第24話 部室

 その後、無事にグルメ研究クラブを結成したクロードたち。

 翌日の放課後には、割り当てられた空き教室へと向かった。


「おぉ、ここが俺たちに割り当てられた教室か……狭いなぁ……」


 そこは本当に小さな教室だった。

 少数の生徒だけを授業をするのに使われるのだろう。

 九つほどの机が並べてあるが、それでいっぱいだ。


 なんの実績もないクラブに、教室を貸してくれているだけでもありがたいのかもしれない。

 だが、それにしたって狭くて窮屈。

 クロードは平気だが、アイラは嫌がるだろう。

 『教室を変えなさい!』なんて文句を言われるかと、恐る恐る顔を見ると。


「まったくね。私が所属するクラブなのに、こんなに狭い部屋を割り当てるなんて……学校はふざけてるわね」


 なんて、グダグダと文句は言っているが……なぜか笑顔だった。

 セリフと顔が合っていない。

 よく分からないが、とりあえず機嫌が悪くなっているようでは無さそうだ。


 ちなみに、アイラは『こんなに狭いとクロードと体がくっついちゃうじゃない♪ まったく、ひどい部屋に決められてしまったわ♪』などと考えていた。


「好きに使って良いと言われてるので、とりあえず机を隅に退けてしまいますね」


 公国のお姫様に雑用をやらせるわけにもいかないので、クロードは一人で机を運ぼうと思っていた。

 しかし、クロードが机を持ち上げると、アイラはペアの椅子を掴んだ。


「こんな雑用はやりたくないけど……いちおう部員なのだから手伝うわ」

「あ、はい。ありがとうございます」

「がるぅ!」


 さらに、ショパンがクロードの持ち上げた机の下に潜り込む。

 机の下に頭を付けると、パタパタと羽を動かして持ち上げるのを手伝ってくれた。


「ショパンもありがとうな」

「がるぅ♪」


 二人と一匹で机を片付けると、あっという間だった。

 いらない机と椅子は隅に寄せて、一部の机を繋げて大きなテーブルのように配置。

 そのテーブルに向かって二つの椅子を並べて、とりあえずの部室は完成だ。

 机を片付けても教室は狭いし部室はしょぼいが、自分で模様替えをすると不思議な満足感がある。


 クロードは椅子に座ると、机にショパンを乗せた。

 すぐ隣にはアイラが座る。


「……あの、近くないですか?」


 あまり椅子の配置は気にしていなかったが、すぐ隣だと意外と近い。

 隣でなくとも、反対側にでも座れば良いのに。

 ただでさえ狭苦しい教室が、余計に狭く感じる。


「そうかしら、こんな物じゃない?」

「そう、ですかね?」


 アイラは動く気がないらしい。

 だが、ここでクロードが動くこともできない。


 例えば電車に乗って、席に座った時。

 隣に座っていた人に移動されたら、複雑な気持ちになる。


 ここでクロードが動くのは同じことだ。

 アイラに『私が嫌なのかしら?』とか怒られるかもしれない。

 別にアイラが隣に座っていても害は無い。ここは大人しく座っておこう。


 クロードが無駄な事に考えを巡らせていると、トントンと肩が叩かれる。

 なにか用事だろうか。

 アイラに振り向くと、アイラの細い指がクロードの頬をつついた。

 よくあるイタズラである。

 ……なんで?


(これは、どう反応したら良いんだ……)


 アイラが子供みたいなイタズラをしてくるとは思わなかった。

 まさか、かまって欲しいからイタズラしたなんて、ショパンみたいな理由でもないだろう。

 いったい、何を求めてこんなことを……。


 どう反応したら良いのか分からず、クロードは困惑。

 ジッとアイラを見つめていると、アイラの頬が赤く染まった。

 フイッと顔を背けてしまう。


「ところで、部員の募集はしてるのかしら?」

「ああ、いえ。ショパンと一緒に美味しいものを探すだけのクラブなので、特に募集とかはしないつもりです」

「そうね。それが良いわね」


 アイラは満足そうに微笑んでいた。

 人が少ない方が都合が良いのだろうか。


(ま、まさか、グルメ研究クラブを利用して国家転覆を企んでるとか……そんな訳無いか……)


 今のところ、アイラが悪いことをする素振りもない。

 このままだとストーリーはどうなってしまうのだろう。

 クロードとしては平和なほうが嬉しいのだが……。


 アイラが部員が少ない方が良い理由は、バッツみたいな面倒なのが入ってこないようにだろう。

 また、彼みたいなのに追いかけられたら嫌なはずだ。

 まぁ、アイラが居ると告知しなければ、グルメ研究クラブなんて変なクラブに入りたがる人は――

 ガラガラガラ!!


 勢いよく扉が開かれる。

 入って来たのは腹ペコヒロインことメアリーだ。

 メアリーは見せびらかすように紙を突き出している。


「入部希望」


 その紙は入部届。

 グルメ研究クラブに入りたがるような奴が居た。

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