第14話 初登校

 そして初めての登校日。

 昨日のうちに通学路を確認したクロードに、迷子になるような隙はない。

 朝ごはんを終えたクロードは、学校に歩いて行こうとしたのだが――。


「なにを言ってるの? 馬車で行くに決まってるじゃない」

「あ、はい」


 屋敷の前には馬車が用意されていた。

 これで通学するらしい。


 本来であれば、生徒の馬車通学は許可されていない。

 なぜなら、魔法学校の生徒には貴族が多い。

 その貴族たちが馬車で通学したら、学校の前が混雑してしまう。


 なので、普通は馬車通学が出来ないのだが、アイラは特別だ。

 なにせ『希少鉱物が発見されたことによって、国際社会での存在感を高めているドラクロア王国』のお姫様だ。

 留学生ということもあって、多少の我がままは押し通せるのだろう。


 カラカラと走る馬車に乗っていると、すぐに学校へ付いた。

 クロードが先に馬車から降りて、アイラをエスコートする。

 ちなみに命令されてやったことだ。


「あれが、ドラクロア王国のお姫様か。可愛いなぁ」

「意外と優しそう。友だちになれるかな……」

「隣に居る奴は地味だなぁ」

「使用人じゃない?」


 颯爽と馬車で現れたアイラは注目の的。生徒たちはアイラを見て、ざわざわと話し込んでいる。


 一方のアイラは、にこにこと笑みを浮かべながら馬車を降りていた。

 クロードに見せるような性格の悪さは鳴りを潜めて、まるで聖女のような微笑みだ。


 ゲームでのアイラは残虐な暴君としてラスボスに君臨するが、始めから悪役キャラとして出てきたわけじゃない。

 最初はこのように『クールだけど優しいお姫さま』として、ヒロイン面で登場していた。

 しかし、ゲームが進むほどに化けの皮が剥がれて、気がつけばラスボスの座に上っているのだ。


「クロード、行きましょう」

「あぁ、はい」


 今だって、ニコニコしながらクロードに話しかける。

 普通に美少女だ。とても可愛い。いつもこうなら良いのに。

 しかし、そんな不満を垂れても仕方がない。

 クロードは大人しく付き従うことにした。


「ショパン、行くぞー」

「がう!」


 パタパタと翼をはばたかせて、ショパンが馬車から飛んできた。

 クロードの腕までやってくると、すっぽりと収まる。


「なにあれ、可愛いー!」

「子供のドラゴンか……すげぇなぁ……」

「もしかして使い魔か?」

「ドラゴンの使い魔とか、将来安泰じゃん……」


 ショパンの登場によって、クロードまで目立ってしまった。

 あまり目立つのは嫌なのだが……これは仕方がない。

 ショパンと共に学校に通うと決めたときから、分かっていたことだ。


 アイラの後ろに付き従って、クロードたちは入学式に向かった。

 入学式は講義館と呼ばれる、コンサートホールのような場所で行われた。

 校長先生の話の長さは異世界でも共通だったが、ふかふかの椅子に座っていたおかげで苦ではなかった。

 

 入学式が終わると、各生徒は自身が所属するクラスへと向かう。

 ちなみにクラス分けは、入学時のテストの結果によって決まる。

 クロードは可もなく不可もなく。

 ちょうど真ん中くらいの成績者があつまるCクラスに配属となった。


「……そんな微妙なクラスに振り分けられたの? ドラゴンが居たのに?」

「テストの時は居なかったんですよ……」

「ふぅん……」


 アイラは不満そうにしていた。自分のペットが微妙なクラスに所属すると、自身の格まで落ちるとか考えているのだろうか。

 いっそのこと、捨ててくれると嬉しいのだが……いや、やっぱり止めて欲しいかもしれない。

 だってアイラの屋敷には、ふかふかのベッドと美味しいご飯があるから。


「休み時間には、私の所に顔を見せに来なさい」

「えぇ……」

「ご飯減らすわよ」

「はい……」


 飯を人質にされるとクロードは強く出れない。

 面倒だが、顔を出すしかないだろう。

 ショパンをギュッと抱きながら、とぼとぼと教室へと向かった。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る