第3話 真実
「またか」
ひなたに「うちに来るな」と言ってから少し経った。
ひなたはあの日から毎日来て駐車場からうちを覗いている。
だけど俺にはひなたと合う勇気がない。
ひなたは何も悪くない、悪いのは過去を清算出来てない俺だ。
「よく考えたら似てるよな」
言われてみたらだけど、顔立ちや仕草、今思うと名前も少し似ている。
「
陽葵とは高校で知り合った。
席替えでたまたま隣の席になり、それまではクラスの一人としか認識してなかった。
だけど陽葵は話しかけるなオーラを無意識に出してる俺に毎日話しかけてきた。
最初は挨拶、それから次の授業のこと、そして可愛い妹の話。
思い返してみたらその時にひなたの話を聞いた気がするけど、俺は適当に流して頷いていただけだから忘れていた。
実際最初はうざかった。
毎日毎日話しかけられて、しかも適当に相手されてるのに楽しそうで。
陽葵は俺と違って友達がいない訳ではない。
だから「俺になんか話しかけないで友達と話せばいい」と一度言ったことがある。
すると「初めて長文返してくれた!」と謎に喜ばれた。
その時はリア充特有の『陰キャに話しかけてその気にさせるゲーム』でもやっているのだと思った。
だけど陽葵はそれから話しかけてくる頻度が上がり、俺に付きまとうようになった。
移動教室の時や、昼休み、トイレに行こうとした時も付いて来ようとしていた。
だから「ゲームならやめろ、しつこい」と言うとしゅんとなり「私、あおくんと仲良くなりたくて。でもしつこいよね、ごめん……」と言われた。
いきなり愛称なことの一番驚いたけど、いつも笑顔な陽葵のこの表情が嫌だった。
だから俺はこの日から対話を始めた。
「あおくんは置いとくとして、なんで俺と仲良くしたい?」
「言いたくない」
「じゃあいいや、俺が踏み込むのは終了」
対話は終わった。
「あ、えと、言いたくないんじゃなくて言えないの」
「これが罰ゲームか何かだからか?」
「違うもん。あおくんの卑屈!」
「よく知ってるじゃん」
俺が卑屈なんてわかりきったことだ。
自分に自信がある奴がぼっちなんてやってない。
「それでゲームはどこまでやるんだ?」
「だからゲームじゃないもん! いじわる言うあおくん嫌い」
「そ、俺は周防を気になり出したけどそれなら仕方ないか」
陽葵は見てて退屈しない。
そこもひなたと似ているところだ。
「嘘、嫌いじゃないよ!」
「そっか、じゃあ周防がゲームをクリアするまでは付き合うよ」
「ほんとにいじわる。それとどうせ呼んでくれるなら名前がいい」
「……」
「まさか私の名前を知らないの? 酷い、お隣さんになって結構経つのに!」
「陽葵だろ?」
そう言うと陽葵が頬を膨らませて無言でポカポカと叩いてきた。
こうして俺は『反応の面白い女子、周防 陽葵』と仲良くなった。
だけどその後すぐに俺は高校を辞めた。
陽葵の友達、名前は確か……なんとか中に呼び出された。
「陽葵がお前に優しくしてんのただの罰ゲームだからあんまり調子に乗らない方がいいぞ」
知っていた。
そんなのは最初からわかっていた。
だけどあの時の俺は『裏切られた』という感情でいっぱいだった。
俺に優しいのは全部演技、話しかけてきたのも仕方なく。
最初からそう思っていたのに。
「あおくん、用事終わった? お昼食べよ」
無性に気持ち悪くなった。
興味のない相手に罰ゲームだからとここまで愛想良く出来ることに。
一番はそれを本気で信じていた自分に。
「もういいよ、無理させてごめん」
俺はそう言って鞄を持って帰宅した。
それからしばらく学校を休み戻る勇気が出ずに高校を辞めた。
全てがどうでもよくなって家を出てフリーターになった。
今なら、いやあの時もわかっていた。
陽葵がそんなことをしないと。
だけど疑心は無くならない。
「結局俺は……」
本当の意味で誰かを信用してはいけない。
いつかは裏切られるから。
「本当にごめん、ひ──」
そこでチャイムが鳴った。
ひなたかと思ったけど、ひなたはまだ駐車場に居た。
無視しても平気なものしか来ないから居留守を使おうとしたらチャイムを連打されたので仕方なく出ることにした。
「誰だって言うまでもないよな」
「あおくんのバカ!」
玄関を開けたら涙を流した陽葵に抱きつかれた。
「それはどれに対する罵倒?」
「全部! でも一番は陽咲を悲しませたこと」
陽葵が目を真っ赤にして俺を睨む。
「それは本当に悪いと思ってる。だから失礼」
「えっ、きゃっ」
俺は小柄な陽葵を抱き上げて部屋に連れ込む。
「あ、あおくん。私を捨てたのにやっぱり後悔が?」
「ひなたの為だ、ふざけてる陽葵に付き合う気はない」
「ごめんなさい……」
(あの時と同じ顔)
とりあえず陽葵の頭を撫でる。
「はぅ、ん? なんか慣れてる、陽咲で経験済みだな!」
「だから付き合う気はない。それで俺が陽葵を捨てたって話を詳しく」
「あおくんは陽咲みたいな小さい子が好みだっ……ごめんなさい」
ほんとにこれ以上は我慢が効かなくなりそうだったので陽葵を睨んだ。
「えっとね、
「山中……、そういえばそんな名前だったな」
俺に陽葵のことを話してきた奴。
「だけど私はあおくんを信じてたから無視してたの。だけどそしたらあおくん学校に来なくなって、学校では『逃避行』だって噂になってたの」
「俺はそいつから陽葵は罰ゲームで俺と接してるって言われた」
「信じたの?」
「違うかな、何も信じれなくなった」
山中の言葉を信じた訳ではない。
ただ陽葵の言葉を信じれなくなった。
「俺は陽葵の全てを知れる程付き合いが長くないから……」
ただの言い訳だ。
陽葵を悲しませて、泣かせて、それを自分のせいにしようとしてその実陽葵のせいにしている。
「幻滅したろ?」
俺なんかが陽葵と一緒にいる資格なんてない。
だからもう……。
「そっか、なら私が悪いや」
「なんでだよ」
「私が早く伝えてこうしてれば良かったんでしょ?」
陽葵はそう言って俺に口付けをする。
「私ね、ずっとあおくんのことが好きだったの。一目惚れってやつです」
陽葵が顔を真っ赤にしながら言う。
ここまでされても信用出来ない俺が嫌になる。
「あおくん、疑うならここで全裸になって私が清らかな身体だって証明するよ」
「信じた、だから服に手をかけるのやめて」
陽葵のジト目が笑顔に変わる。
「じゃあいいよ、次は陽咲」
「わかってる」
俺はベランダに出て駐車場に飛び出す。
「お兄さん!?」
驚くひなたを無視して抱きしめる。
「本当にごめん、ひなたは何も悪くないのに、陽葵だって何も悪くなかった。俺が勝手に裏切られたって勘違いして挙句に二人を悲しませた」
「お兄さんが元気なら私はそれで嬉しいですよ」
ひなたが慈愛に満ちた表情で俺の頭を撫でる。
「ひなたにお願いしたいことがあるんだけど」
「いいですよ」
「何も言ってないけど助かる。ひなたが居るから水やりサボって野菜達が死にそうなんだよ。食べるのと次世代を作るの手伝ってくれる?」
「もちろんです!」
そうして俺達は三人で種を買いに行き、種植えをした。
そして駄目になりそうなやつは収穫して三人で食べた。
みんなで食べるきゅうりはいつもよりも美味しく感じる。
女性不信になった俺は、少女と一緒にきゅうりを食べる とりあえず 鳴 @naru539
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