第25話 入部希望

「どうして、メアリーがここに……どこで『グルメ研究クラブ』について知ったんだ?」

「私の席は貴方の目の前。ショパンと話していたのを聞いていた」

「……なるほど」


 言われてみればそうだ。

 教室でグルメ研究クラブについて話していたこともあった。

 それを聞かれていたのだろう。


(いや、メアリーに入られるのは困るぞ……)


 原作でメアリーは、ルシアンの立ち上げたクラブに入っていた。

 こっちに入ったらストーリーが崩れてしまう。

 なんとか断らなければ。


 ちなみにルシアンの立ち上げるクラブは『モンスター研究会』だ。

 ルシアンがドラゴンについて調べるために立ち上げたクラブである。

 メアリーは『モンスターの味を調べる』という名目で入っていた。


(どう説得したものか……)


 クロードが静かに考えていると、先にアイラが口を開いた。


「ダメです。副部長として貴方の入部は認められません」


 なにやら、アイラが断る口実を見つけたらしい。

 アイラも面倒事に巻き込まれないためにも、クラブには人が居ないほうが都合が良いはずだ。

 ラスボスの貫禄を活かして、入部を断ってくれるのだろう。


「どうして?」

「メアリーさんの言動に問題が見られるからです。授業中にお弁当を食べる、オヤツを食べながら廊下を歩く、お菓子クラブに体験入部したさいにはレシピを改変して怒られたそうですね?」


 最後の話はクロードも知っている。

 ゲームでもお菓子クラブに入ろうとして追い出されていたはずだ。

 同じように問題行動を起こしていたらしい。


「こうやって聞くと、メアリーって超問題児だな……」

「だけど、私が作ったお菓子の方が美味しかった」

「味の問題ではありません。集団行動能力の欠如が問題なのです。そのような方をクラブに入れることはできません」

「ぐぬぬ」


 アイラの論破が決まった。

 メアリーはぐぅの音も出ないらしく、悔しそうにうなっている。

 これは入部が断れそうだ。


「……私は別にクロードが目当てじゃないよ?」

「は?」

「私はアイラさんみたいにクロード君が――むぐぐ」

「わぁー!? 何を口走ってるのかしら。この大食い娘は!?」


 メアリーが何かを言おうとすると、アイラは急いで席を立ちあがり口を塞いだ。

 才女の身体能力を活かした、無駄の無い動きだった……そこまで聞かれたくないことだったのだろう。

 いったい、メアリーは何を言おうとしたのか。

 クロードは首をかしげる。


「ど、どうして、そのことを――じゃない。変な勘違いはしないでくれるかしら!?」

「まぁ、ちょっと聞いて欲しい」


 メアリーは近づいて来たアイラの耳元で何やら囁く。

 クロードには、よく聞こえない。


「私は敵じゃない。むしろ、私を入部させてくれたらお手伝いができる」

「て、手伝い?」

「例えば、どこかにご飯を食べに行ったとしよう」

「グルメ研究クラブなのだから、そういう事もあるでしょうね」

「当然ながらショパンが付いてくるから、クロードとアイラは本当の意味で二人っきりにはなれない。だけど、私がショパンの面倒を見てあげれば、二人っきりになれる。こんな風にアイラさんの手伝いができるよ?」

「た、確かに……」


 ごにょごにょと喋る二人。

 クロードは疎外感を感じる。


「がうがう」

「ありがとう。やっぱりショパンは俺にとって一番の親友だ」


 『元気出せ』と、ショパンがクロードの手を舐める。

 俺にわしわしと頭を撫でると、ショパンはぐるぐると喉を鳴らした。


「わ、分かりました」


 アイラたちが大きな声で言った。

 どうやら、内緒話の結論が出たらしい。


「アイラさんの入部を認めましょう」

「いえーい」

「……どうしたら良いんだ。これは」


 まさかの入部許可。

 ラスボスとヒロインが同じクラブに入ってしまった。

 しかも『グルメ研究クラブ』なんて意味の分からないクラブに。


(こうなったら、ストーリーの行方は主人公であるルシアンに託すしか無いな)


 ガラガラガラ!!

 勢いよく扉が開かれた。デジャブである。

 嫌な予感しかしない。


 メアリーとアイラが扉の前から避ける。

 そこに立っていたのは――


「入部届を持ってきた。受け取ってくれ」


 やっぱりルシアンだった。


「なんでだよ!? お前は『モンスター研究会』を作ってドラゴンを調べれば良いだろ!?」

「なぜそのことを……まぁ、良い。たしかに俺はドラゴンを調べるためにクラブを立ち上げることを考えていた」


 ここまでの考えは原作通りだ。

 ならば、どうして『グルメ研究クラブ』に入ろうとしているのだ。


「しかし、身近にドラゴンが居るのだから、そっちを調べれば良いだろう。わざわざクラブを作る必要などない」

「がう?」


 ルシアンの瞳はガッチリとショパンをロックオン。

 それもそうである。目の前にドラゴンが居るなら、それを調べれば良い。

 しかし、ウチは『グルメ研究クラブ』なのだ。『ドラゴン研究クラブ』ではない。

 これ以上、ストーリーを壊さないためにも、ルシアンの入部は認められない……もう手遅れ感はあるけど。


「悪いが、ウチは『グルメ研究クラブ』だ。食に興味がない奴は流石に駄目だ」

「俺は食への興味はないが、『ドラゴンがどんな食べ物を好むのか』興味がある。クラブの活動から逸脱した行動は取らないように心がけるから、どうか入部を認めてくれ」

「ぐぬぬ」

「私の真似?」


 『グルメ研究クラブ』は学校に提出した活動内容に『食を探求』するとしか書いていない。

 下手に制限をしすぎると、後々の活動がやりにくくなると思ったからだ。


 その活動内容を参照するなら『ドラゴンの食を探求』するのも間違いではない。

 実際、ショパンに美味しい物を食べさせるために設立したわけだし。


 つまり、ルシアンの入部を断る正当な理由が無かった。


「分かった。メアリーとルシアンの入部を認める」


 こうして、ラスボスと主人公とヒロインが、変なクラブに入ってしまった。

 

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