第18話 あるカフェ店員の話①

 地方都市某所。


 駅近の隠れ家的カフェにて。



「ただいま戻りました」


 ランチタイムが終わった後、手が空いたので少し出掛けてきた僕は店主に声を掛けた。


「おかえり、葉ちゃん」


 店主と言っても見た目がほぼ同年代の彼がカウンターの中から返事をした。


「もう葉ちゃんは辞めて下さい。お父さん。」


「あはは、でもお店ではお父さんて呼ばない約束だよ、従兄弟設定なんだから。なんなら朔ちゃんて呼んでも良いんだよ?」


 こっちをチラッと見る姿が綺麗な顔にすごく似合っていて、嫌だ。


 そう、何を隠そうこの朔夜という男は正真正銘僕の父親だ。


 僕は名を葉月と言う。


 父の日記を渡されたのは高校に入った頃だ。

 母はただ『父さんはきっと生きている』としか言わなかった。僕が生まれた日から行方不明の父が死んでいるとは思わなかったが、生きているとも思わなかった。


 僕も結婚していざ父になるとなった時、いろんな想いが交錯した。

 日々大きくなっていく妻のお腹を撫でながら『お母さんと仲良くね。そして側に居られなくてごめん』と、心の中で伝えたものだ。

 誕生した日から会っていない娘も僕が日記を見た歳と同じ位になったのか。



 カランカラン♪


「「いらっしゃいませ」」


 ランチの波が過ぎても、アフタヌーンティーの時間はそれなりに賑わう。


「ケーキセット2つで。両方ブレンドでお願い」


 カウンターに座る常連のお客様から注文が入り、いつも通り朔夜がコーヒーを入れ、僕はケーキの準備をする。


「今日も麗しい2人に会えて、嬉しい!」


 カウンターでコソコソ話しているけれど、僕らにはまる聞こえだ。


「お待たせ致しました。ケーキセットを持ち致しました」


「「来た来た。美味しそうっ!」」


 声を揃える常連さんに、こちらも笑顔になる。


「葉月さんも朔夜さんも、ほんと美形だよね。お店がオープンしてから全然変わらないし。まさか、不老不死?」


「そうそう、そういえば会社の子が言ってた。『あのカフェの店員さん、彼女いるのかなぁ?』って。彼女居るんですか?」


「…やだなぁ。そんな事より朔が入れたコーヒーも僕が作ったケーキも美味しいうちに召し上がって下さいね。」


「「はーい、頂きます!!」」


 カウンター越しに朔夜と目が合う。お互い苦笑いだ。


『あぁ。そろそろ、潮時なのかもしれないね。』


『先程旅行誌も買ってきましたし、旅行の計画を立てて、休みに物件周りでもしましょうか』


 目を合わせれば声は聞こえる。


 何故かって?月兎の耳があるからね。

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