第20話 クラブ選び

 情報部が使用している教室の前に行くと、長机の上にパンフレットが置かれていた。

 ちなみにパンフレットは無料ではなく、体感五百円ほどの値段で売られている。

 かしゃん。募金箱に硬貨を入れて、クロードたちはパンフレットを手に取った。


「ふーん。色々なクラブがあるのね……」

「俺とショパンは、美味しいものが食べれそうなクラブに入りたいんですよねぇ……お、『お菓子クラブ』なんてのがあるな」

「がうぅ♪」


 どうやら、皆でお菓子を作って食べるクラブのようだ。

 パンフレットの説明によると『著名なパティシエをお呼びして、最新の菓子について学ぶことができます』と書かれている。

 クラブのメンバーが女子ばかりなことに目をつむれば、理想に近いクラブかもしれない。

 ここに行ってみようかと、クロードが考えていると。


「そ、そこは駄目よ」


 アイラから待ったがかかった。


「なんでですか?」

「そ、それは……もう少しよく見て見なさい。ダメな所があるわ!」

「は、はぁ……」


 この人、勢いだけで押し切ろうとしてないか?

 クロードは疑問に思いながらも、お菓子クラブの説明を眺める。

 よくよく見直すと、思わぬところに落とし穴があった。


「うげ、クラブ費用高いなぁ……」


 クラブには活動費として、クラブ費を徴収している所もある。

 お菓子クラブのクラブ費は、めちゃくちゃ高かった。

 おそらく、高級な材料や著名なパティシエを呼ぶための費用なのだろう。

 クロードではとても入れない。


「たしかに、これは入れないなぁ」

「がうぅ……」


 しかし、お菓子クラブが駄目となると……他に食べ物に関係しそうなクラブは見つからない。

 園芸部で野菜を育てているくらいだろうか。

 しかし、異世界まで来て野菜を食べるだけなのもつまらない。


 パラパラとページをめくっても、良いのが見当たらない。

 めくるのを止めると、『筋肉剣術クラブ』のページに止まった。

 筋肉モリモリの生徒たちが、つまようじみたいに細い剣を握っている。

 いや剣が細いのではなく、生徒たちが太いのだろう。

 剣を振るより殴った方が強そうだ。

 剣、要らなくね?

 

「うーん。これってのが無いですね……」

「……いっそのこと新しいのを作るのはどうかしら?」

「クラブを作るんですか?」

「そうよ。パンフレットによると簡単にできるみたい。どうかしら?」


 新しく作るのは盲点だった。

 どのみち、何かしらのクラブには所属する必要がある。

 『筋肉剣術クラブ』みたいなのに入ってガチムチ共と汗を流すよりは、自分で作って緩く過ごす方が良いだろう。


「良いですね。グルメ研究クラブみたいなの作ってみようと思います」

「がう♪」


 ショパンもグルメ研究クラブが気に入ったようで、バッグから顔を出して喜んでいた。

 具体的な活動内容はまだ決めていないが、ともかく美味しい物が食べれて、のんびり出来そうなのを作ろう。


「どうやら、職員室に行けば申請用紙が貰えるみたいですね。早速、行ってみようと思います」


 パンフレットによると、申請用紙に必要な情報を記入すれば簡単に作れるらしい。

 ……これ、変なクラブが乱造されるんじゃなかろうか?

 いや、『筋肉剣術クラブ』なんてのがあるのだから、すでに乱造されているのだろう。


「そう、それなら私も行くわ」

「……え?」

「私も面倒なクラブに入るのは嫌だもの。貴方のクラブに入るわ」

「は、はぁ……」


 アイラが入ると注目されそうで嫌なのだが……断るわけにもいかない。

 そもそも、アイラは幽霊部員となって、クラブ活動をパスするつもりなのだろう。

 それが分かれば、注目はすぐに外れる……活動の障害にはならないはずだ。

 クロードはそう納得して、職員室へと足を向けた。


「ふふ、二人っきりのクラブ活動ね……」


 アイラの呟きは、クロードの耳には届かない。

 アイラは小走りでクロードの横に並ぶと、悪態を付きながら職員室へと向かった。

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