第18話 主人公
クロードはお弁当を食べ終わると、ちらりとアイラの方を見た。
まだ怒ってるだろうか?
(あ、怒ってるわ☆)
アイラは微笑みながらも、氷柱のように鋭く冷たい目をしている。
クロードが見ていることに気づくと、スッと席を立ちあがってカツカツと足音を鳴らしながら歩いてくる。
しかし、アイラがやって来るよりも早く、クロードの前に人が出てきた。
男子の制服がクロードの視界を生める。
誰だコイツ?
目線を上げると――
(しゅ、主人公じゃねぇか!?)
そこに居たのは、シュッとしたイケメンだ。現代日本ならホストとかに居そうである。
モブモブしたクロードの顔とは大違いだ。
お前、それ毎朝セットしてるの?
と聞きたくなるような、ツンツン頭をしている。
そんなツンツン頭はジッとクロードの事を睨みつけていた。
なんか、今にも殴られそうだ。
座ったままでは受け身も取りづらいので、クロードも立ち上がる。
「えっと、『ルシアン・リキュール』さんですよね。なんか、用っすか?」
「……俺のことを知っているのか?」
「まぁ、ツンツンしたイケメンが居るって評判ですから……」
「ツンツン……髪のことか……?」
ルシアンがツンツンしているのは髪形だけじゃない。性格もツンツンしている。
ルシアンはちょっと痛い俺様系の主人公なのだ。
「ちょっと、退いて貰えるかしら? クロードの用があるの」
しかし、主人公程度ではラスボス様は止まらない。
やって来たアイラは、ニコニコしながらも退けろと圧をかけている。
アイラは凍てつく波動を放った。しかし、ルシアンには効いていない!
「……なんだお前は?」
「私は『アイラ・モルト・ドラクロア』。隣のドラクロア公国から来ました」
「なるほど、隣のお姫様か。だが、コイツに話しかけたのは俺が先だ。お前は後にしろ」
「はぁぁ!?」
アイラさん、素が出てますよ。
ルシアンの不遜な態度に、アイラのイライラゲージが上がっていく。
思わず被っていた猫が弾き飛んで、中身の蛇が飛び出していた。
「私はクロードに大事な用があるの。早く退きなさい」
「俺だって大切な用事だ」
「あら、どんな用事かしら。言ってみなさい?」
「ふむ……」
アイラが問いかけると、ルシアンは考え込んだ。
そして『うむ』と頷くと、ガッ!!
クロードの肩を掴んできた。
「好きだ」
「……………………………はぁ!?」
まさかの告白である。
人生で――前世も含めて初めて好きだと言われた。
思わず胸がときめ――かないわ。
いや、お前は主人公なんだから、そこに居るヒロインとイチャコラしろよ。
そしてメアリーはなぜ我関せずでパスタをむさぼってるんだ。
この腹ペコめ!
「ちょ、ちょっと!? いきなり何を言い出すのよ!?」
なぜか、クロードよりもアイラが慌て始めた。
「俺の本心だ」
「本心だからって、男同士なのよ!?」
「ほう、オスなのか。だが性別は関係ないだろう」
ルシアンの愛は本物ようだ。
性別は関係ないと宣言。その言葉に、一部の女子が目を光らせた。
この世界にも
「関係ない……それなら………………私だって好きよ。なぜか分からないけど、初めて会った時から目が離せない」
アイラさんそうだったんですか!?
アイラの一目惚れ(?)宣言に、クロードの心臓がドキリと跳ねる。
今度は女の子からの告白だ。しかも、見た目は文句なしに美少女である。
あ、でも付き合ったら特殊なプレイに巻き込まれそう……。
ロウソク垂らして鞭でしばいてくるイメージが、クロードの頭から離れない。
「なるほど、それは奇遇だな。それなら二人で愛でるとするか」
「そ、それって三人でってこと!?」
「たしかに、飼い主を入れたら三人で愛でることになるな」
「は? ……貴方、何の話をしてるの?」
「ドラゴンだが?」
……ドラゴン――ショパンの話でした。
「がうぅ?」
ショパンは『僕の話?』とルシアンを見上げる。
見つめられたルシアンはニヤニヤと笑っていた。
笑顔がへたくそである。
そういえば、ルシアンはドラゴンが好きなドラゴンマニアだった。
始めに気づくべきだったのだが、パニックになって忘れていたクロードである。
(あれ、待てよ。ルシアンはドラゴンの話をしていたけど……アイラは?)
アイラはドラゴンの話だと気づいていなかったように見えた。
もしかして、本当に自分のことが好きなんじゃ……。
そう思って、クロードがアイラの顔を見ると。
「ええ、もちろん、ドラゴンの話ですね。私も初めて見た時から、とても可愛いと思っていました」
アイラは微笑みながら答えていた。
そこに『間違えて告白してしまいましたぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!?』なんてパニックを起こしている様子は見えない。
……クロードは全く気付いていないのだが、アイラは自身の手の甲を思いっきりつねっていた。
痛みによって無理やり平常心を取り戻しているだけである。
ごーんごーん!!
なんて話している間に、昼休みの終わりを告げる鐘が鳴った。
お話はここまでだ。
「クロードと言ったか。また後日、ドラゴンについて話しをさせてくれ」
「あぁ、はい」
ルシアンはそれだけ言って、スタスタと立ち去ってしまった。
なんともお騒がせな主人公だった。
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