第3話 家族会議

 モブダーソン家では夕食は家族揃って食べるのが決まりになっている。

 料理の並んだ食卓に家族が揃った。


 父はクロードと同じような風貌だ。黒髪で地味な顔。とてもモブっぽい。

 一方で母は銀髪の美人だ。スタイルも性格も良い理想のヒロインみたいな女性だ。


 並ぶと不揃いに見える二人が、どうして結婚したのかはモブダーソン家の大きな謎である。

 父に聞いても分からないらしく、母に聞くとはぐらかされる。


「父さん、母さん、話があるんだけど……」


 ともかく、家族が揃ったところで、クロードはテーブルの下からショパンを抱き上げた。

 家族の視線がショパンに集まる。


「お、なんだ? とぼけた顔した犬だな。クロードにそっくりだ」


 父はハハハと陽気に笑った。

 リゼットの時と同じように、犬だと見間違えているようだ。

 それにしても失礼な父である。実の息子に向かって、とぼけた顔と馬鹿にしていた。

 一方で、母はしっかりと気づいているらしい。冷ややかな目を父に向けた。


「笑い事じゃありませんよ。よく見てください。翼が生えてるでしょう?」

「おう? 本当だ。犬じゃなくて、ドラゴンじゃないか……」

「クロード、その子はドコで拾ってきたのかしら?」

「森に落ちてました」

「へー、珍しいこともあるもんだなぁ」


 父はのん気に呟くと、パンをちぎって口に頬った。

 なんとも鈍い親父である。まだクロードの言いたいことが分かっていないらしい。


「それで、ウチで飼いたいんだけど……」

「ごふっ!?」


 父はびっくりしすぎて、喉にパンを詰まらせたようだ。

 バンバンと胸を叩く。


「はい。お水です」

「んぐぅ……ありがとう。悪いなクロード、ちょっと聞き間違えたみたいだ。もう一回、言ってくれるか?」


 聞き間違いだと思いたいらしい。

 父は水を飲み干すと、苦笑いを浮かべていた。


「ドラゴンを飼いたいんだけど」

「いやいやいや、無理だ。ウチにはドラゴンを養えるような余裕はないぞ。地方の貧乏貴族にドラゴンを飼えるような余裕はない!」

「お願い。俺もショパンと一緒に稼ぐから!」

「ショパンって、もう名前まで付けてるのか……」

「お父さん、私からもお願い。私も出来ることはするから」


 リゼットの加勢も入るが、父は良い顔はしない。

 眉を八の字に歪めて難しい顔をしている。


「しかしなぁ……クロードは、今年の春からは魔法学校に通うだろ? その時はドラゴンはどうするんだ?」


 現在、魔法学校は春休み期間だ。

 これが明けると、リゼットに続いて、クロードも魔法学校に通い始めることになる。

 しかし、魔法学校があるのはモブダーソン領から、はるか遠く。

 クロードは学校に通いながら一人暮らしをすることになる。


「向こうに連れてくつもり」

「大丈夫。使い魔を連れてる人は珍しくないし、容認してるアパートも多いから」


 貴族や冒険者には、使い魔としてモンスターを飼っている人も珍しくない。

 そのため魔法学校の存在する街では、ペットを許可している貸家も多いらしい。


「うーん。しかしなぁ……ドラゴンの子供なんて珍しい生き物、飼ってるだけで変な奴らに狙われるかもしれないし……」

「……飼っても良いんじゃないですか」

「え?」


 父は驚いたように母を見た。

 クロードとリゼットも顔を見合わせる。


 ドラゴンの飼育許可を取るにあたって、一番の障害となるのは母だと思っていたからだ。

 なんだかんだ甘い父は、お願い攻撃をすれば押し通せる。しかし、優しい見た目に反してリアリストで論理的な母を説得するのは骨が折れると想像していたのだ。


 それが、蓋を開けてみたらびっくり。母はあっさりと許可を出して父の説得に回った。

 どうしたのかと、家族の視線が母に集まる。


「クロードとショパンちゃんはお互いを信頼しあっているように見えます。先ほど会ったばかりなのに、不思議なことです」


 クロードは腕に抱いたショパンを見る。

 ショパンは『どうした?』とクロードを見上げていた。

 その瞳には一点のくもりもない。クロードを信頼しきっているのだろう。


「信頼できる友はそう簡単に出会えるものではありません。相手がモンスターだとしても、その絆は大切にするべきでしょう」


 母は言うだけ言うと、静々とお茶を飲んだ。

 モブダーソン家の大黒柱は父だが、実質的な運営権は母にある。

 その母が良しとしたのだから、これ以上の議論は無い。


「まぁ、母さんが言うなら……飼育許可!!」


 そうして、ショパンはモブダーソン家の一員として迎えられた。



 食事を終えて、家族団らんの時間を過ごした後。

 クロードは自室のベッドに寝転がっていた。お腹の上にはショパンが乗っている。

 少し重いが、この重みが懐かしくて安心する。


「よしよし、明日からはお前のご飯のためにも狩りを頑張らないとな……」

「がう!」


 ショパンは『任せろ!』っとばかりに元気よく鳴いた。

 今日は普通の犬くらいの食事で我慢して貰ったが、ショパンの本来の体の大きさを考えると足りないだろう。

 ドラゴンを飼うなら他にもお金はかかるだろう。一人と一匹で協力して稼いでいく必要がある。


「ま、お前と生きている程度にのんびりやっていくか……どうせモブなんだし」


 張り切りすぎても疲れるだけだ。自分たちのペースでやっていこう。

 ショパンのふわふわの毛を撫でながら、クロードの意識は眠りに沈んでいった。

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