簡単さ。襲ってきた盗賊は婚約をよく思ってない貴族の手引きだ。エターナル王国の一部の貴族には注意した方がいい」
「なんとなく心当たりがあるわ」
「さすが……死に戻り姫。どの貴族の仕業かは教えなくても良さそうだね」
「私が未来からきた事も分かるのね……もしかして……夢の声はルーラさん?」
「ああ夢に入らせてもらった」
「夢の中で、死んだ気分はどうと聞いたわね……死は……苦しいって言葉でも足りないくらいの苦しみだった……」
「死んだ感想をありがとう。君の未来が少しでも変わるように1つだけ教えてあげよう。エターナル王国の執事のフォルトについて……」
リアム先生が反応をして質問する。
「あの執事の事を知っているのか?」
「英雄と言えば分かるだろ?」
「そんな……しかし執事は若い……英雄と歳が違いすぎるが?」
「僕が魔法で若返らせたのさ。フォルトには、いろいろかしがあってね」
リアムが驚いて思わず声に出す。
「若返り!」
「安心して若が返ったと言っても寿命は延びないよ」
「そんな事をしたら魔法が脅威と思われエターナル王国に拘束されないのか?」
「ああ……昔から王族とは腐れ縁さ! 僕は戦争に加担するのはごめんで隠れ住んでたし……でも今は隠れる必要はなくなったけどね。アルベルト王子が王と掛け合ってくれて僕はやっと平和に暮らせる」
ソフィア姫が俯きながら呟く。
「アルベルト王子が……」 (やっぱりアルのいい噂を聞く……悪い噂を聞いた事がない……それに私の記憶でもアルはとても優しかった……だから裏切られた時は嘘のようで信じられなかった!)
魔女のルーラはソフィア姫に話しかけた。
「ソフィア姫、君の行く先は茨の道だ。君がほしい未来は難しいよ」
「ルーラさんは、未来を知っているの?」
「まあ知らなくもないけど魔女にも未来は正確には分からない。行動が1つ2つと変われば未来に変化があるからね。いろいろな選択の中で君が望む未来に進みなさい」
急に霧が濃くなり前が見えなくなる。
すぐに霧が消えたと思ったらルーラの姿も消えていた。
ソフィア姫たちを呼ぶ声がしたので森を出るとハルト副隊長たちがソフィア姫たちの事を探していた。
リアム先生は先に馬から降りてからソフィア姫を抱き上げて馬から降ろした。
ハルト副隊長が気づき駆け寄り声をかける。
「リアム隊長やっと見つけた! 盗賊は倒したぜ! みんな頑張ったから褒めくれよー」
「はいはい……隊列を整えて出発するぞ!」
ハルト副隊長が疲れた顔で言う。
「今から王国に帰るのは遅くないか? 引き返してエターナル王国に泊まろーよ? 王子も泊まる事をすすめてたんだし! 今から引き返そうぜ!」
リアム先生は不機嫌な顔で言った。
「ダメだ! 早く準備をして王国に帰るぞ!」
「えー疲れた〜」
ハルト副隊長は口を尖らせ拗ねながら準備をする。
メイドのアンナがソフィア姫に泣きながら駆け寄り話す。
「ソフィアひ〜め〜! ご無事で良かったです。ハルト副隊長たちのお陰でもう大丈夫ですよ!」
ソフィア姫はアンナたちが無事で安心した。
エターナル王国の別荘では社交会の従者たちが後片付けをしていた。
中庭のベンチにアルベルト王子が座っているとカミラ宰相の娘のティアラ嬢が近づいてきた。
ティアラ嬢の姿はピンク色の長い髪、紫色の瞳でオレンジ色のドレスを着た7歳の少女。
アルベルト王子は作り笑顔をする。
(怖い令嬢が来た)「ティアラ嬢どうされましたか?」
「アルベルト王子なんでソフィア姫と話させてくれなかったの?」
「今日は忙しかったので、またの機会にティアラ嬢を紹介します」
「ふーん。まあいいわ。それより今日は遅くなったから泊まりたいなー……ティアラはもーねーむーいー! お泊まりいい?」
「ティアラ嬢……カミラ宰相とご一緒ですか?」
「父上は帰ったわ」
「それは困りました。私は婚約者がいる身です。女性を気軽に泊める事はできません」
「ティアラは宰相の娘よ。いいじゃない」(1人じゃ寝れないと言ってアルベルト王子と一緒に寝たいなー)
アルベルト王子は嫌な予感しかしない。
執事のフォルトが近づいてきて声をかける。
「ティアラお嬢様、帰りの馬車の準備ができました。出口までご案内致します」
(フォルトじじぃ邪魔しやがって!)「ティアラはアルベルト王子と一緒にいたいの!! ねーアルベルト王子!」
ティアラ嬢はアルベルト王子に抱きつく。
「申し訳ありません。カミラ宰相に送るようにお申し付けを受けております。ティアラお嬢様、遅くなりましたのでお急ぎ下さい」
「えー! じゃあ次はティアラを絶対に泊めてね!」
ティアラ嬢は目をキラキラさせながら無理な約束を言っている。
フォルトが2人を引き剥がすようにティアラ嬢を抱っこして運ぶ。
アルベルト王子は作り笑顔をしながら手を軽く振る。
ティアラ嬢の熱烈な愛のアピールと粘着気質にアルベルト王子は困っていた。
「はぁ……」
不機嫌な顔で1人で月を見上げる。
ティアラ嬢が乗る馬車の前で淡い緑色の髪で赤茶色の瞳をしている男がいた。
彼はティアラ嬢の執事のレオンだ。
執事のレオンがフォルトからティアラ嬢を受け取り馬車に乗り込む。
ティアラ嬢と執事のレオンは横並びに座る。
ティアラ嬢は不機嫌そうに言う。
「泊まるつもりだったのに!」
「ティアラお嬢様、状況が悪くなりました」
ティアラ嬢はニッコリ笑って可愛い顔で聞く。
「まさか……失敗したって言うの?」
「お嬢様……申し訳ございません」
ティアラ嬢はレオンの前髪を掴んで顔を近づけて睨む。
ティアラ嬢は狂ったように叫ぶ。
「よーく聞け! アイツを殺せ! 殺せ! 殺せ! 私はあの女が大嫌いだ! だから殺せ!」
ティアラ嬢はレオンの首に噛みついた。
思わずレオンは声が出た。
「うっ……」
レオンは一瞬だけ痛そうな表情をしたが流し目でティアラ嬢を見ながら寂しそうな顔を浮かべた。
ティアラ嬢は噛みつくのをやめてレオンを優しく抱きしめて耳元で囁く。
「レオン……主人の心の痛みが分かる? 次は絶対に殺してね♡」
レオンは瞳を閉じてティアラ嬢の後ろ髪を優しくなでながら言う。
「はい、お嬢様」
レオンが目を開くと目は死んでいるかのように覇気がない。
ティアラ嬢はレオンの顔をチラと見て微笑みながら言う。
「お願いね♡」
ティアラ嬢はレオンの首に滲んだ血をペロリと舐めて首にキスをした。
2人を乗せた馬車は夜更けの道を走る。
https://kakuyomu.jp/users/ebetennmusube/news/16818093079109598144
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