第4話 契約
次の日。
朝ごはんを食べたクロードたちは庭に出てラジオ体操をしていた。
いつもはクロード一人だが、今日はショパンも一緒だ。
朝のラジオ体操は前世からやっている日課だ。
前世ではショパンも一緒に庭に出て、ラジオ体操の真似をして飛んだり伏せたりしていた。
今日からはまた一緒だ。ジャンプするクロードの隣では、ショパンもぴょんぴょんと跳ねていた。
「その変な踊り、毎朝やってて飽きないの?」
ちょうどラジオ体操が終わったころ、屋敷からリゼットが出てきた。
呆れたようにクロードを見ている。
ラジオ体操を知らないリゼットからすると、クロードは毎朝変な踊りを踊っている変人あつかいだ。
「踊りじゃなくて運動だって……」
「運動なら剣でも振れば良いのに」
リゼットは壁に立てかけてあった木刀を拾うと、ヒュンヒュンと振るった。
流麗に切り替わる
これが、剣舞というヤツなのだろう。
身内以外には人見知りをするぼっちコミュ障の癖に、無駄にハイスペックである。
「って、こんなことしてる場合じゃない……弟よ。ショパンちゃんと使い魔契約をしよっか」
「使い魔契約?」
使い魔契約とは、人間とモンスターの間で魔力の繋がりを作る儀式の事だ。
こうして人間と繋がりを作ったモンスターを『使い魔』と呼ぶ。
契約者と使い魔の間では魔力のやり取りが可能になる。
このため、使い魔を作ると契約者の身体能力が上がったり、魔法が強くなったりと色々な恩恵があるのだ。
「でも、使い魔契約って条件があるんじゃないか?」
使い魔契約をするためには、二つの条件がある。
一つは契約者とモンスターが契約可能な状態である事。
これは『契約者がモンスターよりも圧倒的に強い』か『モンスター側が契約を受け入れる』のどちらかの状態である必要がある。
クロードとショパンの場合は、前世から続く信頼関係があるため問題ないだろう。
問題になるのは二つ目。
使い魔契約には『
精霊石は使い魔契約で必須となる。しかも、一度契約に使うと粉々になってしまうため、再利用はできない。
魔力の溢れる洞窟の奥でしか見つからないため、入手難易度も高い。
手に入れようとすると、そこそこのお金がかかる代物なのだ。
「あらあら弟よ。お姉ちゃんを侮ってもらっちゃ困るなぁ」
リゼットがドヤ顔でポケットから出したのは白い鉱物。
まるで水晶のようなそれは、まさしく精霊石だった。
「な、なんで持ってるんだ!?」
「ふっ、こんなこともあろうかと……」
ふざけた態度のリゼットだが、精霊石なんて簡単に手に入る物ではない。
学生が手に入れようと思ったら、友達と遊ぶ時間を削って、必死に冒険者の仕事に明け暮れなければ買えないような値段だ。
(あ、いや。姉さんにはそもそも友だちが居ないのか……もしかして、寂しさを紛らわせるために冒険者の仕事に没頭してたんじゃ……)
なんだか、彼氏の出来ないキャリアウーマンみたいである。
もちろん、本人が仕事にやりがいを感じて満足しているなら問題は無いのだが、リゼットの場合はただの逃避だろう。
そう考えると、精霊石を持っていた理由も想像できた。
「もしかして、友達が出来ない寂しさを生めるために使い魔を……」
「うぇ!? ち、ちちちち違うけど!? そんなこと全然ないんですけど!?」
結婚できない人がペットを飼いだすのは、男女ともによく聞く話だ。
そしてペットに熱中するあまり、余計に恋人などできなくなるのである。
リゼットの場合は、作れないのは友だちだが。
「いいから! さっさと契約をする!!」
「あ、はい……」
ごまかすように、リゼットは強引に精霊石を渡してきた。
使い魔契約と言うと大仰だが、やることは単純だ。
精霊石を持ってショパンのおでこに押し当てるだけ。
モンスター側が契約を受け入れてくれなければ、服従させるための儀式が必要になるらしいが、ショパンとは必要ないだろう。
「いくぞ。ショパン?」
「がう!」
ショパンは『こい!』と首を上げた。
ゆっくりと精霊石をショパンのおでこに押し当てる。
すると、精霊石がまばゆい光を放った。視界を真っ白に染めるほどの強い光だ。
思わず目をつむる。そして、光が収まった時には精霊石は粉々に砕け散っていた。
「うわ、今の光なに? クラスの子がやってた時は、ちょっと光っただけなのに……」
「まぁ、ドラゴンだからじゃない?」
正確には裏ボス級のドラゴンだから。
ともかく、これでショパンと使い魔契約を結べたはずだ。
しかし、特に何が変わった感じもしない。
「これ、成功したのか?」
「さぁ……?」
姉弟が揃って首をかしげると、ショパンも真似をして首を傾けていた。
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