第16話 日記(6)

 目的の店である『紙匠』は小さい頃おばあちゃんや母に連れてきてもらい、和紙や千代紙、文房具を買って貰った思い出の店だ。


 日記帳を探していると

「せっかく鎌倉に来たんだし、たぶんこれからも来る気がするし…これ買わない?」


 優弦さんの手には2冊の御朱印帳。


「さすがにタヌキ柄は無かったから色違いでどう?」と、ウサギ柄の赤と紺色の物を差し出してきた。


「いいね!この後このまま二箇所くらい回ってから帰ろうか。時間大丈夫?」


 お土産があればうちはそこらへんは緩いから大丈夫!という返事を貰い、自分のは買うつもりだったのだけど優弦さんが『サプライズ?』と笑いながら既に購入済みの袋をくれた。


 私達は紙匠を出たその足で鶴岡八幡宮に向かうことにした。

 小町通りをそのまま歩いていくとお香のお店『天空堂』が見えてくる。鎌倉を歩くと懐かしい気持ちで一杯になる。

 無意識にお店の方を見ていた様で、寄りたい?と聞かれて気付いた。


「寄っても良い?」


「もちろん。ついて行きますよ。」


 お店に入る前からとても良い香を感じながら「わかりやすいんだよね、美月さん」と、くすくす笑う優弦さんを連れてお店へ入る。

 いろいろなお香の中から、白梅のフルーティーな香りを感じるお香とかわいいにおい袋を3つ買ってお店を出た。


 ふいに、そういえば…と優弦がつぶやいた。


「タヌキの本当の名前『しゅじゅきち』って言うんだって。知ってた?」


「え??シュジュキチ??」


「うん。祝・寿・吉らしいよ?何ともめでたい名前だよね。」


「うん、お祭り…お祝いみたいな名前。」


「そう思うよね。俺も聞いた時思わず吹き出しちゃって吉が物凄くへこんでた。」


「どちらの気持ちもわかるなぁ。」


 話しているうちに大階段の前に着いた。

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