冬と春
藤泉都理
冬と春
やれ日光が多い少ない、やれ風が強い弱い、やれ水分が多い少ない、やれ土が多い少ない、やれ土壌の栄養が多い少ない、やれ微生物が多い少ない、やれ虫が多い少ない、やれ病が多い少ない、やれ鳥が多い少ない、やれ植物が多い少ない。
接触テレパスによって思考を読み取り、時に要望通りに行動したり、時に要望を却下して喧嘩をしたり、時に虫や病によって蝕まれた身体を回復させたり、時に気分の悪い自分が回復させてもらったり。
夢を見ていたのだ。
この場を動けない、けれど、うんと長く生きてくれる君と、ずっと一緒に生きていける。
そんなわけがないのに。
夢を、見ていたのだ。
接触テレパスで思考を読み取れなくなった時。
多分、眠っているだけだと思った。
ふかい深い眠り。
思考を読み取ることすら不可能なほどに。
けれど。
一年、十年、三十年の月日が過ぎて、五十年にさしかかろうとした時。
ああ、これは、もう、目覚めない眠りに就いたのだと、悟った。
「君もぼくを置き去りにするんだね」
この別離は予定調和だったけれど。
恨みをほんの少しだけ、ほんのちょっとだけ、ぶつけることをゆるしてほしい。
幾重にも重なるかさついた分厚い皮に、ともすれば僅かにでも触れたら、幹も枝をも道ずれにすべてが塵と化して消えてしまいそうで。
本当は触れたかったけれど、グッと堪えて、その場を立ち去ろうとした瞬間。
何の予兆もない。
空は晴れ晴れとしていて、ひつじ雲二つだけ、悠々と泳いでいただけなのに。
本当に突然の出来事だった。
雷が君に直撃して、そして、炎を上げる暇なく、豪雨が襲いかかった。
ああ、最低だね。
黒焦げになってしまった君に、安堵してしまった。
塵とかして大地に消えてしまわず、形を留めてくれた。
今、接触テレパスを試みようとすれば。
君は言うだろうか。
さっさと壊してしまえ。
さっさと塵にして大地に戻せ。
怒って言うだろうか。
泣いて言うだろうか。
笑って言うだろうか。
優しく言うだろうか。
ごめんね。
ごめん。
夢を、見たいんだ。
いつか。
百年後でも構わないんだ。
時間をいくらかけてもいい。
時間なら掃いて捨てるほどあるんだ。
どうか。お願い。
また、回復して。
愛らしい純白の花を咲かせておくれ。
かぐわしい匂いをかがせておくれ。
冬に希望をもたらしてくれる君に、会わせておくれ。
ぼくは君に背を向けて歩き出す。
思い出話をいっぱい聞かせてあげるから、その間に、自力で、いや、ぼく以外の力を借りて、回復していてね。
ぼくはこうして、ひとりになった。
束の間だ。
予定調和である。
(2024.1.18)
冬と春 藤泉都理 @fujitori
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