第2話 女王と銀色のナイト

黒色と金色で装飾された立派な馬車にアルベルト王子は乗ろうとタラップに右足を踏み出す。

アルベルト王子の耳元で誰にも聞こえないように執事のフォルトが話しかけた。


「ソフィア姫を亡き者にしますか?」


その言葉に一瞬も動じずにアルベルト王子はタラップに上りながら指示をした。


「いや、お前は何もしなくていい」


執事のフォルトは頭を下げながら返事をした。


「かしこまりました」(今回のお茶会でソフィア姫の心を掴む予定が……あの姫は会ったばかりのアルベルト王子に敵意をむけるとは驚きました。しかも……【裏切り者……私の王国を返しなさい】あの言葉は……エターナル王国の王が戦争を仕掛ける事を知っているのか? 厄介な事になりそうですね……)


アルベルト王子は馬車の中でソフィア姫の事を考えていた。


(どこの姫も同じだと思っていたが……変わった姫だな)


アルベルト王子はソフィア姫の顔を思い出して少し笑う。


「退屈はしないな」


アルベルト王子はそう言って楽しげな顔をした。

1時間ほどでアルベルト王子の別荘に着く。

アルベルト王子はソフィア姫と婚約してトゥインクル王国に近い場所に移り住んだのだ。

王城よりは規模が小さいが立派な黒いお城で兵士が厳重に警備している。

アルベルト王子は馬車から降りて、お城を見上ながら思った。


(鳥籠だな……)





アルベルト王子たちが帰りソフィア姫は考えていた。


(次のお茶会で罠を仕掛けアンナに案内させ……ああ〜ダメですわ!? アンナが罠にかかる予想しかできません! それにフォルトさんに邪魔されるわ! 花瓶を投げてもフォルトさんにキャッチされて……『アルベルト王子、見て下さい立派な花瓶です』とか言われて余裕で防がれてしまいますわ! フォルトさんを引き離してから……)


その時バタバタと足音が聞こえてきた。


「ソフィア姫の体調が悪いだなんて一大事です! すぐベットに!!」


アンナはソフィア姫をお姫様抱っこして寝室までダッシュで走りぬける。

ソフィア姫は弁解の余地も与えられずにベッドに寝かされた。

バタバタしながらアンナはペラペラ話す。


「私はダメなメイドです! 主人の体調が悪い事を気づかないなんて……ソフィア姫、申し訳ございません! 今レモンと蜂蜜を混ぜたお湯を飲んで下さい!」


アンナは泣きながら用意をする。

ソフィア姫はアンナを安心させようと声をかけた。


「アンナ! 私はもう大丈夫よ! アルベルト王子に会って緊張をしすぎただけよ!」


アンナは首をふりながら言う。


「いいえ! 今日は変ですよ! 無理をしないで下さい!」


風邪をひいてないのに困った事になりソフィア姫は何と言い訳をしようか考える。


(どうしよう……正直に話す? でも未来からきてアルベルト王子を殺そうとしたなんて言えませんわ……適当に誤魔化しましょう)「アルベルト王子が私をあまりにも褒めてくれたので……私なんだか恥ずかしくなってしまったの! それで調子がうまくいかなかったのよ」


アンナは振り返り言う。


「まあ! そうなんですね!」(ソフィア姫は初めての恋で戸惑ったのね! 可愛い)


アンナは初恋が微笑ましいと思いながらニヤニヤした。

そのアンナの顔を見てソフィア姫は不思議そうな顔をする。


(何かしら? アンナの顔がニヤけてる……私、変な事を言ったかしら?)


アンナはポケットから手紙のような物を出してソフィア姫に渡す。

アンナはウキウキしながら言った。


「体調が良ければアルベルト王子の別荘には行けそうですね」


ソフィア姫は首を傾げて言う。


「別荘?」(別荘のお城に住んでるのは存じてましたが、私の記憶では、いつもアルベルト王子がこちらに来ていましたわ。きっとこちらの偵察のため。私が別荘に呼ばれるのは初めて……)


受け取った手紙は招待状だった。

招待状を見ながらソフィア姫は喜んだフリをするが心がこもっていない言い方だった。


「まあーステキデスワ……」(普通殺そうとした者を招き入れる? これは私の命が危ない!?)


招待状には1週間後と書いてある。

ソフィア姫は慌てるように叫ぶ。


「1週間後! アンナ! 剣術の先生のハルト先生をお呼びして!」(アルを返り討ちにしてやる!!)


アンナは困った顔をしながら言う。


「え? ハルト先生をですか? でもソフィア姫、体調がよろしいなら今から政治のお勉強です。リアム先生がお待ちですよ。ハルト先生に会う時間はありません!」


ソフィア姫はムンクの叫びのような顔をして叫んだ。


「リッリアム!!」(銀髪の鬼教師!! 初めての授業では20時間も勉強させられた! 今からリアムと勉強なんて嫌よ!)


ソフィア姫は軽装の青い服に着替えてから勉強の部屋に行った。

部屋に入るとリアム先生が奥の窓辺に立っていた。

リアム先生は若い青年で銀髪のロングヘアー、瞳は金色、服は白の軍服を着ているので余計に厳しさを感じる。

リアム先生は頭の良さでソフィア姫に政治と戦争の歴史と兵の仕組みや戦力についても教えている。

更に彼はソフィア姫の王室騎士団の第二軍隊の隊長。

リアム先生が怒ると鬼のような顔で恐ろしい。

だから過去では勉強が大嫌いで逃げ出して余計に怒られていた。

その記憶を思い出して恐怖を感じた。

ソフィア姫は恐怖心を落ち着かせて勉強に挑む。

リアム先生が声をかけた。


「ごきげんよう、ソフィア姫」


ソフィア姫はとても上手な作り笑顔で返事をした。


「ごきげんよう、リアム」


リアム先生は厳しそうな顔で言う。


「今日はテストをします」


ソフィア姫は苦い顔になるのを我慢しながら返事をした。


「はい」(相変わらず雑談ゼロで無口な男だわ)


窓の前に椅子とテーブルがあり、その椅子にソフィア姫は座りテストを始める。

リアム先生は中央にあるローテーブルにたくさんの書類を置く。

それからリアム先生はソファーに座り書類に目を通しながらテストが終わるのを待つ。

ソフィア姫は中身が大人なのでスラスラとテストを解いてしまった。

早くテストを終えたのでリアム先生が少し驚いた顔をしてテストを受け取り、その場で素早くテストの採点をする。

ソフィア姫はテストに自信があるような顔で採点を座って待つ。

リアム先生はジロジロとソフィア姫を見た。

気になりソフィア姫は声をかける。


「どうかいたしましたか?」(テストは簡単だったから大丈夫なはずですわ!)


テスト用紙を見ながらリアム先生が言った。


「いや……満点で驚きました。よくできました」(習ってないところも出したのに……)


ソフィア姫はホッとして、ご満悦な顔をしながら言う。


「ありがとうございます。まあ、これくらい当然ですわ」(いつも厳しいリアムが褒めるなんて珍しいわ。リアムに褒められると気分がいいわね)


リアム先生は顎に手を軽く当てながら言う。


「姫は勉強が嫌いなのかと思ってましなが、そうではないようで安心しました。いつもこうだと嬉しいのですがね……」


棘のある言い方をされてソフィア姫はカチンときたので言い返したくなった。

ソフィア姫は右手の拳を自分の口の前に持ってきてコッホンッとわざと咳を一回して言う。


「私が勉強に取り組む姿勢が悪いのは、リアムあなたに問題があります! 勉強を教えている時のあなたの目は、鬼のような目をしているわ! それでは怖くて勉強に支障が出ます。少しくらい笑ったらどうなの!?」


リアム先生は目が鬼に変わる。


「鬼でしたか?」


リアム先生はソファーから立ち上がりソフィア姫に近づく。

ソフィア姫は席を立ち上がり後ろに2、3歩ほど後退りする。

更にリアム先生は追いかけるようにソフィア姫に近づいて窓辺に追い詰めて言う。


「私の怖い目は騎士の職業病だと思ってお許しください」


リアム先生は腰を曲げてソフィア姫の顔を覗き込むように睨んだ。

それからニコッと笑う。


「姫が素晴らしい女王になるように、これからも、もっと全力で手取り足取り教育をいたしますので、ご覚悟を!」


リアム先生が意地悪を言うのでソフィア姫は怒る。


「あなたはいつも私に厳しすぎるのよ! 女王になってからも! 女王ならもっと賢く冷静にと口うるさくて……あっ!」(まずい……喋りすぎた)


リアム先生がまたソフィア姫をジロジロ見る。

ソフィア姫は目を逸らす。

リアム先生が話す。


「……女王になってからですか? その話が何のことか私には分かりませんが、さっきから違和感を感じておりました。私の呼び方が違うので……姫はいつもリアム先生っと呼んでおりました。それから、今日のソフィア姫の話し方はまるで大人のようだ」


ソフィア姫は苦笑いをしながら思った。


「……」(中身は大人だからね)


リアム先生は怪しい目でソフィア姫を見る。

ソフィア姫は言い訳を考えたが、この短い時間で気づかれているのに、この先も誤魔化せるとは思えない。

それにリアム先生は頭がいい。

ソフィア姫はもう観念して答えた。


「はぁ……冷静ではありませんでした。リアムはいつも私を見透かしてしまうのね! 下手な言い訳が駄目なら、あなたには全て話しましょう。信じてくれるか分かりませんが……正直に話します」


リアム先生は何も言わずに聞く。

ソフィア姫は緊張した様子で話す。


「私は……未来から過去に戻ったの……私はソフィア女王です」


リアム先生は少し驚いた。

ソフィア姫の目は真っ直ぐリアム先生を見ているので本当のようだ。

リアム先生はソフィア姫に質問した。


「未来ですか……未来で何かあったのですか?」


ソフィア姫は真剣な顔で答えた。


「リアム……未来の王国は戦争で燃えてしまったの。この世界に戻ってきたからには、私は王国を絶対に救いたい! リアム私に力を貸して!」


ソフィア姫は、未来の戦争の事、アルベルト殿下に自分が殺された事、それから裏切り者のアルベルト王子を殺そうとした事も全て話した。


「だから今いる私は子供に見えるけど20歳の女王なの!」(リアム信じて!)


リアム先生は俯き暗い顔で言う。


「未来の私は……ソフィア女王をお守りする事ができなかったのですね……」


ソフィア姫が6歳の時にリアム先生と出会った。

その時からリアム先生は自分の全てをかけてソフィア姫に忠義を誓って生きてきた。

頭の良さも剣術の力もソフィア姫の為に努力してきた。

そして力は王様に認められてソフィア姫の護衛になる事ができて、ずっと守ってきたのだ。

騎士の中にはリアム先生の強さに嫉妬して公爵家の優遇だと陰で罵倒された事もある。

しかし本当にリアム先生は王国とソフィア姫の為に力を尽くしてきたのだ。

そのリアム先生がソフィア姫を守れなかった事実はあまりにも残酷だ。


「リアム……」


ソフィア姫は、自分の命を守ってきたリアム先生の忠義に感謝し涙が流れる。

ソフィア姫はリアム先生に抱きついて、たくさん泣いた。


(リアム信じてくれてありがとう……王国を守れなかったダメな女王でごめんなさい)


更に大きな問題と不安で心が折れそうで辛くて泣いてしまう。

アルベルト王子に裏切られて殺された事も王国が火の海にされた事も悲しい。

ソフィア姫はいっぱい泣いて泣き尽くした。

しばらくして落ち着きを取り戻し涙がおさまり2人はゆっくり向かい合う。

リアム先生が優しく言う。


「これからは私が一緒ですから安心してください」


ソフィア姫の前にリアム先生は左膝を床につく。


「リアム?」(えっ!?)


リアム先生はソフィア姫の顔を見ながら言う。


「ソフィア姫」


ソフィア姫はリアム先生の目を見つめて返事をする。


「はい……」(これってまさか!?)


ソフィア姫はドキドキした。

リアム先生はタメ息を一回して告げた。


「お粗末な暗殺は許しません」


ソフィア姫はびっくりして口がポカンと開き思わず声がでる。


「え?」


リアム先生は鬼の顔で言う。


「20歳にもなって、そんな事も分からないとは、今から戦いについて教え直します!」


ソフィア姫はいきなりの説教に戸惑う。


「失敗した事は許して! いろいろあったのよ!」(さっきまで優しかったのにー!!)


リアム先生は更に説教をする。


「女王たる者はいつでも冷静に……」


ソフィア姫は号泣しながら叫ぶ。


「もー! 勘弁して!」(告白だと勘違いした私が恥ずかしいから!)


いつも冷たい顔つきのリアム先生が柔らかい表情でくすくす笑った。

ソフィア姫は大人の顔つきをして背筋を伸ばしてリアム先生に命令を言う。


「来週エターナル王国に行きます。リアム護衛をしなさい。帰るまで絶対に私から離れないように!」


リアム先生はキリッとした顔をする。


「必ず姫をお守りいたします」


リアム先生は左膝をついたままで右膝にに右手を添えて左手でソフィア姫の右手をとり手の甲にキスをした。


(忠義の儀式……勘違いしたせいか、なんだか少し照れてしまうわ)


手の甲にキスをした後のリアム先生は優しい目でソフィア姫を見る。

ソフィア姫は少し頬を赤める。

それからソフィア姫は凛とした顔をする。


(アルベルト王子覚悟しなさい!)





アルベルト王子のお城では兵士が見回りを常にしていた。

アルベルト王子は窓辺から外の景色を見る。

北のエターナル王国はもう雪が降り始めた。

お城は冷たい空気に包まれていた。

アルベルト王子は飼っている黄色いインコを右手の人差し指に乗せた。

インコは飛んだが、アルベルト王子がすぐに左手でインコを捕まえた。


「自由に飛びたくても身動きがとれない」


そう独り言を呟いた。

アルベルト王子の右目からは一筋の涙が流れている。



https://kakuyomu.jp/users/ebetennmusube/news/16818093074033198500


https://kakuyomu.jp/users/ebetennmusube/news/16818093074086427818

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