第26話 運営費

「さて、部員が四人まで増えてしまったので、まずはクラブの活動方針を決めようと思う」


 クロードが教室を見回しながら言うと、三人と一匹がきょとんとした顔でクロードを見る。

 メアリーが不思議そうに口を開いた。


「活動方針って、美味しい物を食べるんじゃないの……?」

「ショパンと二人の時はそのつもりだったんだけど、四人も部員ができるとなると、色々と考えなきゃダメだろ? メシを食うにも金がかかるし……」


 クラブを作ったからと言って、学園から活動費などが出るわけでもない。

 ご飯を食べたりするのには、自分たちでお金を用意しなければならない。

 クロードの話を聞いてアイラが頷いた。


「つまり、クラブの運営費をどうするかってことね」

「そうだ。クラブの運営形態としては、クラブ費を徴収する形か、クラブで稼いで運営費を作るか、そのどっちかが主流みたいなんだ」


 例えば『お菓子クラブ』なんかは、部員から運営費を徴収してお菓子の材料を買ったり、先生を呼んだりしている。

 逆に『筋肉剣術クラブ』は、筋肉の鍛錬と称して土木工事など筋力の要る仕事を手伝って、運営費を稼いでいるらしい。

 どちらにも善し悪しがあるため、どっちの方が良いとも言えない。


「皆はどっちが良いと思う?」


 クロードが問いかけると、ルシアンが手を上げた。


「それなら、俺に良い考えがある。冒険者として活動しようじゃないか」

「冒険者か……」


 冒険者はモンスターを狩って生計を立てている人たちのことだ。

 討伐依頼が出されたモンスターを倒すか、倒したモンスターの素材を売って金を稼ぐ。

 危険はあるが実入りも良いため、クロードのような田舎貴族学生のバイトとしては人気がある。

 定番の稼ぎ方だろう。


 クロードとしては悪くないように思えるが……アイラは頬杖をついて、不満そうに目を細めていた。


「私は反対よ。普通に部費を徴収する形で良いじゃない。クラブとして冒険者活動をする意味がないわ」


 アイラの意見も一理ある。

 クラブとして冒険者活動をする理由がないのだ。


「そもそも、クラブ活動の一環として活動費を稼ぐのは、入部希望者を増やすためよ。クラブへと入るのにお金がかかるのでは、どうしても敷居が高くなるからね……だけど、『グルメ研究クラブ』は新規部員を求めていない」

「つまり、部費を徴収しない理由がない。ってことか」

「ええ、その通りよ」


 クラブで活動費を稼ぐのは、新規部員を求めるためだ。

 そもそもの立ち上げ理由が、クロードとショパンの食べ歩きである『グルメ研究クラブ』は新規部員を求めていない。

 素直に部費を徴収する形式で問題が無いのだ。 


 しかし、ルシアンはまだ反論があるらしい。

 腕を組んでゆっくりと首を振った。


「まぁ待て。ただモンスターを狩って金を稼ぐわけじゃない。モンスターを倒したら素材が手に入る。それを調理して食べてみるのは、実に『グルメ研究クラブ』らしい活動じゃないか?」

「おぉ。それには私も賛成……!!」

「がうぅ……!!」


 メアリーとショパンは、じゅるりと涎を垂らしていた。

 ショパンは良いのだが、仮にも花の女子学生であるメアリーがそれで良いのだろうか……。


 まぁ、メアリーの残念女子具合は置いておいて、ルシアンの提案は悪くない。

 モンスターの食材はそこそこの値が張るが、自分たちで取ってこれるならタダである。

 他の素材を売れば、むしろ儲けることができる。

 儲けた金で外食もできるので、一石二鳥だった。


「うん。ルシアンの提案は良いんじゃないか?」

「四対一ね……分かった。今回は私が折れるわ」


 こうして『グルメ研究クラブ』の活動方針は決まった。

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