第12話 買い食い

 爆発騒音事件から、さらに数日後。

 クロードはガタガタと馬車に揺られていた。


「弟、ほら見て、あれが魔法学校のある街『ラムダラ』だよ」

「どれどれ」

「がるる?」


 クロードは姉に言われて、窓から外を覗く。アゴの下から、ショパンもひょっこりと頭を出した。

 窓から見えたのは大きな門だ。それをくぐると、石造りの家が並ぶ街が広がっていた。

 中心には城のような大きな建物が見える。あれが『ラムダ魔法学校』、明日からクロードたちが通う学校だ。


 ゲームでは何度も見た建物だが、生で見ると迫力のデカさだ。


「おわぁ、すげぇ……」

「がうぅ……」


 クロードの口から、思わず簡単の声が漏れ出る。

 ショパンも鳴いていたが、たぶんよく分かっていない。クロードの真似をしただけである。


 その後、クロードたちの乗った馬車は学校の方へと向かった。

 学校の傍には大きな屋敷がある。古いがよく手入れされた、格式のある建物だ。

 そこは学校が運営している寮の一つで、成績優秀な生徒だけが入寮することができる。


 ちなみに、クロードのような新入生は、入学時の試験によって成績を計られる。

 試験はショパンと出会うよりも前に終わっている。

 クロードの試験結果は平均より少し下だった。残念ながら入寮はできない。


「私はここに住んでるんだけど……弟はもう住む家が決まってるんだもんね……」

「まぁ……そうだな……」


 しかし、例え成績が良くとも、クロードは済むことができなかっただろう。

 数日前にアイラから手紙が届いたからだ。

 クロードはアイラが手配した屋敷に住むことが決まっているらしい。

 手紙には『使用人としてこき使ってやるから覚悟しろ』みたいなことが書かれていた。

 当然ながら拒否権は無い。


「弟が彼女持ちかぁ。なんか、遠い存在になっちゃったなぁ。あれ……なんか涙が出てきたよ……お姉ちゃんはぼっちなのに……」

「だから、そんなんじゃ無いって……ちょっと怒らせたから、お詫びで使用人をやるだけだ」

「そうだよね。弟は『俺、将来はお姉ちゃんと結婚する!』って言ってたもんね」

「一言たりとも言ってないよ。記憶を捏造しないでくれ」


 そんな冗談を言い合った後、クロードは姉と別れた。

 気は進まないが、自分の住処となるアイラの屋敷へと向かわねばならない。

 ちょうど、通学路も覚えられるため学校の近くから歩いて行くことにした。


「ショパン、俺から離れるんじゃないぞ。迷子になったら大変だからな」

「がう!」


 こう言っておかなければ、ショパンは食べ物の匂いに釣られてふらふらと行ってしまうかもしれない。

 もっとも、迷子になっても使い魔と位置を教え合う魔法があるのだが――そもそも迷子にならない方が良いだろう。


 さっそく、歩いていると良い匂いが漂ってきた。

 ショパンもクンクンと鼻を鳴らしている。どうしても気になるらしい。

 匂いの方角を見ると、どうやら市場が広がっているようだ。


「がうぅ……」


 ショパンがうるうると見上げて来る。

 匂いの誘惑に負けて、なにか食べたいのだろう。


「……まぁ、今日は軽くしか食べてないしな。ちょっとだけ寄ってくか」

「がう!」


 今日は朝から馬車に乗っていた。そのため、昼食も馬車でサンドイッチをつまんだ程度だ。

 お腹が空いても仕方がない。

 クロードたちは匂いに釣られて、ふらふらと市場に入って行った。


「市場は人が多いな……ショパンは抱いておくか」

「がう」


 人ごみに紛れて、ショパンとはぐれてしまうかもしれない。

 クロードはショパンを抱き上げて、市場を進む。

 てきとうに食事をしようと思ったのだが、あちこちに美味しそうな物があって目移りしてしまう。

 ショパンも興奮したようにキョロキョロと顔を動かしていた。


「お、アレなんてどうだ?」

「がう♪」


 クロードが見つけたのは、肉まんのような食べ物。

 蒸したパンの中に、肉が入っているようだ。

 ショパンも気に入ったようなので、クロードはその屋台に向かう。


「すいません。二つください」

「はいよぉ!」


 屋台のおじちゃんが威勢のいい声を上げて、肉まんっぽい物を紙に包んでくれた。

 クロードはそれを持って、道の脇に向かう。

 地面に包み紙を敷いて、肉まんっぽい物を置いた。


「お手! おかわり! お願い!」

「がう、がうう、がぅー」


 クロードの指示に従って、ショパンはお手とおかわりを決める。

 最後に両前足を顔の前でくっ付けて、後ろ足で立ち上がる。

 まるで『お願い』とするように、くっ付けた前足を振った。


 いつもよりキビキビとして見える動きは、気のせいじゃない。

 ショパンは食べ物のこととなると、三倍の速さで動けるようになるのだ!

 ※クロード個人の感想です。


「よし、食べて良いぞ」

「がう!」


 転生しても、相変わらず食ることが大好きなショパン。

 前世ではその食欲がたたって、ムチムチとした柴犬に育っていた。

 今ではドラゴンなため、どれだけ食べても太らないだろう。存分に食事を楽しんで欲しい。

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