第13話 ダブルベッド

 それから少しして、クロードはアイラの屋敷に付いた。

 ゲームでも攻略ステージとして登場したので見覚えがある。とても豪華で広い屋敷だ。

 流石は隣国のお姫様である。


「すいませーん」

「がうがう!」


 クロードは声をかけながら、ドアの横に付いていたベルを鳴らす。

 カランカラン!

 ベルの音が響くと、中からバタバタと音が聞こえてきた。


「い、いらっしゃい! 遅かったじゃない!」


 バタン!!

 勢いよく扉を開けて出てきたアイラは、クロードの顔を見るとパッと笑顔を輝かせた。

 しかし、すぐにスンとしたすまし顔に戻ると、こほんと咳ばらいをした。


「まったく、飼い主を心配させるなんてペットとしての自覚が足りないわ」

「はぁ……心配してくれてたんですか?」

「な⁉ か、飼い主としての責務よ。貴方だって、そのドラゴンが居なくなったら心配するでしょう!?」

「そりゃあ、まぁ」

「がう!」


 家族として一緒に過ごしているショパンと、罰として飼われるクロードでは違う気もするが……下手なツッコミは止めておいた。

 やぶから蛇どころか、ドラゴンが飛び出してくるかもしれない。


「ほら、部屋に案内するから付いてきなさい」

「うっす」


 アイラに案内されるがまま付いて行く。

 はたして、どんなところに住まわされるのだろうか。屋根裏か、犬小屋か、せめて屋根のあるところだと嬉しい。

 自身の住処に恐れていたクロードだが、案内されたのは普通の――いや、むしろ豪華な部屋だった。


「……手狭で悪いわね」

「いや、むしろめっちゃ豪華なんですけど……」

「がうぅ!」


 ショパンもテンションが上がって走り出した。

 そしてふわふわのペットに飛び乗ると、ぴょんぴょんとふかふかのベッドで跳ねる。


「すげぇ……ウチの硬いベッドとは大違いだ……」

「……気に入ってくれたなら良かったわ」


 アイラはツンと言い放ちながら、クロードに見えないようにホッと息を吐く。

 クロードがやって来るまでの間、悩みに悩みぬいた内装である。


 家具はきらびやかになりすぎないように落ち着いたデザイン、しかし物が良いため、高級感は溢れている。

 壁紙も張替えさせて、男性が好みそうなダークな雰囲気に整えた。

 そしてベッドは二人用の大きめサイズ。

 こんな大きいものは必要ないと頭では分かっていながらも、つい選んでしまったのは将来への妄想が止まらなかったからだ。


「特にベッドが大きいのが良いよなぁ……」

「うぇ!? ど、どどど、どういう意味!?」


 クロードの言葉に、アイラの心臓は爆発するかと思った。

 ドキドキと騒ぐ胸を抑えながら、グルグルと頭を回転させる。


(ま、まさか、いきなり連れ込まれるの!? だ、駄目よ。こんなムードもなにも無い状況で……いや、別に雰囲気が良ければ良いわけじゃないけど……そもそも、こんな奴のこと好きじゃないし――)


 などと考えながらも、頭の片隅ではこれからの事をシミュレーションしていた。

 しかし、そんな思考は全くの無意味だった。


「ほら、ショパンと一緒に寝ても広いじゃないですか。実家のベッドじゃ狭かったんですよねぇ」

「この……駄犬!!」

「……なんで怒られたの?」


 勝手に期待して、勝手に裏切られたのはアイラなのだが……だとしても、プライドが許さなかった。

 アイラはぷりぷりと怒りながら立ち去っていく。


「……なんで?」

「がうぅ?」


 クロードは首をかしげてショパンを見る。ショパンも同じように首をかしげていた。

 鈍感なオス二匹には、女性の気持ちが分からない。


 その後、部屋の整理などをしていると、あっという間に日が傾いていた。

 こんこん、と部屋のドアがノックされる。やって来たのは美人のメイド。夕食の準備が出来たことを知らせてくれた。

 夕食は食堂で取ることになっている。クロードが向かうと、すでにアイラが席に付いていた。


「飼い主を待たせるなんて、良い度胸ね」

「すいません。明日からは早く来ます……」

「ふん……」


 ちなみに、ショパンようの椅子も用意されている。

 子供が使うような高い椅子だ。

 ショパンをその椅子に乗せてから、クロードも席に座る。


「持ってきて」


 アイラが声をかけると、食卓に料理が並べられる。

 スープからメインディッシュまで、どれも美味しそうだ。

 しかし、もっとも凄いのは――。


「がうぅ!?」

「デケェ……なんだこの肉……」


 ショパンの前に置かれた巨大なローストチキンだ。

 鳥のモンスターを丸焼きにしたのだろうか、ショパンの体よりも大きい。

 ショパンは目を輝かせながら、ぺろりと舌で口を舐める。


「ドラゴンの飼育をするなら、これくらいの食事は用意するわよ……『ず馬を射よ』なんて言うしね」


 アイラは当然とばかりに微笑んでいた。もっとも、最後のほうはぼそりと呟いていたので、クロードには聞こえなかったが。


「がうがう!」

「あら、お礼でもしているつもりかしら?」


 ショパンは片手を上げながら、アイラを見た。

 たしかにお礼をしているらしい。


(ショパン……冗談かもしれないが、あの女はショパンを食べるとか言ったんだぞ……)


 しかし、ショパンは過去を気にしない。

 興奮しながら、目の前の食事にかぶりついた。

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