平和を愛する女王とサイコパスな婚約者
みづほ
第1話 裏切り者は玉座に座る
大きな爆発でトゥインクル王国は火の海である。
王城の玉座の間でソフィア女王が玉座から立ち上がり兵士に命令をする。
「火を消して原因の報告をしなさい」
その指示に従い兵が消火活動をする。
敵から攻撃をされたかのような爆破で嫌な予感がする。
すぐに兵士1人がソフィア女王に緊急報告にきた。
「緊急です! エターナル王国が攻めてきました! 今、先行部隊を既に戦わせています! っゔ!」
報告した直後、兵士は後ろからきた者に斬り殺された。
死んだ兵士の後ろには血のついた剣を握って立つアルベルト殿下がいた。
無表情のアルベルト殿下はゆっくりと剣を真っ直ぐにしてソフィア女王に向けた。
ソフィア女王は状況に困惑しながらもアルベルト殿下に問いかけた。
「殿下、何のつもりですか? 剣を下ろしなさい」
アルベルト殿下は何も答えず剣を振り上げて襲いかかる。
ソフィア女王は恐怖で体が動けなくなり、向かってくるアルベルト殿下を見るのも怖くて目を閉じてしまった。
ソフィア女王は左肩から右腹部を斜めに斬られる。
ソフィア女王はよろけながら右手で傷口を押さえたが出血の量が多い。
ソフィア女王は痛みに耐えながら呟いた。
「アル何で?」
ソフィア女王は全身の力が抜けたように右側に倒れた。
同時にソフィア女王の頭から王冠が落ちてカラカラと音をたてながらアルベルト殿下の足元に転がる。
アルベルト殿下は王冠を拾い上げて自分の頭に被せた。
アルベルト殿下は玉座に向かい玉座の前に立って少し眺める。
アルベルト殿下は、くるっと回るように玉座に座り右足を軽く上げて足を組みソフィア姫に告げた。
「ソフィア……僕は裏切り者だ」
アルベルト殿下の言葉を聞いてソフィア女王は最後の力を振り絞り言う。
「嘘でしょアル……」
ソフィア女王は意識が薄れてゆく中で思った。
(アルが裏切るなて……戦争を止めて王国を取り戻さなくては……でもこのままでは死んでしまう……悔しい……アルが許せない! 殺してやりたい!)
真っ暗な世界に堕ちて行く感覚だった。
アルベルト殿下の故郷であるエターナル王国はトゥインクル王国と昔から隣国同士で戦争をしていたが一時冷戦状態になっていた時にソフィア女王とアルベルト殿下の結婚で和解し平和協定を結んだ。
決められた結婚でも長く過ごしていく中でソフィア女王はアルベルト殿下を愛していた。
ソフィア女王は愛していた男に殺されたのだ。
真っ暗な世界が急に明るくなり光が差した。
ソフィア女王は目をゆっくり開ける。
体を斬られたはずなのに怪我をしていない。
ソフィア女王は独り言を言う。
「どうして? 助かったの? それとも天国かしら?」
周りを見渡すとメイドのアンナが忙しそうにドレスを何枚も用意している。
アンナは一枚の小さな水色のドレスを出してソフィア女王に見せながら言う。
「ソフィア姫、今日はこのドレスにしましょう」
アンナの言葉を聞いてソフィア女王は疑問を感じた。
(ソフィア姫? 女王になったのに呼び方を間違えてる……それにそのドレスは子供用だわ! アンナは戦争が起きて動転しているのかしら?)
アンナは腕まくりをしながらソフィア女王に着替えの声がけをする。
「さぁ着替えましょう」
アンナはソフィア女王の後ろで準備をする。
子供用のドレスを着せようとするアンナをソフィア女王は制止しようと声をあげた。
「アンナ、そんな小さいドレスは着れないわ」
ソフィア女王がアンナの方に振り返ると大きな鏡があった。
その鏡に映ったソフィア女王の身長は110センチくらい。
髪の毛は金髪のウェーブで肩ぐらいの長さ。
瞳は青色で肌は白く頬はほんのり薄いピンクだ。
この姿は子供の時のソフィア姫。
アンナがソフィア姫の肩にドレスをあてながら言う。
「姫に合わせて作ったのでサイズはピッタリですよ」
ソフィア姫は目を丸くしながら驚いて思わず叫ぶ。
「アンナ! 私、子供だわ!」
アンナは少し首を傾げながら返事をして、自分なりに解釈をして答えた。
「はい? あぁ! 婚約はまだ早いっと言う事ですか? でも婚約は王国で決めた事ですので残念ながら取り下げる事はできません……ソフィア姫が不安になるのも分かります……ずっと戦争をしていた相手の王子なので心配でしょう。でも婚約者のアルベルト王子はとても賢くて素敵な人だと聞きました。今日初めてのお顔合わせで、いらっしゃいます。会えば不安もきっと取り除けます」
ソフィア姫は話しを聞いて頭が混乱しながら叫ぶ。
「アルと初めて会う!?」
アンナは作業をしながら答える。
「ええ……それよりもソフィア姫……アルベルト王子にもう愛称をおつけですか? でも……仲を深めてから愛称でお呼びした方がいいですよ。今日初めてお会いする方に愛称はまだ早いかと……」
ソフィア姫は言われて考えた。
(今日初めてアルに会うと言うことは私のこの姿は今8歳って事……どうなってるの? これってまさか時が戻った!?)
状況に混乱しながらも今の状況に応じてソフィア姫は子供らしく振る舞う事にした。
中庭にお茶会の準備ができたのでソフィア姫とアンナは中庭に向かう。
手入れがされた庭園に噴水とガゼボがある。
ガゼボの建物に丸いテーブルが用意され、テーブルは上質な白いテーブルクロスがかけてある。
テーブルの上に3段のケーキスタンドにケーキとクッキーとチョコレートが用意されていた。
あとはアンナが紅茶を出すだけになっている。
ソフィア姫は過去の光景そのままだと驚きながら思った。
(夢みたい12年前に戻ってる……今婚約破棄は無理よね……アルは婚約した時から裏切り者だったのかしら? いつから裏切り者なの? あーもう! そんな事はどうでもいいわ! 王国を火の海にされた! 卑怯な手を使うなら、こっちも卑怯な手を使わせて頂きましょう。今からアルベルト王子を暗殺する! 王国は火の海にさせない!)
ソフィア姫は国の為にアルベルト王子を暗殺するしかないと考えた。
姫はグッと拳を握る。
その時アンナがソフィア姫に声をかけた。
「ソフィア姫、アルベルト王子がお越しです。私は紅茶を用意してまいります」
裏切り者がきたらしい。
ソフィア姫は冷たい顔をしながら椅子に座りアルベルト王子を呼んだ。
「どうぞこちらですわ!」
アルベルト王子がソフィア姫にあいさつをする。
「初めましてエターナル王国第二王子のアルベルトと申します。お茶会にお招き頂き誠にありがとうございます。ソフィア姫にお会いできて嬉しいです」
アルベルト王子の容姿は漆黒の黒髪で瞳はルビーのように綺麗な赤色、肌は女性よりもきめ細かくて透き通るような白で美しすぎる。
微笑めば天使のような顔で7歳なのにミステリアスな色気を持っている。
老若男女を魅了する魅力的なアルベルト王子を見てソフィア姫は心がゆらいでいた。
(なっなっなっんて素敵な笑顔なの! そーよ! この男は異常に魅力的だった! しっかりしないと私!)
首を左右にフリ正気を取り戻す。
アルベルト王子の魅力に負けずにソフィア姫は素敵な笑顔で対抗しながら挨拶をした。
「こちらこそ初めまして、私トゥインクル王国第一王女のソフィアと申します。アルベルト王子にお会いできて私も嬉しいですわ」
ソフィア姫は恋していた過去を思い出して心の中で悔しく感じる。
(過去の私はアルに恋を……今更だけど裏切り者に恋するなんて凄く不愉快!)
ソフィア姫は歯を食いしばっていた。
アルベルト王子は凛とした顔で品良く座る。
それを見てソフィア姫はうっとりしそうになったが両手で自分の顔をパンッと叩いた。
アルベルト王子がソフィア姫の変な行動に驚きながら聞いた。
「ソフィア姫!? どうされました?」
ソフィア姫は苦笑いをしながら答えた。
「失礼致しました! 虫が飛んでいましたわ! もう大丈夫です……」
大丈夫ではない。
ソフィア姫の心は騒いでいた。
(一々行動が人の心を惑わする力がある! でもアルは裏切り者! 早く暗殺よ! テーブルにあるナイフで殺そう!)
アルベルト王子はクスクス笑いながら話す。
「そうですか。虫ですか? きっと虫はソフィア姫を花と間違えたのですね」
ソフィア姫はピクリと眉毛を上げた後に愛想笑いをしながら喜んだフリをしてお礼を言う。
「ありがとうございます。お世辞でも嬉しいわ」
アルベルト王子はソフィア姫の愛想笑いに気づきながら更に褒めた。
「お世辞ではありませんよ……ソフィア姫が綺麗だから花のような人だと僕が思ったのです」
その言葉を聞いたソフィア姫はナイフを掴みアルベルト王子に向けた。
ソフィア姫は唇を噛み締めながら思った。
(アルはいつも私を花のような人だと言った……アル何で裏切ったの!!)
ナイフを向けられている状況でアルベルト王子は度胸があるようで表情も変えずにソフィア姫を見つめる。
ソフィア姫は今は正常ではいられずに叫ぶ。
「裏切り者……私の王国を返しなさい!」
アルベルト王子はテーブルに両肘をつき両手で頬杖をした。
それから口を閉じたまま少し舌を出した。
その姿を見てソフィア姫はアルベルト王子が始めから裏切り者だと確信する。
ソフィア姫は睨みながら思いっきりナイフを投げた。
カンッとサルヴァにナイフが当たり遮られた。
遮ったのはアルベルト王子の執事のフォルトだった。
執事のフォルトは素早くナイフを拾い声をかける。
「失礼いたします。ナイフの滑りがよろしいようで、交換致します」
アルベルト王子は邪魔されてつまらない顔をしながら言った。
「フォルト、ナイフはもういらないよ。ソフィア姫は体調が悪いようだから休ませてあげて もう僕は帰るよ。ではソフィア姫、次は2人だけで楽しい時間を過ごしましょう」
アルベルト王子は笑顔で席を立ち去ってゆく。
ソフィア姫は暗い顔でアルベルト王子を睨みながら言う。
「次に会えるのが楽しみですわ」(絶対に殺す)
https://kakuyomu.jp/users/ebetennmusube/news/16818093079156829932
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