第16話 唐揚げ

 始業式後の挨拶も終わり、無事に初日が終わった。

 アイラを迎えに、成績優秀者の集まる『Aクラス』に向かうと、クラスメイトに囲まれるアイラの姿があった。

 自身のクラスで白い目を向けられているクロードとは大違いである。


 微笑みながらクラスメイトに応答するアイラ。

 しかし、クロードを見つけるとパッと満面の笑みを咲かせた。


「ごめんなさい。従者が迎えに来たの」

「そうですか、また明日お話しましょう」

「また、ドラクロア公国のお話をお聞かせください」


 なんだか、お嬢様みたいな会話を繰り広げている。いや、実際にお嬢様なのだった。

 なんやかんやと別れの挨拶を終えると、アイラは小走りでクロードの元へ来た。


「遅いわよ」

「すいやせん」


 気がつけば先ほどの様な笑みは消えて、いつものスンとしたアイラに戻っている。

 笑っていれば、ただ可愛い美少女なのに。

 そんな言葉がのどまで出たが、黙っておいた。


「あのぉ、今日は一人で帰っても良いですか? ちょっと、買い物に行きたくて」

「買い物って、なにかしら?」

「ちょっと食材を買っておきたいんですよ。ショパンに作ってあげたくて」

「がうがう!」


 食べ物と聞いて、ショパンが嬉しそうに鳴いた。

 もちろん、ショパンに美味しいものを作るのも理由なのだが、もう一つの理由はあの腹ペコヒロインに仕返しをするためだ。


 日本の知識チートを利用して美味しい物を作り、アイツの目の前で見せびらかしてやろうと考えている。

 転生者舐めるな!


「そう、それなら私も行くわ」

「え、アイラ様も行くんですか?」

「どうせ、貴方は大してお金を持ってないでしょう?」

「まぁ、はい……」


 どうやら、お金を出してくれるらしい。

 実は賊を倒したことでアイラから報酬を貰っていたのだが、あまり無駄遣いもできない。

 払ってくれるなら乗っかろう。


 そうして、クロードたちは市場へと向かった。

 魔法学校が存在するこの街『ラムダラ』は、地方と王都を繋ぐ交易の拠点にもなっている。

 そのため市場には活気が有り、品ぞろえも申し分ない。


 すぐ隣では、アイラがそわそわとしていた。

 彼女はラスボスだがお姫様だ。

 下々が集まるような市場は初めてなのかもしれない。


「迷子にならないでくださいよ?」

「な、なるわけないでしょう!」


 そう言いながら、アイラは服の裾を掴んできた。

 強がったものの不安になったのだろう。

 離れないようにギュッと掴んでいる。


(作るのは……唐揚げで良いか。つか、それぐらいしか作れないわ)


 クロードの家事スキルは高くない。

 そこまで難しい料理は作れないので、簡単で美味しい唐揚げを作ることにした。

 そうなると、とりあえず選びたいのは肉なのだが……。


「安いよ安いよ! 新鮮なビッグサーペントの肉だ!」


 からんからん。

 呼び込みのベルが鳴った。

 ビッグサーベント。その名前には聞き覚えがある。

 デカい蛇みたいなモンスターだったはずだ。


「蛇肉かぁ……」

「がうがう!」


 ショパンが蛇肉を売っている店に興味を示した。よだれを垂らしながら、蛇肉を見詰めている。

 食べてみたいのだろう。

 クロードとしては、無難に鶏肉でも買って帰りたかったのだが……ショパンが言うのなら仕方がない。


「あれを買って帰るか」

「もちろん、飼い主にも作ってくれるのよね?」

「はい。喜んで作らせていただきます」


 そうしてクロードたちは蛇肉を購入。

 少し量が多くなったので、屋敷へと届けて貰った。

 その後も市場で、片栗粉の代わりに芋から作った粉や、醬油の代わりに使えそうな液体調味料を購入。 

 屋敷に変えると、厨房を任されているシェフに手伝って貰いながら『ビッグサーペントの唐揚げ』を作った。


「がうがう!」

「まぁ、悪く無いわね……」


 とりあえず作ってみた試作品なのだが、ショパンとアイラには好評だ。

 ショパンも皿に盛られた唐揚げを、ガツガツと食べている。

 男料理なためアイラの好みではなさそうだが、それでも美味しそうに食べてくれている。


 クロードも試しに一口。

 ビッグサーベントの肉は淡白だが、クセが無く食べやすい。

 味もしっかりと染み込んでいて、良い出来栄えだ。


(しかも、プロの手を借りたから見た目も美味しそうにできている。これなら、あの腹ペコヒロインに嫌がらせができるな)


 クロードは内心でクククとほくそ笑んだ。

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