第8話 真実に触れる時 (1)
「美月はコーヒーより紅茶だよね、ちょうど香の良いアールグレイを買ってきたの」
「ん、ありがとう。」
久しぶりにゆっくり話す時間があって、学校の事を話したり遠回しに優弦さんの事を友達として話したりした。
なかなか本題に入ろうとしない母に我慢の限界が来て「で、本題は?」と聞いてしまった。
そして母は言いにくそうに切り出した。
「お父さんねぇ、本当は生きてるんだ。」
「・・・は??」
「うん。お父さんは生きてはいる。ただ、帰ってこれないだけ。」
言っている事が全然わからない。
「頭の中グチャグチャでしょ・・・そうね、次の週末にでもおばあちゃん家に行きましょ。私も行くから。今日の話はここまでね」
「ちょっと待って。」
「ん~、たぶん今日これ以上話しても頭混乱するだけでしょ?週末にあっちでしっかり話すわ」
お風呂に浸かりながら考えた。
でも全くわからない。
今週一週間を混乱した頭でどう過ごせばよいのだろう?
死んだとも聞いてないけど、お父さんが生きてるなんて。
どこで?なにしてるんだろ?会えるの??
そもそも、何故いまになって母はカミングアウトしたんだ?
考えても答えは出ない。そういう時は、早く寝てしまおう。翌日からの一週間は友達に心配される位に上の空だった。何度「大丈夫?早退する?」と聞かれたかわからない。
優弦さんには今週末は鎌倉屋敷に行くからお勉強会は延期と伝え「了解!」と一言と可愛いタヌキの絵文字が返信されてきた。
そして土曜日。母は昨日は遅くまで残業をしてから帰ってきた様で私が寝るときにはまだ帰ってきていなかった。たぶん土日を鎌倉で過ごしたいこともあって仕事を詰め込んだのだと思う。
お父さんは生きているらしいけど、全く何をしているんだろう?と、改めて思う。
遅く起きてきた母と一緒にカフェでランチをしてから、私達は鎌倉屋敷に向かった。
「おば~ちゃ~ん、美月だよ!」
いつもの様に祖母はニコニコして待っていてくれた。
母も「今日はお泊りさせて頂きますね!」と言い、お土産を渡していた。
鎌倉屋敷は私が住んでいる所よりも空気が良い気もするし、時間がゆっくり流れている感じがして小さなころから大好きな場所だ。
祖父は私が物心つく前に亡くなった事になっている。遠い所にいるらしく母も祖父には会った事が無いという。
私はここに来た時から早く母と祖母から父の話を聞きたいと思っていたのを2人は解っている様で、「お茶でも飲みながらお話しましょうね」と祖母が言った。
祖母がお茶との『クルミッ娘』を出してくれた。クルミとキャラメルの香りが溜まらない私も大好きなお菓子だ。冷やしておいてくれたらしく、熱い緑茶とのバランスも最高だ。
「美月ちゃんはお母さんにどこまで聞いたのかしら?」
「お父さんが生きているという事しか聞いてないの。ショックというかビックリしちゃって今週は学校の勉強も頭に入らなかった。」
「あらら。それは御免なさいね。まぁ、気持ちはわかるけどね」
母はいたずらっぽく笑う。相変わらず暢気だと思うけどその表情が昔から好きだ。
「じゃあ長い話になるけど、おばあちゃんが一から話すからわからない事があったら教えてね。」
そう言って祖母は話し始めた。
「お父さんの事を話すのには、まずおじいちゃんの事から話さなくちゃならないわね。
私とおじいちゃんが出会ったのは、私が15歳の時の満月の夜。とても悲しいことがあって縁側で月を眺めていたの。本当にきれいな月で『月に行けたらいいのにな、そうしたらこんな気持ちにならなくて良いのに』と思っていたの。そうしたら、月から流れ星みたいなキラキラした何かが流れたのよ。次の瞬間空が曇って月が隠れて、嵐の様な雨が降ってきてね。慌てて家に入ったのだけど、庭を見たら綺麗な顔をした男の人が立っていたの、お化けかと思ったけど、足もあったし人だと思ってすぐに家に入るように言ったわ。
不思議なことにあんなに雨が降っていたのに髪も服も濡れていなくて、驚いたのを覚えているわ。
代々続く大きな家だったから、お手伝いさんが居たり人の出入りもあったし、その男の人もいつの間にか家で働くようになっていたの。今考えると何であんなにすんなり家で使ってもらえてたかも分からないんだけどね。
とにかく不思議な人だったわ。
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