第26話 あの時のタヌキです

『では改めて僕の記憶を話しますね。先ほども話した様に僕は大昔に優弦さんの祖先の方に助けられたことがあります。もちろん、今の僕では無いのですが魂に封印されていた記憶が戻ってきた感じでしょうか。今よりも1000年以上前の話になると思います。ってわかりますか?わかりやすく言うと・・・』


「陰陽寮かな。俺も詳しくは知らないけど陰陽師の人が働いていた所だね。」


『ある時に陰陽寮ってどういうところだろう?と思って興味本位で行ってみたんです。でも間抜けな事に僕みたいな真っ白な動物が歩いていたので早々に捕まってしまったのですが、当時から白い動物は神格化されていたと言うか、ほら白い蛇とか白い狐だとか神様の眷属だとか言われていたんです。そんなに悪い扱いは受けなかったのですが、やはり見た目の事もあり陰陽寮で管理されるようになってしまいました。

 でも僕、山に帰りたかったんです。誰が待っている訳でもなかったのですが、すごく自分の山が恋しくて帰りたくて・・・。その時に僕を逃がしてくれたのがご先祖様だったんです。僕はいつか恩返しするつもりでしたが「もうここに近づいてはいけないよ。」と言われてしまい・・・それっきりでした。』


『そんな事があったんですね。』


『優弦さんと会ったのはたまたまと思っていました。でも、心の奥でモヤモヤというか、頭の奥で知らないけれど懐かしい記憶がある感じがありました。それが今になって晴れた感じです。』


「その方の子孫の優弦さんに打ち明けると言うのが記憶を戻すキーワードだったのかもしれないね。」


「確かに、戻ってくるなとは言っても気にはなってたと思うよ。それにしても、俺の先祖に陰陽師が居たとは知らなかった。吉との出会いも偶然では無いとしたら何かの力が働いているとしか思えないなぁ。」


『・・・怖いですか?嫌な気持ちですか?』


「そういうのでは無いよ。でも、だいぶ前からこの流れに巻き込まれてたのかと思うと、改めて協力する以外に選択肢は無いなって思っただけだよ。」


「祝寿吉は・・・おぉ戻ってる。毛の色、自由自在なの?白は汚れ目立つもんね。」


『昔の記憶を深く思い出そうとすると、ほら、白くなっちゃうみたいです。』


「まぁ見えるの俺達だけだし、どちらも吉に変わりないなら良いよ。」



 祝寿吉の話には驚きはしたものの自分の中でも腑に落ちたところもある。月兎の事情もどこかで吉や自分と繋がるところがあるのかもしれない。



「美月さん、日記の内容も教えてもらえたし予想外の事実もわかったし、お互い別々で調べる時間を取らない?もちろん必要とあらば勉強も教えるけど、公園は当分使えないし。リモートも使えば情報共有も出来ると思うんだよね。どうかな?」


「そうだね、いったん別で調べた方が効率良いかも。」


 こうして、しばらく二手に分かれて調べることになった。



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